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世界が滅びたので看板を片手に旅に出ます  作者: 雪野湯
第十九章 歩んできた世界

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第84話 問いと答えの始まり

「はぁ、はぁ、はぁ、疲れた~」

 階段を上り切った俺は光の広場に看板を挿して、その場に寝転んだ。


 息を整えつつ、宇宙を見る。

 激しい戦いの音は嘘のように消えて、今は散発する爆発音が聞こえるだけ。

「はぁはぁ、収束しつつあるってところか。はぁはぁ、喉が渇くなぁ」

「水が欲しい?」

「うん、欲しいけど。持ってるのか?」


 そう尋ねると、看板は満面の笑みの猫の顔を描いた。

「10リットルで1ポイントなりま~す」

「……1ポイント? あ、そうか。そういうことか。このための1Pだったんだな。あははは――っ! ごほんごほん」


「ほらほら、乾いた喉で笑ったら喉痛めるよ」

「ああ、そうだな。頼むよ、1P消費で水を」

「まいどあり~、1P消費で残りゼロポイントで~す」



 生まれ出た十本のペットボトルの内、一本を手に取って、それを一気に飲み干した。


「んぐんぐんぐんぐ――くはぁ! 生き返る!」

「おかわりはいっぱいあるよ」

「さすがに10リットルも飲めないって。さて――」


 飲み干したペットボトルをくしゃりと潰して、ポイッと捨てる。

「あ、不法投棄」

「細かいこと言うな。ここは宇宙だぜ」

「スペースデプリはこうやって生み出されるんだね」

「はいはいすみませんね。人類の罪ですよっと」



 俺は軽く手を振ってから、じっと自分の手のひらを見た。

「ポイントはゼロ。もう何もない。あるのは、この拳と――心だけだ!!」


 深淵の球体を見つめる。中には管理者がいるはずだ。


 看板を持ち上げて、肩へ置く。

「さぁ、行くぞ」

「気をつけて。中に入ると同時に、管理者の問いが始まると思うから」

「問い?」


「君が経験したことの答えを管理者は知りたがっている。だから……」

「そっか、あいつはそのために俺を作ったんだからな。そうか、それが知りたくて俺の誘いを受けたってところもあるのかもな」

「リョウ……」


 俺は左手を上げて、さっと振った。

「まぁ、いいさ。経緯はどうあれ、俺がここにいるのは管理者が俺を作ってくれたからだ。その礼に応えてやる。そうすれば、貸し借り無し。遠慮なく殴れるってもんだ!」


「そう……じゃあ、行くんだね!」

「もちろんだ!! とりゃあああ!!」


 俺は看板を片手に、深淵へと飛び込んだ。




――――――――――――――――

 球体に触れると、薄い膜のようなものが俺を包んだ。

 皮膚の下の血流まで触れられているような、不気味な感触。

 だが、張り付くことはなく、すぐに皮膚から剥がれ落ち、壁を突き抜け、内部へと到達した。



「ここは?」


 青い空。周囲は森。目の前には畑……ナス畑?



 豊饒な大地と太陽の光の恩恵を受けたナスが丸々と実っていた。

 そのナスたちは、俺に話しかけてくる。


「怖い、痛い、殺さないで……」

「どうして、私たちを殺すの?」

「あなたと同じように、生きたいだけなのに」


 言葉と共に、赤と紫色が混じり合う靄(もや)が俺の足元に絡みつく。

 俺は靄(もや)を振り払うように足を動かし、一歩、後ろへと下がる。

 そこには熟したナスが落ちていて、べちゃりという音と共に湿った音が響く。


「こいつらは……」

「最初の世界のナス畑だね。いや、想像が反映するこの球体の中で、君の罪悪感が生み出した幻影――いや、実像だ」

「実像?」


「ここにあるナス畑は本物だ! 君の想像……創造を受けて本物として存在している」

「創造? 俺が創ったっていうのか?」


「うん……ここに立つ君はもう、そういった存在に足を踏み入れつつある」


「俺が……?」

「管理者と会うために……君は確かに管理者をこの次元まで引きずり落とした。そして同時に、君自身も低次元領域から離れようとしている。互いに上り下りを行い、会談を行う最適な場所を生み出したってわけさ」


「それで真っ先に創造したのが、このナス畑?」


 ナス畑へ顔を向ける。

 畑からは俺に対する怨嗟の声が渦巻く。

 怯え、苦しみ、死を恐れ、生を渇望する。


 このナスたちはただ生きていたかっただけ。それを俺が刈り取った。

 そう、俺が命を奪った!!


 でも――


「……全てを受け入れて、ともに共存できる世界は楽園だろう。でも、そんな世界なんて存在しない。お前たちは病気だ。健康ななすびたちを脅かす病気。相容れない存在」


「わたしたちナスか、知性あるなすびかを選択したのはお前だ! お前がわたしたちをいらない命として判断した。そんな権利なんてないのに!!」


 この嘆きは正論だ。返す言葉もない。

 だけど、その正論を踏みにじる便利な言葉が存在する。そしてそれは、不変の価値観。


「弱肉強食……権利はなくとも、選ぶ力を持っていた。だから選んだ。なすびの王様たちを」

「わたしたちはただ殺されろというの!?」


「いや、そうは思わない。生きるためにお前たちも――」


――抵抗すればよいのだ――



「――誰だ!?」

 

 森の奥――木々の影から、静かな声が響いた。

 影へ視線を向けると、そこからなすびの王様と兵士たちが姿を現した。

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