第83話 紡がれる絆
螺旋の光が発射された場所へ顔を向ける。
そこにはこぢんまりとした窓が三つ並ぶ、未確認飛行物体――UFO!
地球でおなじみのアダムスキー型が、宇宙を鋭角に移動していた。
「こちら、ユニ! お兄ちゃん二号、メリットはいかが?」
※メリット=無線を使う際の明瞭度
直接脳に響く、ユニの声。
「良好だよ。さっきは叫んでたのに、今は直接脳に呼びかけてるな? どうやってるんだ?」
「エイとリアンのテレパスを借りてるの」
「まったく、下等な種族の脳と機能を共有とは」
「雑念が多すぎて、搬送波を整えるのが一苦労だ」
「二人は黙ってて! 私たちが暴れているうちにお兄ちゃんは行って!!」
「了解だ、ありがとうユニ」
「大したことないって。こっちも神殺しハイパーXの試験ができてラッキーなんだし! じゃあ、行くよ、エイとリアン!!」
「愚か者! 貴様が操縦すると――」
「またエンジンを、ぬぉおお!?」
UFOは宇宙を引き裂くように敵陣ど真ん中に飛び込み、全方位にウサギの形をしたミサイルを放っている。
「なんでウサギなんだ? それにしても、ちっちゃい船なのに神を殺せるんだな。さっきのも概念兵器ってやつ?」
「ううん、全力物理の攻撃」
「え、物理で神を殺せるの?」
「物理の粋を極めれば可能。あれは複数の次元を折り畳み、一つに集約して放つ兵器なんだ。多次元に同時に存在する神を、同時撃破するという兵器」
「なんだかよくわからないけど、すごいな」
さっきからわからないを連発してる気がするが……それは仕方がない。
一介の高校生の視点を超えた戦いが繰り広げられているんだから。
「ともかく、ユニが時間を稼いでくれている間に進もう!」
さらに進み、進み続ける――遠くにあった深淵の球体が、瞳を埋めつくし、ついに、その異様を現す。
それは、そこだけ何もないかのような黒。
「あと少し――」
ふと立ち止まり、視線を宇宙へ向ける。
「ユニの奴、無茶しすぎじゃないか?」
単艦で敵陣奥深くまで切り込んだせいで、周囲を囲まれ、身動きが取れなくなっている。
派手に行っていた攻撃もなりを潜め、敵の攻撃をかわすのが精いっぱいのようだ。
看板が静かに、文字を刻む。
「あれは、ちょっとやばいね。連邦の艦隊も相変わらず数で動きを抑えられてるし」
「ユニに回線を開けないか!? もう大丈夫だから逃げろって」
「こちらからは無理。それにもう、脱出経路を全て押さえられている。だから……」
「くそっ」
ここでの出来事はなかったことになる。
そうであっても、妹が死ぬところなんか見たくない!!
「あ、リョウ! ユニが何とか隙間をこじ開けた。あそこからなら!!」
雲霞の如く集まる船や神の中に、僅かな綻びが生まれた。
ユニの乗るUFOもそこへ向かうが――――突然、十隻を超える宇宙艦が目の前に現れた。
「そんな……」
「今のは次元転移! 並行宇宙からの……そうか、この状況を聞きつけてデータ取りに」
「ふざけやがって! 逃げろ、ゆにぃぃぃ!!」
十を超える光の線が船に命中した――――UFOではなく、敵の船に!?
光を放った存在は、俺たちの遥か頭上から降りてきた。
俺と看板は真上を見上げる。
「しろい、くじら? いや、船か!?」
白い巨鯨のような巨体が、星々の海を静かに切り裂いて進む。
重力波の尾びれが空間を煽り進み、乳白色の外殻は、淡く脈打つように輝いていた。
その姿は宇宙そのものが産み落とした、星々を泳ぐ神獣のよう……。
看板が驚きをもって、神秘を迎え入れる。
「これは驚いた……火星最強の船。第三艦隊旗艦インフィニティまで訪れるなんて」
「火星?」
「あの船は時空転移をしてきたんだよ。今から七百年後の船」
「未来の!?」
「そう。そして、七百年後……連邦の旗艦アルミラーデルウォンに匹敵する戦艦として、宇宙に名を轟かせる船なんだ」
「連邦に匹敵? そんな船が……」
インフィニティの後部にある重力波の尾びれが、星々の海を打つ。
不可視の波が広がり、衝撃が周囲にいた船を次々に飲み込み消し去っていく。
だが、それに臆することなく、複数の光の粒と船たちが、一斉にインフィニティに襲い掛かった。
すると、インフィニティの先端に角のようなものが生まれて、巨大な唸りを広げ始める。
「リョウ、自己認識を強く持って!」
「へ?」
「自分は自分だと強く心に描く! 早く!!
「わ、わかった! 俺は俺。俺はここにいる……」
光の粒と宇宙艦たちに向かって、角から落雷のような光が穿たれた。
雷によって、すべてが消失。
その光景を見ていた俺は、一瞬、自分の体が透けて見えた。
胸の奥が冷たくなり、指先の感覚が薄れていき、その場にうずくまる。
「うがぁっ。な、なんだこの、自分の存在を否定される感覚は?」
「抽象兵器 。連邦の顕在匪砲と同系統の兵器。ただ、否定の力が強すぎて、見るだけでも存在そのものに負荷がかかるんだ」
「や、やばすぎるだろ。その兵器」
「そうだね。そして、そんな危険な船が、僕たちに味方してくれたおかげで、趨勢は決した。この場は――支持者側の勝ちだ!」
「勝ち? ああ、そうか。連邦最強クラスの船が二隻もあるんだもんな。でも、なんで、未来の火星の船が? やっぱりデータ取り?」
「それもあるだろうけど、あの船の艦長とオリジナルのリョウが知り合いだから。それも関係してるのかも」
「知り合い? ――あ、そういえば、あいつがそんな話をしてたな」
<※第40話 考えてもわからないことは考えない>
『パラレルワールドの未来の火星人が上司になったりしたなぁ』
『その上司ってさ、異世界では町の治安を守る近衛騎士団だったんだけど、火星では宇宙艦の艦長なんだぜ。おかしいだろ、あははは』
――――――――
さらに――
『あ~、そうだなぁ、元上司に連絡くらいはできるか?』
――――――――
「あいつの、おかげか。そのおかげで未来のパラレルワールドから……」
「あいつ?」
「いや、なんでもない」
「そう? だったら、先に進もう!」
看板が前を見るように促す。
そうだ、俺がやるべきことは疑問じゃない。前に進むことだ!
「あと少し駆け上がれば……行くか」
「うん!」
俺はユニの乗るUFOを見る。
インフィニティのおかげで脱出できたようで、再び敵陣深くで暴れている……って、学べよ!! また囲まれるだろ!!
俺は見上げ、白鯨を思わせる火星の船を見つめる……小さな疑問を携えて。
「……そういや、なんで『火星の船』なの? 七百年後の『地球の船』じゃなくて? なぁ、看板」
すると看板は――
「ひ・み・つ♪」
「またそれかよ!!」




