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世界が滅びたので看板を片手に旅に出ます  作者: 雪野湯
第十八章 星々の世界

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第82話 連邦流のけじめ

 階段を駆け上がっていく――二分後!


「つ、疲れた……」

 異様に長い階段を前に、足ががくがく。言うことを聞かない。

 肩に抱えている看板がこう表示する。


「雑魚すぎ」

「はいはい、どうせ雑魚ですよ! ったく、なんで会場までの階段がこんなに長いんだよ!」


 左右に分かたれた、神と大艦隊の中心に浮かぶ深淵の球体。

 そこへ届く階段は、先が霞むほど遠い。

 看板はこの理由を書き記す。



「会場は心の力が支配する場所。想いが具現する場所。その場は虚数と実数が微睡(まどろ)み溶け合う場所。そんな場に不用意に飛び込めば、物質世界の君に負担が生じるから、その慣らしが必要なんだよ」


「ん? よくわからんが、海に入る前に、体を水に慣らせってことか?」

「そう。この道を先に進めば進むほど、世界の深度が濃くなる。だから、ゆっくり近づくことで慣らしていくのさ」


「理屈はわかったけど、なんで階段なのかがわからねぇよ!」


 見上げても見上げても終わりが見えない。もはや階段というより嫌がらせ。

「あのさ、エスカレーターでもよかっただろ? なんで階段?」

「……それは」


 言い淀む看板。理由があるようだ。

「なんだ、言ってみろ」

「怒らない?」

「ああ、怒らないから」


「えっとね、言われてみれば階段である必要ないよね! てへぺろ」


「ふざけんなてめぇ! 無駄に疲れる仕様にしやがって。ポイント行使! エスカレーターに変えろ!」

「使い切ったのでないです。余ってるのは1P」


「なんで1Pだけ残って――っ!!」



 近くで激しい閃光が放たれ、僅かに遅れて衝撃と爆発音が階段にぶつかってきた。


「ぐああ! 耳が! ちょっと、熱いし!!」

「近距離で船が爆発したようだね」

「マジかよ! 衝撃はともかく、なんで音まで……あ、ヤマタノのせいか! もう、余計なエフェクトつけやがって。耳がいてぇよ」


「リョウ! 船が五隻、こちらへ向かってくる。耳を塞いでいて」

「え!?」


 俺たちのいる階段に向かって、タンカーほどの大きさの宇宙艦が迫ってきた。

 しかし、階段の周りに配置された概念兵器とやらが光線を放ち、三隻を轟沈させた。



「まだ二隻残ってるぞ、看板!」

「防衛ラインを突破された。だけど、問題ない! 三時の方向!!」


 宇宙で三時の方向って何だろうと思いながらも、今いる場から三時の方向を見上げた。

 そこには……


「な、なんだ、あの巨大な宇宙艦は……」



 その姿は、巨大な馬の蹄鉄を思わせる、無骨なU字型の戦艦。

 湾曲する船体の中心――虚空に浮かぶ真紅の球体は、見る者を圧倒する洗練された美しさを放っている。

 

 それは戦艦というより、宇宙に浮かぶ『城塞』。

 周囲を固める他の宇宙艦が、まるで砂粒に見えてしまうほどの圧倒的な質量。

 超弩級の巨躯をもって、その戦艦は漆黒の宇宙に鎮座していた。


 

 深紅の球体から光球が放たれる。それが三隻の宇宙艦に触れると、一瞬にして消滅してしまった。

 そこには、爆発音も残骸も……いや、そこに宇宙艦があったはずなのに、その光景そのものが頭から零れ落ちていく。


「い、いまのは……?」

「顕在匪砲(レゾンレイン)……存在を否定して世界から消失させる、連邦の神殺しの兵器」

「連邦?」

「あの船は現在の時間軸において、宇宙最強の船! 連邦零艦隊旗艦・アルミラーデルウォン。ミシャ=ロールズのオリジン。ミシャ最高評議長の船だ!!」



 深紅の球体が明滅する。

 その明滅は、次第に深紅の光を満たしていき、次は球ではなく線となって、相対する靄(もや)たちに向かって放たれた。

 靄(もや)に当たると、その中心から同心円状の衝撃が広がり、ぽっかりと穴が開いた。


「な、何が起こったんだ?」

「神が消失したんだよ!」

「はい?」

「あの兵器は神の存在すら否定して、完全消失させる兵器。三次元の認知から完全に消し去ることで、この次元における存在そのものを消失させる兵器なんだ」



「よくわからんが、神をやっつけたわけね。すげぇ……」


 素直に感動する俺を置いて、看板は小刻みに柄(え)を揺らし、俺の手に震えを伝えてくる。

「これが、連邦の戦い方。正面からではなく、神という存在概念をこの次元から消し去ることで、結果的に神を無効化 ……これは、管理者にすら届く――牙」



――足止めをしています。あなた方は早く球体へ――



 直接脳へミシャの声が届く。

 いや、ミシャの声だが、これは俺の知るミシャではなく、オリジンの声なんだろう。


「ああ、了解だ。看板、震えてないで行くぞ」

「うん、わかった!」


 疲れを投げ捨てて、階段を駆け上がっていく。

 防衛ラインをすり抜けた船や神が俺たちへ襲い掛かろうとするが、そのたびに、俺を支持する神や船やミシャが守ってくれている。



 だけど――

「これはまずいね、リョウ。あれを見て!」

「どうした? ――おいおい、ありゃないだろ!」


 不支持派の神々と艦隊の多くが、アルミラーデルウォンへ集中砲火を浴びせていた。

 支持側の神々や連邦艦隊も防衛に加わっているが、敵の猛攻はそれを遥かに凌駕していた。


 自分たちの犠牲も考えずに、まるで特攻のようにアルミラーデルウォンに立ち向かう。

 アルミラーデルウォンのあちらこちらに火柱が上がり、火花が膜のように包み込む。



 看板は文字を揺るがせた。

「ここぞとばかりに、旗艦に襲い掛かってデータを取ろうとしているんだ。神も種族も」

「どうせなかったことになるから、命と引き換えに?」


「そういうこと。でも、真に恐ろしいのは連邦。あれだけの攻撃にさらされているのに……現状、無傷」


「マジかよ! 見た目は派手にやられているようにしか見えないけど」

「シールドの周囲がそうなっているだけだよ。でも、爆発の余波で一時的に目を奪われた、あれだと動けない」


「あの場から抜け出すことはできないのか?」

「できるだろうけど、あえて動かない選択をしているように見える」

「え?」



 看板は猫の目を映し出して、ミシャの船を見る。

「連邦最強の船。それは謎のベールに包まれる兵器。神も数多の種族も、その秘密に興味を示す。だから、囮としてはこの上ない」

「つまり、攻撃を引きつけるつもりで、動かないでいるのか!?」


 空を見上げ、ミシャの船を見つめる。

(もしや、俺に対する詫びのつもりで……)


 ミシャは、自分の船を犠牲にしてでも俺を通す覚悟を決めたのか……?

「なぁ、看板……ミシャは秘匿とする技術が漏洩する危険を承知で、動かずにいるのかな?」

「……かもしれない。だけど、全ての神や種族が彼女の船に興味を示すわけじゃない。ミシャが動けないなら当然――!!」



 看板が矢印を指した。

 無数の光の粒たちが、こちらへ向かってきている。

「あれは――神か!」

「そうだよ!」

「防衛兵器は!?」

「敵は創生神クラス。止めるのは不可能! ――えっ!?」



 その時、星の彼方に、一筋の流れ星が流れた。



――させるかぁあぁああ! 神殺しハイパーエェエエェックス! うてぇええええ!!――



 ヤマタノの演出か!?

 宇宙に木霊する――ユニの声!!


 声の響きに呼応して、宇宙を貫く螺旋の光線が光の粒たちに当たる。

 触れた粒は風船が弾けるように、形を持たない無機質な残渣(ざんさ)となってしまった。

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