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世界が滅びたので看板を片手に旅に出ます  作者: 雪野湯
第十八章 星々の世界

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第80話 開戦!

「それ、そんなに気にしなくてもよいぞい」

「うわ、びっくりした!?」

 

 さっきまで看板をからかっていたアスカが、突然下から覗き込んできた。

「な、なんだよ、急に?」

「いや~の、人死にを気にしてるようじゃったから、気にするなとアドバイスをじゃな」


「ぜんっぜん、アドバイスになってない! 五兆だぞ! 俺が管理者を殴ると決めただけで五兆人が死ぬんだぞ」


「死ぬが、死なんから大丈夫じゃ」

「はい?」


「皆、それがわかっておるから、ここに集結しとるわけじゃからな。のう、ミシャ」

「ええ、ノーリスクで神々の黄昏(ラグナロク)を引き起こし、種族もまたノーリスクで神へ挑戦できる機会など、まずありませんから」


「二人とも、何を言っているんだ?」



――始まりがなくなれば結末がなくなるというお話ですよ、リョウさん――


 

「この声はミュールか?」

「はい」


 青いブラウスに白いエプロン。

 栗色のツインテールを留める青と赤の相克の宝石の髪飾りを輝かせて、彼女はそこに立っていた。

 幼さを残す黒の瞳に俺の姿を映して、話の輪郭を形作っていく。


「低次元存在が管理者を殴る……それはあってはならないこと。行えば、そこに修正が入ります。殴れなかったとしても、管理者はあなたという失敗の記録を消去するでしょう。つまり、初めからあなたがいなかったとして、世界が再構成されるということです」



 

 ミュールから答えを聞いて、胸の奥で何かが音を立てて切れた。


 俺は神と思われる靄や光の塊、そして宇宙船を睨みつける。

「どう転んでも、美味しい情報だけを手に入れられるから集まってるわけか――人をダシにしやがって!」

「それでもあなたと管理者が会い、さらに殴るとなれば不確定要素となります。ですから、不支持者はポーズではなく本気で反対してますよ」


「だけどさ、そいつらが俺の邪魔をしまくっても、結局は美味しい情報が手に入るんだろ! 余計腹立つわ!」



 考え方の違いで、あいつらは本気の殺し合いを行う。

 でも、どう転んでも問題なく、あいつらは手に入れにくい情報を手に入れられてホクホク。

 邪魔された俺だけが大迷惑という構図。


「がぁああああ! あんな連中のために少しでも悩んだ俺がアホじゃん!!」

「じゃから言ったじゃろう、気にせんでいいと」

「わかりにくいアドバイスをありがとう、アスカ様!!」

「うむ、よきにはからえ」


「その言葉、ここで使うのは間違ってるだろ」

「よいのじゃ。なんか、大物感を出したかっただけじゃからの」



「ああああ~もう、疲れる……」



 決戦前にどっと疲れを帯びる。

 これ以上、相手にしてたらやる気がそがれてしまう。

 俺は気合を入れなおすために頬をパン、パンと二度打つ。


「よし! 切り替えだ! 問題ないってなら、派手にやらせてもらうさ! 看板!」

「いつでも大丈夫だよ」


「それじゃあ……」



 天を見る。神々と人々が戦争を前に、静かな疼(うず)きを見せている。


 視線を天から人の場所、地へと降ろす。


 メルは俺に向かって小さく頷いた。

 ミシャは無言のまま佇む。


 ミュールは布の敷物を敷き、その上にお弁当や飲み物を置く。

 すでにアスカは敷物の上で足を投げ出して、たまごサンドを頬張っている――行楽気分かい!!



 最後に看板を見つめ、短く言葉を渡した。

「頼む」

「了解! 会場生成、管理者への招待状発行。使用ポイント五千万!」


 

 

 左右に分かたれた陣営の中央で、星々の光をも圧(あっ)する黄金のコインたちが渦を巻く。

 そこから感じられるのは、勇気と優しさ。これは――勇者と魔王の想い!


 黄金のコインは静かに震え、まるで勇者と魔王の声がそこに宿っているかのようだった。

 その震えはやがて、強大な黒い球体へと凝縮していく。

 

 黒は光すら捕らえ、外へと逃がさぬ、完全にして絶対の闇――宇宙の胎動すら飲み込むかのような、深淵そのものの黒。


「会場生成完了! リョウが歩む道の構築開始。多重次元シールド生成。防御力を強化! 概念装備を配置! 迎撃能力を強化! 使用ポイントは――一兆千億三千万!! 道を通すよ!!」



 白銀のコインが群れをなして現れる。

 黄金よりも遥かに多く、宇宙(そら)を覆いつくし、鈍く輝く。

 その輝きには、悲哀、裏切り、苦痛。そして、歪んだ願い。

 

 穢れを帯びた白銀は、この地から真っ直ぐと漆黒の会場へと続く一本の道を描き出す。

 コインは幾度も瞬(またた)き、やがて光の階段へと姿を変える。

 階段の要所要所には、砲台と思(おぼ)しき防衛兵器が備え付けられていた。


 それらが整うと、両陣営は同時に動き始める。


 無数の光の線が飛び交い、一瞬にして宇宙艦の数十隻が轟沈した。

 靄(もや)や光の塊の一部も、消失している。

 爆発音が響き渡り、巨大な火の玉が暗い宇宙を輝かせ、鼓膜と瞳に痛みを与える。


「くっ! 戦争が始まりやがった。でも、なんで――?」

「どうしたの、リョウ?」

「いや、なんで宇宙空間なのに、爆発音が響いてるんだろうと思って」



――吾輩の宇宙では音が鳴るの~――



「この、間延びした声は――ヤマタノか!?」


 振り返ると、思った通りヤマタノ。

 真っ黒なゴスロリ服にマリンキャップを被って、サングラスをかけている。右手にはメガホン。


 どこぞの巨匠監督といった姿で、のしのしと偉ぶりながら歩いてきた。


「吾輩がエフェクトをつけてるの~。迫力ある映像には迫力ある音響が不可欠なの~」

「そ、そうか。まぁそうだけど……わざわざどうも」

「えっへん、なの~。むむ、そこぉ! 今の爆発、情緒が足りないの~! もっと情熱的に散るの!!」


 爆発霧散する宇宙艦に向かって、むごいダメ出しをしている。

 いくら全てナシになると言っても、それはどうなの……?



 宇宙(そら)の戦いは激しさを増し、船だけではなく神々も霧散していく。

 視線を下ろすと、メガホンを投げ捨てたヤマタノがアスカとフルーツサンドの奪い合いをしている。


 一方は、荘厳に戦う神。

 一方は、食い意地に争う神。


「神って……何なんだ?」



「もぐもぐ、神が何か知りたいようじゃな。良かろう、語ってやるとするかの」

「いや、結構。戦争始まっちゃったし、問題ないと言え、犠牲があるのは嫌なんで」


 と言ってるのに、アスカは指についたクリームを舐めとり、神を語り始める。

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