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世界が滅びたので看板を片手に旅に出ます  作者: 雪野湯
第十八章 星々の世界

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第78話 さぁ、行こう

――草原


 

 ただ一つ残っていた穴ぽこは消えた。

 この広大な草原を見渡せば、俺と看板。そして、ベッドや調理道具がぽつんと佇んでいる。

 さらには、勇者が欲しがったウッドデッキやテーブルセットなど……結構、物があるなぁ。


 気がつけば、ずいぶんと賑やかで、多様な生活の痕跡が草原に残されていた。


 時間にして、わずか半年足らずくらいだと思う。

 けれど、そんな短い月日であっても、形としてここに残るすべてが、俺と看板で一歩ずつ築き上げてきた、確かな歴史の証明だった。



 その愛おしい歴史たちの真ん中に、白い猫の獣人・メルの姿があった。


「メル!」

「これはリョウさんに看板さん」

「どうしたの? 遊びに来たの?」


「いえいえ、遊びに来たわけではありません。空間を司る猫の一族、その魔女王であるミーニャ様から勅命を拝受し、こちらへ参ったのです」

「勅命?」


「はい……」

 

 メルはどこか遠くを見つめると肉球と肉球を合わせて、蕩けるような声を生んだ。


「ああ~、私のような下級役人がミーニャ様に直接お会いできるなんて~。お声まで戴けるとは~。あのりりしくも愛らしい姿。威厳の中に秘められた萌えが実に素晴らしく~~」


「あの、メルさん。帰ってきて」


「あ! 失礼、感動が感情を熱情して感銘なんです!!」

「だから、帰ってきて……」



「ああ、そうでした! ゴホン、ミーニャ様の御前にて拝命しました。それはリョウさんを会場となる場所へ送り届けることです」

「送るって……まだ、俺はどこにするかって決めてないけど」


「その場所は連邦が選定しています。大規模の介入があるため、通常の場所では被害が出る可能性を考慮し、何もない宇宙域を選んだようです」

「……大規模の介入? それってやっぱり、神?」



「はい。ですが、それだけではありません。高度な文明を持つ種族の方々も、これを良い観測の機会だと捉え、続々と集結しています」


「なんか、見世物になってない? 俺たち……」

「そうかもしれません。おそらく、数億年に一度あるかないかの出来事。そのため、お祭り騒ぎの状態ですね」


「う~ん」


 こっちは意地と誇りと存在理由。そして、ツォアルの人たちの未来を賭けての戦いだってのに、なんかムカつく。


「ま、文句を言っても仕方ないか。じゃあ、メルがそこまで道を?」

「はい……では、どうされますか? 私はいつでも構いませんが?」

「そうだなぁ……」



 ゆっくりと顔を上げて、緩やかに見回した。



――草原――



 俺の故郷。

 そこにはベッドと看板しかいなかった。

 ここで勇者や魔王と過ごして、メルと過ごして、看板とケンカして、自分を見つめることができた。

 

 ここから離れたら、もう、同じ場所には戻ってこれない。

 そう、管理者に会うというのは、今あるすべてを手放すということだ。


 ベッドを押して、その柔らかな感触を指先から心へと浸透させる。

(管理者を殴れたら、俺は……ここに居てはいけない存在になる)


 二度と、ここへは戻れない。

 勇者や魔王やメルにも会えない。


 ミュールやアスカやヤマタノにも。

 柚迩(ゆに)やユニ……そして、リョウにも。



 風が吹くたび、草原が波のように揺れた。

 その音を聞くのも、これが最後かもしれない。



――だけど、管理者を放置できない

――あいつは過ちを繰り返すはずだ



 犠牲は……俺と看板だけで終わりにする――



「メル、今すぐ行こう。道を頼む」


 

 メルは無言で頷き、俺は看板を肩に置いた。

 看板も何も言わずに、ただ握った柄(え)から高ぶる熱を俺に伝えるだけ。

 

 魔導杖(まどうじょう)の先端にある、紫の宝玉に光が宿り、肉球を描く。

 肉球たちは光から飛び出して何度も弾むと、一つとなって、巨大な肉球となった。

 肉球は激しく回転を始めて、周囲の空間が歪んでいく。

 

 その歪みが俺たちを包むと、一瞬の光ののちに、宇宙空間の上に俺たちは立っていた。

 

 足元は透明で何もない。

 だが、足の裏には確かな硬さを感じて、そこに床があることを示す。

 顔を上げる。


 無限の星々を呑み込む漆黒の宇宙を、一閃の亀裂が引き裂くように走り抜ける。

 その境界を挟み、巨大な靄(もや)や光の塊が渦巻きながら蠢いている。


 その靄(もや)の中に、数え切れないほどの宇宙船が浮かんでいた。

 それもまた左右に分かれて、睨み合っている。



 不意に、背後からコツコツと床を鳴らす音が響いてきた。

 振り返ると、そこにいたのはミシャだった。

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