第71話 心の力を剣に変えて
賑やかだった場に静けさが押し寄せて、風鳴りだけが音を生む。
俺は気分を入れかえるように、大きく背伸びをした。
「う~~~~んっと――さて! 俺らも草原に帰るか、看板!」
「うん。でも、一つだけいいかな?」
「なんだ?」
「これからどうするの?」
「目標はただ一つ、管理者に会って殴る! だけど、問題は相手が高次元存在なので殴れない。そこで――管理者を俺の舞台まで引きずり降ろす!」
「どうやって?」
「――ポイントだ!」
「え? だけど、ポイントをいくら積んでも……」
「わかってるさ、意味がないって。だからそのポイントで……管理者との会談の場を用意する!」
「会談の場所?」
「そうだ! そして、その会談の場所は俺たちの次元。つまり、管理者も俺たちと同じ次元に現れるってことだ」
「この次元に? でも、それだけじゃ……」
「ああ、わかってる。それだと、足らない。そこで、あの半球体のように……想いが反映する場所として、会談の場を用意するんだ!!」
管理者を、三次元存在として具現させる。
それでも、女神やアスカのように強力な存在だろう。
だけど、その場所が、心の力が支配する世界であれば――――ん、これは!?
――ふと、脳の奥に火塵が舞い、その塵に小さな記憶が宿る。
その記憶と共に、俺だけの記憶が交差する。
交差した記憶は、『リョウ』の――あいつの声を響かせた。
『そこは……想像が反映する世界。多くの人々の想像が創造となって表れ、有の世界を築き上げているという不思議な世界なんだよ』
無と呼ばれる世界。そこは想像が反映する世界。
そこであいつは、想像を創造に変えて、巨悪に打ち勝った。
想像……そう、それこそが心の力――。
俺はそっと、自身の胸に手を添えた。
「あとは俺の心が勝るか、管理者の心が勝るかの勝負……」
戦いへの熱がぐつぐつと煮えたぎり始めた。
だけど、看板が一抹の不安を口にする。
「リョウ。その招待を、管理者が受けるとは限らないよ」
「必ず、受けるさ」
「どうして、そう言い切れるの?」
アスカはこう言っていた。
『管理者は、俺の元となった少年が接触したことをきっかけに、少年の心を元に自我を形成した』
つまりは、俺と同じ性格。
だから、俺はこう答えを返す。
「俺なら、受けるからだ」
俺は善人ではないし、だからと言って悪党ってわけでもない。
人並みの正義感はあるけど、必要ならいかさまや詭弁も弄する。
お行儀の良い正攻法だけで、立ち回るキャラじゃない。
そんな歪んだ性格をしているからこそ、今まさに噛みつかんとする弱小存在が大枚をはたいて会いたがっていると聞けば、そいつが何をのたまうのか興味を抱いてしまう。
俺の中にある、そういった底意地の悪い部分が、この誘いを受けろと囁く。
その好奇心には、『俺たち』は抗えない。
看板もまた、その根底に俺や管理者と同じ心を宿している。
だから、俺の答えをすぐに受け入れた。
それでも、看板は文字を震わせて、迷いを見せる。
「だけど、心の強さも高次元存在である主、管理者の方がずっと上だよ」
「うん、そうだろうな。でも、これが唯一対抗できる手段なんだ。心を剣に、盾に……いや、盾は不要だ! 全ての力を剣に集約させて、斬る! 防御は必要ない。意味がないからな」
「リョウ……」
剣が折れれば、俺の敗北という戦い。
後ろには何もなく、ただ前へ突き進むしかない戦い。
だからこそ、剣に力を集めるしかない。
――それでも届かない?
フフ、届く届かないなんて意味のない話だ……届かせるしかない。
届かせることでしか、覆せないんだ!
管理者に、拳を叩きつけるためには!!
看板は軽く体を振るう……やっぱりこいつ、自分で動けるよな。
というツッコミは控えて、木目に浮かぶ文字を読む。
「……このままどこかへ行く、という選択肢もあるよ。管理者は、君一人に固執しないと思う」
「それは新たな俺を生み、同じことをすればいいだけだからだろ」
「……うん」
「そんな犠牲、俺が許すと思うか?」
「思わない」
「やられっぱなしで、へらへら笑うような男に見えるか」
「ないね」
俺は指をパチンと跳ねる。
「はは、じゃ決まりだな! さて、会うためのポイントはある。だけど、会場を用意するためのポイントがない。それを稼がないと」
肩に置いていた看板を手前に持ってきて、お互い向き合う。
「なぁ、看板。管理者を引きずり出して、心の力が支配する会談場所を用意するのに、どの程度ポイントが必要なんだ? 10万か? それとも100万か?」
「5000万ポイント」
俺は一度、両目をごしごしと擦る。
「……あ、ごめん。読めなかった。何ポイントだって?」
「5000万」
「うそじゃろ?」
「ほんまじゃろ」
「マジで?」
「マジです」
「はぁああああ!? なんだ、その桁違いのポイントは!! 会うのに100万はどこに行った!?」
「その100万ポイントは、こちらから高次元の存在に拝謁しに行くって形だから、ポイントは低め。だけどリョウが望むのは、高次元存在に対してお前から来いって形だから」
「庶民が王様を呼びつけるようなもんだから、非礼でその分ポイントが高いってか?」
「その通り。それに加えて、特殊な会談場所の用意となると、最低でも5000万ポイントは必要なんだよ」
「嘘だろ。そんなポイント、どうやって稼げば……」
心の力で立ち向かうと覚悟を決めたのに、その心があっさり折れそう。
足元から力が失われ、膝が地面に着きそうになる。
だけど、看板が不思議な数字を浮かべる。
「だから、残り100万ポイントを稼がないと。あと100万で5000万なんだから」
「……はい?」
「ふふ、じつはね、勇者と魔王から、4900万ポイントを譲渡してもらってるんだ。自分たちには不要なポイントだから、リョウのために役立ててくれって」
「は、いつの間にそんなことに? ――あ、そういや別れ際に、お前ら目配せしてたな!」
「うん、してた」
「なんで俺に黙ってたんだよ!?」
「さぷら~いず、を演出してみました」
「う・ざ・い!」
俺は看板にチョップを何度もかます。
しかし相手はノーダメージ。むしろこっちの手が痛い。
「ほんと、無駄に頑丈だな!」
「連邦製だからね。神でも僕を傷つけるのは難しいよ。だから君じゃむ~り~」
「そりゃすげぇな!」
「あはは、それにこの頑丈さは、君を守るために必要なものだから」
俺はチョップをやめて、代わりに手のひらを看板の上に置いた。
「それは、感謝してる」
「僕もそうだよ。助けようとしてくれて、ありがとう」
「ふふ、それじゃあ。あと100万、サクッと稼ぎますか!」
「うん、頑張ろう!!」




