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世界が滅びたので看板を片手に旅に出ます  作者: 雪野湯
第十五章 SFの世界

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第70話 戦友との別れ

――展望台



 音もなく、空を移動する船の影が落ちる度に、地面の模様が微かに変化する。

 幾重もの影が重なり、地面の模様は絶えず姿を変えていた。


 

 俺が展望台に戻ってくると、すでに勇者・魔王・メルが待っていた。

 その中で、魔王の様子がおかしい。彼は空を見上げたまま、固まっている。


「浮遊の力を持った魔石を、ミスリルで強化増幅すれば浮かぶことはできる。推進力は、石炭と魔石の粉を混合したもので得られる。これで空を飛ぶには十分だろうが、宇宙となると……う~む、必要な軌道速度は空気抵抗と重力ロスを含め……」



 魔王は俺が戻ってきたことに気づかず、なにやらぶつぶつと呪文のようなものを唱え続けていた。

 

「ねぇ、勇者。魔王はどったの?」

「こちらの宇宙艦とやらに触発されて、同じようなものが作れないかと考え中なんだよ……」



 そう言って、彼は両手を上げて肩を竦めた。


 自動ドアの時も油圧がどうのこうのと言ってたけど、魔王はこういう技術的なものが好きなのだろうか?

 だけど――

「作れるの?」


 と、勇者とメルに尋ねる。

 勇者は自分に聞くなとばかりに片手を振り、メルは立場上答えられないと言ってきた。



 勇者が魔王の肩を強く叩く。

「おい、リョウが戻ってきたぞ!」

「――っ!? ああ、そうか。リョウ、あれを見てみろ」


 そう言って、魔王が飛行船のような形をした宇宙艦を指さす。

「あの推進機構……美しい。魔力を高密度の光粒子へと昇華し、多層展開された魔導陣の斥力(せきりょく)によって超高速で射出している。なんと、素晴らしい船だ」


 いつもの冷静さはどこに行ったのか?

 魔王の瞳は、乗り物を見つめる少年の目そのもの。



 勇者がパンッ、パンッと二度手を打ちながら魔王へ話しかける。

「戻ってこい、魔王!」

 音にびっくりした魔王は、慌てた様子でこちらへ振り返り、取り繕う。

「あ、ああ、わかっている。ごほん……リョウ、そろそろ別れの時間だ」


 魔王は勇者へ軽く視線を振った。勇者はこくりと重々しく頷く。

「私たちはこれからメルへ道を作ってもらい、私たちの神へ会いに行く」

「そこで、我々の存在継続を認めてもらうつもりだ。だが、交渉が決裂すれば……」


 二人は静かな闘気を纏い、剣の柄(つか)に手を置き、魔導の杖をグッと握る。


「そっか、今から……上手くいくことを願ってる。決裂したとしても、二人なら切り抜けられるさ」


「ああ、ありがとう」

「こちらも、貴様の旅路を祈ろう」


 別れを前に、勇者の手が微かに震える。だけど、剣の柄(つか)をぐっと握ることで自分の感情を封じた。

 魔王もまた、杖を強く握ることで己を隠す。

 

 短い間だったけど、俺たちは、別れを惜しむほどの仲間となっている。



 メルは俺たちの様子を見つめ、柔らかな微笑みを浮かべると魔導杖(まどうじょう)を掲げた。

 石製の台座の上に、黄金と紫が溶け合う渦が生まれる。



 二人は共にそこへ向かうが、途中で振り返った。


「リョウ、短い時間だったけど、君との出会いは素晴らしいものだった」

「多くを学ぶことができた。それは少なからず――いや、大いに我らへ影響を与えた」


 勇者と魔王は歩みを止めることなく、笑みを浮かべた。

「異界を巡り、様々な価値観に触れた」

「そしてこの旅を通して……互いを知る機会を得た」


 勇者が軽く片手を上げる。その動きを受けて、魔王も自然と手を伸ばす。

 二つの手のひらが空中でぴたりと向かい合い、そのまま勢いよく触れ合った瞬間、『パンッ』と軽快な音が弾けた。



 別れの間際に二人は一度、看板へ目配せをした。

 看板は何も語らず無言。

 なのに、二人はなぜか笑みを見せて、視線を外し、渦へ向き合う。

 そして、そのまま振り返ることなく、渦へと身を投じた。



 渦は消え、風が舞う台座だけが残る。


 メルは魔導杖(まどうじょう)を下ろすと、俺に向かって小さな会釈を行う。

「私は空間の整理のために、少しばかり連邦に残らなければなりません。ですので、ここでお別れの挨拶を……とても短く、あまり会話も行えませんでしたが、あなた方との出会いは、とても実りあるものでした」


「実りか……そう言ってくれると嬉しいな。俺もメルと、もっといっぱい話したかったよ」

「僕のために連邦への道案内をありがとう、メル」


「ふふふ……本当に寂しくなりますが、名残の時間は短い方がよろしいでしょう。それでは、失礼します」


 メルが魔導杖(まどうじょう)を振るう。姿は虚ろとなり、やがては消えた。

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