第7話 光は新たな命を育む
気を取り直して、スイッチに触れる。
そして、逆方向に動かすと、重々しい見た目よりも簡単に動かせた。
――ガッチャン
想像通りの音が響く。
途端、世界が真っ白になる。
「うわっ! 目が!!」
スコープがなくても、暗闇に慣れきった瞳に飛び込む太陽のような光は、あまりにも強烈すぎた。
俺は両眼を押さえて、ゆっくりと指の隙間を開け、光に慣れさせようとした。
だが――――耳に届く恐ろしげな音が、それを許してくれなかった。
「ぎゃあああああああ!」
「な、なに!?」
悲鳴が響き渡る!
俺は白に染まる視界の中で目を細めながらも、周りを見渡した。
すると……。
「ああああ、灼けるぅぅぅ!」
「からだが……とけて……いくぅぅぅ……」
人の形をした影たちが悶え苦しみ、ジュウジュウと髪の焦げる匂いを振りまきながら倒れ込み、呻き声を放ち、ドロドロとなって消えていく。
「――なっ!? 一体何が起こってるんだ!?」
この声に看板は、感情の色がない、淡白な文字をゆらりと浮かべた。
「影たちは闇の中で存在するもの。光の下では存在できないからね。こうなるよ」
「……は?」
「この闇の世界は失敗した世界。だけど、人のために用意していた魂の断片に、影が宿り、彼らは生まれた。でもこれは、この世界の神の意思に反するもの。だから、処分する」
「処分って……」
俺は真っ白な世界を、二つの瞳に映した。
そこには何もなく、影たちの悲鳴も、彼らが苦しみ放っていた鼻を突くような匂いもない。
「みんな、いなくなった……」
俺の体は崩れ落ち、両膝を地につけた。
「俺のせいで……俺がスイッチをつけたから……」
「気にする必要はないよ。コンピューターで言えば、バグみたいなものだから」
この熱も通わぬ淡々とした言葉に怒りを覚え、俺は看板を両手で掴み上げた。
「ふざけんな! バグだと! 彼らは苦しんでいたんだぞ! しゃべってもいた! 動いていた! こんなの、こんなの……虐殺とおんなじじゃねぇか!!」
「全然違うよ」
「どこがだ!!」
「生きてはいないから」
「生きてただろ! 俺は――」
右手を見る。そこに宿る、あの柔らかさと温かさを思い出す。
「俺は――この手のひらから命を感じたぞ!」
「それ、もふもふの電気あんかを触って命だと言ってるのと同じだよ」
「違うだろ! 全然違う!」
「同じだって。もふもふの電気あんかに音声機能を付けただけ。たしかに痛みを感じてるように見えたけど、実際は彼らに痛みなんてなく、反射的に痛みという概念を模倣しただけにすぎない」
「模倣……あれが……」
両耳に焼きついた悲鳴。
両手で耳を塞いでも、内側に響く残響が消えることはない。
「ちょっと待ってくれ。こんなのおかしいだろ……だいたい、光をつけたら彼らは人間になるんじゃなかったのか?」
「うん、なるよ。失敗作から意識を回収して、光の下で人間として再構成されるからね」
「再構成……なんだ、それ?」
おかしい……。
何かがおかしい? それすらも説明できない。彼らは生き物ではない。でも、俺は生き物だと認識してしまっている。だから……。
「大勢を、殺した……」
……手が、震えて止まらない。
看板は軽薄に文字を躍らせる。
「もう~、だから違うって~。壊れた人形を捨てただけのこと。そんなことよりも善行ポイントが付与されたよ。今回は神からの依頼だったので、簡単なお仕事でも高ポイント! 500ポイントで~す。やったぜ!!」
看板の表面には、小学生のテストに書かれるような花丸が描かれていた。
焼け焦げた異臭が残り香として、鼻奥にこびりつく中で、500の数字が浮かぶ。
俺はそれを半開きの口とともに、涙ぐんだ瞳で見つめていた……。




