第67話 神秘は神秘のままに
――――半球外・別室
ミシャは一連の出来事をこう分析し、評価していた。
「リョウさんの危機的な状況を前にして、リョウを救うという管理者プログラムが最優先起動。これにより、看板さんの機構と心の修復が行われました」
彼女の言葉に、魔王は投げやりな言葉を飛ばした。
「心の力というよりも、プログラムとやらのおかげか」
「……ですが、一つ気になることがあります」
「なんだ?」
「その機構自体が壊れていたのに、機構が動いたことです。どうやって動いたのか、という疑問が残ります」
ミシャの言葉に、勇者が小さく笑い声を立てた。
「ふふ、それこそが心の力なんだと思うよ。看板の『リョウを助けたい』という心が、力を引き出した」
ミシャはその謎に対して分析を行おうとした。
だが、光の粒を見つめるのをやめて、目を閉じ、微笑みを見せる。
「そうですね。心が時に思わぬ力を持つことは事実です。これはどれだけ文明が発展し、技術を得たとしても変わらない事実」
ミシャは光の粒をすべて消す。
メルが勇者と魔王には届かない声で、ミシャへ話しかける。
「本当に分析しなくてもよいのですか?」
「メルさん、時に調べないという選択肢も必要なんですよ。物事には、真実を知る場と、神秘に身を置く場というものがありますから」
「……連邦はもっとお堅いと思っていましたが、意外とロマンチストなんですね」
「それは心外です。ロマンがなければ、探求心も湧きませんから……くすっ」
不意に、ミシャから笑い声が零れ落ちた。それに、メルは片耳を折った。
「ミシャさん?」
「失礼。遠い昔、おにい……兄と共に一つの大陸を旅していた記憶が蘇ったもので。リョウさんを見ていると、兄を思い出します。私とは違い、感情豊かだった兄のことを……」
ミシャはどこか遠くを見るように、懐かしさを纏う笑みを見せた。
――半球内
青々と生い茂る草の絨毯。真っ青な空。まさにあの草原の風景。
そこには、ナス畑も闇の住民も神官もいない。
「みんな、消えた?」
この呟きに、看板が文字を生む。
「君の心が投影した存在。君の罪悪感が生み出した存在。だけど、今はそれよりも僕との再会がうれ……まぁいいや」
「よくないだろ! 恥ずかしがらず最後まで言えよ!」
「君が言ったら?」
「恥ずかしくて言えるか!」
「フフフ、妙なところでツッパるね」
「お互いにな、あははは」
笑い合い、看板を持ち上げて、いつもの肩に乗せる。
「さて、出るか。みんなを安心させてやらないと」
と言いつつも、俺は足を止めて、そっと振り返った。
そして、心を投影した世界を思い起こす。
(たしかにみんなは消えた。でも、俺の心には彼らが残っている。向き合わないと……いや、答えを出せる力を得ないと。その覚悟をしよう。そのためには――)
遠くを見つめる。
先に存在する管理者を睨みつけて……。
(心の力が反映する世界。心の力を剣に、盾に。これか……この場所こそが、対等に渡り合える場所なんだな――そうだ、アスカはこうも話していた!)
《かつて、おぬしの素体であるリョウも巨悪に挑み、想像を武器に勝利を得ておる》
(俺も同じように、想像を武器として戦うんだ。あいつがやれたなら、俺だってやれるはず! そのために必要なものは……管理者に会うためのポイントと……ポイント? ポイントだと!?)
「ポイント……想像を武器にできる世界。そうだ、ポイントを使えば!」
「どうしたの、急に?」
「いいことを思いついたんだよ!」
俺は満面の笑みを見せて、拳を握りしめた。
(管理者を――俺の舞台へと引きずり出す方法を見つけたぜ!)




