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世界が滅びたので看板を片手に旅に出ます  作者: 雪野湯
第十四章 心の世界

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第66話 助けるさ!

―――半球外・別室。


 モニタリングをしていたミシャの瞳が、一段と忙(せわ)しい動きを見せる。

 モニターに映る画面は輪郭だけであったが、それでも勇者たちは、リョウが非常に危険な状態であると読み取っていた。



 勇者が叫ぶ。


「ミシャ、緊急停止を!!」

「…………」

「ミシャ!!」


「いえ、続行しましょう」

「何を言っているんだ?」


 焦点の定まらなかったミシャの瞳が、看板の心の波形の前で、ぴたりと止まる。

「ふむ、実に興味深いですね……割り当てられた存在意義が、功を奏するなんて」




―――闇

 

 目を閉ざし、耳を押さえ、自分を抱えるように丸くうずくまる。


「やめてくれ、やめてくれ、やめてくれ……」


 

――殺した、殺した、殺した――



 懇願しても声を止めてくれない。


「お願いだ、許してくれ。だから、もう責めないでくれよ」



――殺した、殺した、殺した――


 涙を流し、許しを乞うても、責める声は止まらない。

「もう、やめてくれ! 誰か、誰か、この声を止めてくれ!!」 


 耳を閉ざし、目を閉ざす。

 だけど、声は脳髄を突き刺し、彼らの姿が瞼の裏に焼きついて、離れない。


――その絶望の中に、ふっと暖かな影が過った。




《だ~か~ら~、そんなこと気にしなくていいんだって》




「……へ?」


 まったく聞き覚えのない声。

 それなのに、とても懐かしさを覚える声。

 怯えに瞼を震わせながらも、ゆっくりと開けて、恐る恐る顔を上げていく。

 

 闇の奥で、ぽつりと一文字だけが光る。

「も」

 次に、「う」の字が灯る。


…………そして、看板の輪郭が浮かび上がる。


「もう、くだらないことで悩んで」

「看板! 嘘!? なんで? どうして!?」



「それは決まってるだろ。僕は君をサポートするのが役目……」


 看板は木目に爆発のエフェクトをつけて、こう刻む!


「君が助けを求めるなら――助けるさ!」



 俺はふらふらと立ち上がり、おぼつかない看板へ近づき、抱きしめる。


 その瞬間、ガラスが割れるように闇が剥がれ落ち、一気に眩いばかりの新緑が溢れ出す。

 空の色はどこまでも青く澄んで、雲一つない。


「看板、本当に看板なんだな!」

「そだよ~、って、鼻水汚いので離れて」

「離すもんか!」


 ギュッと抱きしめる。

 無機質だった看板に温かさが宿り、俺の両手に確かな心を感じさせてくれる。


 両手の力を緩めて、看板をまっすぐ見る。



 そこには見慣れた文字が浮かぶ。


「う・ざ・い」

「あはは、ひでぇな。あれ? お前、さっきしゃべってなかったっけ?」

「さぁ、幻聴じゃない?」

「幻聴……まさか、これは俺が生み出したまぼろしぃ――ぎゃぁあああ!!」



 突然、看板から電気が放たれた。

 それが俺の太ももに当たり、もんどりを打つ。

「いったぁああ!」

「ね、まぼろしじゃないよ」

「確認方法がおかしい! もっと優しく!!」



 俺は太ももをさすりながら問いかける。

「だけど、どうして突然? 何が起こったんだ? お前は心が……」

「……君の助けを呼ぶ声が、聞こえた」

「え?」


「僕は君をサポートするためにいる。だから……そのために自分を取り戻した」

「あ……そう……なんだ」



 看板は管理者に与えられた役目に沿って、復活した?

 でも、それって……看板の心が動いたんじゃなくて、ただのプログラム……。

 俺は力なく返事をする。


「はは……お前を助けに来たのに、逆に助けられるなんてな……」

(しかもそれは、俺を助けたいわけじゃなくて、『管理者にそう決められた』からという理由……)


「リョウ……」

「なんだ?」


「ありがとう」

「へ?」


「僕は過ちを犯した。君を傷つけた。これは与えられた役割から大きく外れること。それなのに君は、壊れた僕を助けようとしてくれた」

「……うん。でも、結局は……」


「主(あるじ)に与えられた役目――だけど……僕自身に助けたいという思いがあるのは――事実だよ」

「看板……」


「今わかったんだ、僕が壊れた理由。それは僕の心が、冷徹に役目に徹することを否定したからだ。役目だけを順守するなら、君のケアを行うという選択肢を取るだけのはず。それなのに、僕は壊れた。その理由は何か?」


「それが……看板の思いによるもの?」

「そうだと思う。まぁ、主(あるじ)が組んだプログラムも役には立ったけどね」

「それはなんだ?」


「ひ・み・つ♡」


「ここでそれかい!」

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