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世界が滅びたので看板を片手に旅に出ます  作者: 雪野湯
第十三章 超技術の世界

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第63話 外なるモノたちの会合

――半球外


 半球の外に出たミシャたちは、何もない空白の別室に移り、そこでリョウと看板の様子が映し出されているモニターを眺めていた。


 ミシャは三人へ軽い説明を行う。

「こちらでお二人の様子を見ることが可能です。私は準備のために少々席を外します。メルさん、お二人にこの部屋の使い方の説明をお願いできますか?」

「ええ、わかりました」



 メルは勇者と魔王に説明を始める。

「この部屋は何もないように見えますが、椅子が欲しいと願えば生み出されて、飲み物が欲しいと言えばそれに応えて用意されますので~~~~」


 その様子を横目にミシャは本を生み出し、開く。


 開いた瞬間には、別の場所。

 巨大な水晶を中核に、無数の結晶やその破片、光の塵が浮遊する大広間。

 その煌びやかな世界の中心に、彼女は佇む。


 破片の一粒一粒に、連綿と続く宇宙の歴史が映し出されている。

 多くが交わり、慟哭し、歓喜する。

 やがれそれらは失われた遺物となり、ただの知識として記録されていく。


 まるで、風が吹いても音を感じることのない世界のように。


 そんな部屋に、猫耳を持った少女がいた。

 ミシャは、その少女へ話しかける。



「ミーニャさん、いらしていたんですね?」

「お邪魔してるニャ」

 

 赤い魔導服に身を包む、紫の瞳を持つ猫耳の少女は、チロリアンハットを軽く指で上げて、真っ白なふさふさ尻尾を揺らす。

 少女は猫の一族の長。

 


 ミーニャは水晶の点滅を睨みつけて、疑問を短い一言に集約する。


「腑に落ちないニャ」

「何がですか?」



 ミーニャは瞳を細め、尻尾を振り子のように揺らしながら、ミシャを睨みつけた。

「看板の心が壊れる……たしかに、かなり無理を押した機構ではあるニャ。にゃけど、連邦の技術で壊れるということが起きると思えないニャ」

「…………」


「まさかと思うが、意図的に壊したわけじゃにゃいよニャ?」

「ひどい嫌疑です。理由はわかっているのに、意地悪なことを言いますね」



 ミシャは心外ですと言わんばかりに、無音のため息を漏らす。

 そんな彼女の姿へ、ミーニャは尻尾をパタパタと動かしながら微笑みかける。

「感情が薄い割には、自分への悪感情に対して露骨に反応を示すのが面白いニャ」

「良いご趣味で……それで訪ねてきた理由は?」


 ミーニャは再び、点滅する水晶の光を睨みつけた。

「オリジナルのリョウが旅した世界。その世界を育む無の神の存在。その神の干渉を受けてるニャね」

「ええ、そのようで」



 ミシャもまた点滅を見つめると、ある一点に視線を集約させて、眉をひそめた。

「意図しない記憶領域の誕生。そこには『無』に関する情報が存在します」


 


 看板はそれに気づいていた。それは、この場面。(※第23話 隠しパラメータより)


――――――

 看板は一つ残り、自分の言動に疑問を抱いていた。

(なんで伝えたんだろう? それに……科学の力と神の力の情報まで渡しちゃったし。バグ?)


 看板は猫の目を閉じる。

(内部スキャン開始……終了。エラーなし。壊れたファイルなし。全てが正常……ん、あれ? 新たに記憶領域が誕生? 内容は~~~~『無』に関する情報?)


 目を開き、空へ視線を向ける。

「干渉を受けた? ……主に匹敵する何者かが僕に? 匹敵? あり得ない……いや、少なからず存在する。だけど、一体誰が、何のために……」



 看板はさらに思考を深く沈めようとしたが、そこでぴたりと踏み込むのをやめた。


「僕の役目は彼を守り、見守り、誘導すること。どうでもいいや」



――――――


 ミシャは点滅から目を放し、ため息を漏らす。


「ふぅ……本来、緩やかに看板さんの心は顕在化し、自己を獲得していく……という予定でしたが、無の神の干渉によって、それが加速されてしまいました」



「あの記憶領域には、オリジナルのリョウに関するデータが含まれてるニャね」

「はい、全てではありませんが。それでも、看板さんの心の形成を加速させるには十分すぎます。リョウの心の紙片たちは、看板さんの心の隙間を埋めて、その形を象(かたど)っていったのでしょう」


「にゃけど、それは急速で歪(いびつ)だったニャ。未熟な精神に強力な心の負荷。耐えられずに、壊れてしまったのニャ」

「無の神に、その意図はなかったのでしょうが……」



 ミシャは顔を横へ振った。

 それは、無知なる存在への同情の表れ。

 そこに内包された思いを、ミーニャが音にする。


「無の神は何も生み出せないニャ。ゆえに、心への理解がいまいちニャ」

「ですが現在、無の神はオリジナルのリョウの旅を通じ、彼と管理者のつながりに干渉することにより、創造の力を手にした。現状では唯一、管理者――『運命』と対等に渡り合える存在」


「そして――我々の敵ニャ!」



 ミーニャは尻尾をピンッと立てて、毛をボンッと膨らませる。

 膨れ上がった尻尾を見つめ、ミシャは緑に封じられた黒の瞳を静かに揺らす。

「強大な敵を前に、情報を得る必要があるとはいえ、リョウさんと看板さんにはひどいことをしてしまいました」


 そこに内包するのは、罪悪感。

 しかし、言葉の音色は無色。

 声音にも態度にも、それを表さない。


 だがそれは、たしかに広がっていく。

 ミーニャの尻尾はそんな小さな波紋を敏感に感じ取り、しなりと下りた。


 それでも話題を変えることなく、進める。

「……ミーニャは、念のために確認に来ただけニャ」

「そうですか」

「ミシャ、無の神の干渉の意図を、どう読むニャ?」


「おそらくは、圧勝という現状を面白く感じていないのでしょう。そのため、連邦や神や猫の一族といった他の種族に、『運命』の力の観測機会を与えようとしてるのでは?」


「敵が弱すぎて面白くニャい……連邦の発想に似てるニャね」

「……心外です」


 再び無音のため息を漏らすミシャの姿を目にして、ミーニャはにんまりとした笑みを見せつつ、軽く手を振る。

「それではミーニャは帰るとするニャ。今の話は、あいつらには?」

「伝える必要性がありません。これは私たちの問題。彼らの物語には関係のないことですから」


「たしかにニャ。それではお暇(いとま)するニャ」


 ミーニャは尻尾を回すと、スッと姿を消した。

 残ったミシャは点滅を眺めて、指先に光を集める。

「それでは、看板さんの心を紐解きましょうか」

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