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世界が滅びたので看板を片手に旅に出ます  作者: 雪野湯
第十三章 超技術の世界

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第61話 ごめんなさい

 キシキシと鳴く拳を震わせながら、ミシャへ尋ねる。


「そのために、俺や看板を作り、利用したのか……?」

「……」


「あんたらは、管理者の『運命』という力を手に入れたくて協力したのか! そのために、偽りの記憶を植え付けた俺や、情報と心を混ぜ込んだ看板を――生み出したのかって聞いてんだよ!!」


 俺はミシャに詰め寄り、両手で彼女の胸ぐらを掴んだ。

 それに対して彼女は、一切の抵抗を見せない。


 メルと勇者と魔王が止めに入る。

「おやめください、リョウさん!」

「気持ちはわかるが、相手が悪すぎる!」

「少年、感情に支配されるな!」


「うるさい! こいつが、こいつが――」

「……そのことについて、一言、お伝えすべきことがあります」

「なんだよ!」



「ごめんなさい」



「…………は?」


 突然の謝罪に呆気に取られて、掴んだ胸ぐらを緩めてしまった。

 彼女は数歩後ろに下がると、深々と俺に頭を下げて、謝罪を重ねた。


 暗号のような羅列を前に置いて……。


「管理者より受注した際、本来行うべき『依頼内容の存在階層検証』と『倫理プロトコルの適用』を怠ってしまいました。管理者という禁忌階層存在からの接触に対し、集積システムの認知系が過剰反応。未精査のまま取引プロセスを実行してしまったことは、完全に我々連邦の落ち度です。深くお詫び申し上げます」



 脳みそが理解を拒む、謎の言葉の群れ。

 そのせいで、一時的に、怒りが混乱へと変わる。

「えっと……何を言ってるんだ?」



「一言で言えば、未知の存在を研究できると舞い上がって、倫理規定をなおざりにした、ということです。そのため、ご迷惑をかけたようで、申し訳ございません」


 そう言って、またもや頭を下げた。

 俺は感情の行き場を失い、メルに尋ねる。

「なに、悪意はなかったってこと?」

「そのようですね」

「だからって、謝って済む問題じゃないよね?」

「はい、そう思います」



 メルとの会話で、一度頭と心を整理して、再びミシャへ声を荒げた。

「ふ~……ふざけんなよ。結局のところ、あんたたちの好奇心のおもちゃにされたってことだよな!」

「返す言葉もありません」


「俺や看板がどれだけ傷ついたかわかるか! お前がどんなに頭を下げたって、俺たちの怒りや苦しさは消えないんだぞ!!」

「はい。私では、その痛みの一端すら理解できないでしょう。私にできることは、謝罪のみです」


 と、頭を下げる。

 彼女の対応はまるで機械のようで、俺がどれだけ感情をぶつけようと、何も響いていないように感じる。


 俺は振り上げた拳の行き場を失い、ただ口を閉じた。



 すると、ミシャは俺に近づき、不意に俺の顔を両手で掴んだ。

「失礼します」

「――なっ!?」


 ミシャの新緑と黒が溶け合う瞳が、真っ直ぐ俺の黒い瞳を見つめてくる。


「私は、私たちは感情表現がとても苦手です。ですが、あなたの怒りを理解しています。謝罪の思いも有しています。それをあなたに伝えることは、とても難しい。たとえ伝えられたとしても、あなたの心を癒すことはできないことも、理解しています。私にできることは、謝罪だけなのです……申し訳ございません」


 じっと見つめてくる、無機質な瞳。

 それでも、その奥には僅かな揺らぎがあり、それが彼女なりの不器用な悲しさであることが、なんとなく伝わった。



 俺は彼女の手を掴んで、降ろし、納得はできないが、無理やり納得することにした。


「はぁ……もういいよ。あんただけを責めても仕方ないし」

「……私たちの決定によるもの。総意ですので、責めても構いません。それに――」

「なんだよ?」


「あなた方の犠牲を知りながら、好奇心に勝てなかったことも事実です。その事実がある以上、私に対する怒りは正当なもの。いかなる誹(そし)りも受けて当然かと」



「……ああ、そうだな。俺はあんたたちを罵倒する権利がある。だけど、それをしても……」


 俺は肩に乗る、何も語らない看板を寂しげに見つめた。

「看板は帰ってこない」

「…………」



「あんたたちが悪いと思っているなら、看板を元に戻してくれるか?」

「ええ、もちろん。ただし、一つだけ問題があります」

「なんだ?」



 ミシャは視線を上にあげて、静寂に沈む看板を見た。

「看板さんは曖昧な心と、明瞭な情報が複雑に絡み合った機構です。機械的な技術は私たちの技術で修復可能ですが、心となるとカウンセリングの領域となります」


「カウンセリング? 医者に診てもらえってこと?」

「それは不可能です。心と情報。無機と有機が溶け合った意思に、医者の手も技術者の手も届きません……届くモノは、ただ一つだけ」


「……なんだ、それは?」



「同系統の心を持つ、あなたとの魂の混融(シンシチウム)です」

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