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世界が滅びたので看板を片手に旅に出ます  作者: 雪野湯
第十二章 宇宙→ミュールの世界→草原の世界

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第59話 語らぬ友情

――連邦に行くことはできるのか?――



 この問いかけに、メルは驚くほど簡単に答えを返してきた。

「はい、可能ですよ」

「――本当か!? 看板には連邦の技術が使われてる。そこに連れて行けば、看板を元に戻せるかもしれない!!」

「看板さんに連邦の技術が? にゃふ……」



 メルは片耳を下げて何かを思案する仕草を見せた。どうしたんだろうか?


「メル、何か疑問でも?」

「……そうですね。看板さんに連邦の技術が使われているのでしたら、連邦は初めから管理者と通じていたとなりますから、少々気になりまして」

「あ、たしかに」



 管理者と連邦はつながっている。彼らは協力関係? それとも、利害で結びついた関係なのか?

 それらは、俺にはわからない。だけど、今わかっていることは一つ! 


 それは――


「繋がっていたとしても、看板を元に戻せるのは連邦しかいない。いや、むしろ好都合。連邦なら、どうにかできる可能性が高いってことだからな」


「連邦の思惑がわからない状況での接触は、リョウさんが不利益を被る可能性がありますよ?」


「かもな。だけど、ここで案山子のように突っ立ってても事態は好転しない。あれだ、虎穴に入らずんば虎子を得ずっていう状況だな」

「……たしかにそうですね。わかりました、連邦へ案内しましょう」



 勇者と魔王は『連邦』の存在が気になったようで、それについて言及してきた。

「その『連邦』というのはなんだい?」

「何かしらの組織ということはわかるが」


 これにはメルが答える。

「連邦は宇宙最強の組織。私たち物理存在の頂点に位置し、物理存在でありながら、エネルギー体である神や精霊などに匹敵する文明と知識を誇ります」


「私たちの最高進化系というわけか」

「それはぜひとも見てみたい。リョウ、我らも共にしてよいか?」


「ああ、構わない。むしろ、こっちから頼みたいくらいだ。ボディガード役にね」

 二人に向かって片目をパチッと閉じる。

 すると二人は、顔を綻ばせた。


「ははは、その連邦とやらに、私たちの力がどこまで通じるかわからないけど、やれるだけのことはやろう」

「それに、看板が復活しなければ、我らもリョウにポイントを渡せぬからな」


「ポイント?」


「貴様がいない間も、我と勇者は交代で善行ポイントを集めていたのだ」

「看板を放っておくわけにはいかないけど、二人でここに残っていても仕方がないからね」



「そうだったんだ。でも、10%の取り分が2%に減ってんだよなぁ。どのくらい貯まったの?」

「5000万。リョウへの支払いは100万だよ」


「……はっ?」


 何かの聞き間違いだろうか? 俺は小指で耳をほじってから、もう一度尋ねてみた。

「いま、なんポイントって言ったの?」

「5000万。そして、100万ポイント。これがリョウへの支払額だ」


「はい! そんなに貯めたの? ここを離れて、そんなに経ってないと思うけど? せいぜい二日くらいじゃない?」

「いや、半月は経っているよ」

「半月!?」



 俺の驚きに、メルが補足を入れてきた。

「穴ぽこの向こう側とこちら側では、時間の流れが違いますから。それに、リョウさんの空間偏差の挙動から、二つほど世界を経由しているご様子。そのため、誤差が大きいのでしょう」


「そんなのがわかるんだ。たしかに、地球を経由して――あ、そういえば地球で、ミーニャって人に会ったぞ。メルの長(おさ)みたいな人なんでしょ?」


「ミーニャ様に!? それはうらやましい。私は遠くからお姿を拝見したことがあるだけで、拝謁はしたことがありませんから……はぁ、本当にうらやましい」



 メルは何度もため息を漏らして、ミーニャに会ったことのある俺を恨めしそうな瞳で見ている。

 あの子、そんなに凄いようには見えないんだけどな。お弁当屋さんがどうのこうのと言ってたし……。



 俺は勇者と魔王に向き直り、話題をポイントの話に戻す。

 一つの疑問を携えて。

「なぁ、二人とも。なんでそんなにポイントを貯めたの? 100万で十分なのに」



 この問いに、二人は互いに柔らかな笑みを見せあう。


「5000万稼げば、君の取り分は100万。これならいつでも管理者と会えるだろ」


「勇者……俺のために、二人は……ありがとう」


「気にする必要ないぞ、少年。暇つぶしの延長だ」



 そう魔王は言ってくれるが……二人の衣服は少し煤けて、ところどころ傷ついていた。

(二人とも、本当にありがとう)



 彼らの思いやりを穢さぬよう、心の中でお礼を述べる。

 だけど、その際、つい小さく頭を動かしてしまった。


 その動きで二人は俺の気持ちに気づいてしまったようで、頬を掻いたり、明後日の方向を向いたりと、照れを誤魔化していた。


 魔王は一つ咳払いをして、緩んだ空気を消し去る。

「ただ、譲渡に問題があってな。看板がいないと譲渡はできぬそうだ」

「あ、そうなんだ」

「リョウ、救いに行かねばな」

「ああ、魔王。ポイントだけじゃなくて、話もしないと……」



 何も語らない看板へ、瞳だけを動かす。


 整った木目を見せているが、表面ががさつき、そこから廃墟に放置された板切れのようなもの悲しさを感じて、俺は思わず瞳を逸らしてしまった。



 軽く首を横に振り、意識を勇者と魔王へ向ける。

 そして、俺はポイントについてアスカから聞いた重大な秘密を、二人へ渡そうとした。


「いま二人は、4900万ポイント持っているんだよね。だけど、そのポイントはたくさん持っていても――」

「ああ、神に会うくらいにしか使えないね」

「この草原の世界で、モノを生み出すには使えるがな」


「――え、二人とも気づいていたのか?」


「当然だよ。依頼のほとんどが神からのもの。となると、ポイントは神の力に属するもの」


「その力を利用して神に対抗しようとしても、神の内なる領域からは出られぬ。ゆえに、我らの力で抗(あらが)うほかない」

「私たちも鈍くない。依頼をこなしているうちに、君と同じで気づいていたよ」



「……ははは、そうか、二人は気づいていたんだ」



 俺はアスカから言われるまで気づかなかった……これは黙っておこう。



 俺は気を取り直して、メルへ話しかける。

「メル、連邦への道を!」

「はい。私だけでは力不足ですが、穴ぽこの空間流動力を利用して、流れを変異させたのちに、連邦へつなげましょう。皆さん、こちらへ」



――穴ぽこ


 メルが紫の宝玉が付いた魔導杖(まどうじょう)を掲げると、無数の穴ぽこが揺らぎ始め、幾重にも重なっていく。

 やがて、幾重もの時空が無理やり抉(こ)じ開けられたかのように、巨大な穴ぽこが広がり、激しい明滅を繰り返す、紫と黄金が混じり合う渦となった。


「私が先に入って先導します。皆さんはあとから続いてください」


 メルはそう言って巨大な穴ぽこへ向かう。

 俺は無言の看板を手にして、肩に置き、彼女の背中を追う。

 柄(え)を握る手には、温かさも冷たさもない空虚な熱が伝わる。


(看板……待ってろよ、すぐに元に戻してやる。戻って、話せるようになったら……いっぱい話そうな)

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