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世界が滅びたので看板を片手に旅に出ます  作者: 雪野湯
第十二章 宇宙→ミュールの世界→草原の世界

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第56話 想像を剣に

――朝<リョウパート>


 俺は明け方近くまでヤマタノと対戦格闘ゲームで遊び、その後一眠りした頃に、ミュールとアスカが謝罪行脚から帰ってきた。


 

 アスカは髪の毛をかき上げ、ヤマタノにおでこを見せながらおしゃべりをしている。

「おでこ、擦り減っておらぬかの?」

「生え際が後退してるの~。もう手遅れなの~」


 何の話をしているんだか……俺はミュールへ顔を向ける。

 彼女はいま、二股に分かれた巨木を地面に設置している最中だった。

 なんだろね、あれ?


 その謎はひとまず置いて、時折目をしばしばさせているミュールに声をかけた。


「大丈夫か? 結局ほとんど寝てないんだろ」

「ご心配ありがとうございます。ですが、眠らずに調合作業を行うのは日常茶飯事ですので。この程度なら」



 絶対体に悪い、と思ったが、ミュールは眠気に負けることなく黙々と設置作業を続けている。

 今は二股に分かれた巨木に、ゴムのように伸びる紐と椅子を取り付けている……本当に、何を設置しているんだろうか?


 それを問いかけようとしたところで、背後からアスカが話しかけてきた。

「リョウよ、ちくと話がある」

「うん? ああいいけど、どうしたの?」

「おぬしは管理者をぶん殴ると言っておったな」

「ああ、それくらいしてやらないと気がおさまらない」



 そう言って、俺は拳を何度も振り回す。

 

「だから、そのために、まず善行ポイントを集めないと」

「そのポイントじゃが、管理者相手には無意味じゃぞ」

「――えっ?」

「善行ポイントの力の根源が何か知っておるか、リョウ」

「いや、それはまったく」


「善行ポイントとは……神の力そのものじゃ。神の力の一部にしかすぎん。つまり、どれだけ集めようと、神は超えられぬ」

「そ、そんな……でも、別に俺は神を超えたいわけじゃない! ただ管理者を一発――」


「残念ながら、管理者を殴るという行為にも届かぬのじゃよ」

「届かない? いや、管理者がどんなに凄いやつでも、百万、一千万と集めてそれを使えば!!」


 しかしアスカは、ゆっくりと首を横に振る。

「力の性質が違うため、絶対に不可能なのじゃよ」

「力の、性質……?」



「おぬしが振るう力は、おぬしの次元に合わせて発動しておる。しかし、ワシら神や管理者はその次元そのものが違う。そのため、どれだけ善行を積み、巨大な力を手にしても、かすり傷一つ負わすこともできぬのじゃ」


 これに続き、ヤマタノがアスカの言葉をわかりやすく噛み砕く。

「絵の最強キャラはリョウを倒せないの。それと同じなの~」



 俺はわなわなと震える拳を握りしめ、そのまま何もない空間を殴りつけた。

「つまり、三次元の俺じゃ、あんたら高次元の存在に触れることすらできないってことか!!」

「ピンポンなの~。でもでも~」


 ヤマタノはアスカをちらりと見た。

 そのアスカは神とは思えない、邪悪な笑みを見せる。

「ひひひ、何事にも裏技、抜け道があるものじゃぞ、リョウよ」

「な、なんだよ、それは?」


「簡単なことじゃ。舞台が違うならば、同じ舞台に立たせてしまえばよい」

「は?」

「良いことを教えてやろう。人間には高次元存在を超える力が……いや、高次元存在が苦手とする力がある」

「それは……なんだ?」



「――想像力じゃ」



「想像力?」

「想像力は未熟な存在が最も得意とする力じゃ。特に管理者は神以上にそれを知らぬ。力は巨大じゃが、無垢で無知すぎる。ゆえに、想像を剣とせよ。盾とせよ」


「想像の剣と盾……」


「かつて、おぬしの素体であるリョウも巨悪に挑み、想像を武器に勝利を得ておる」

「――え!?」

「と、ヒントはここまでじゃ。あとは、ない頭をこねくり回すがよい」

「ないは余計だよ! まぁ、頑張って考えてみるさ」



「ふふ、前向きでよいの……あと一つだけ、先の話をしよう」

「まだ何かあるのか?」



「――ある。とても重要で面倒な話がの」


 アスカは空を見上げたかと思うと、ため息とともに地面を見た。

「低次元存在が高次元存在を傷つける意味――即ち! 宇宙の法則を、世界の理(ことわり)を破壊すると同義。そのため、そのような事象が起きれば、必ず巨大な修正力が働く」

「どんな力が働くってんだ?」


 

「おぬしが管理者を殴るということは……管理者を超えた存在と認められるべき事象なのじゃ」

「それはどういう……?」



「アスカさ~ん、こちらの準備は終えましたよ~」

「おお、そうか。行くぞ、リョウ」

「いや、話がまだ途中だろ?」


「もはや十分に尽くした。あとは考えよ。考え、考え尽くして、手にせよ。それが人間たる証――リョウよ!」



 アスカは真っ直ぐと、俺に人差し指を突きつけた。


「望めば、全てが救えるぞ。おぬしが理不尽と感じたすべてが覆る」

「…………へ?」


「ほら、ミュールが呼んでおる。行くぞい」



 アスカは軽やかな足取りでミュールに元へ向かう。

 その後ろには、巨大な毛玉の後姿をしたヤマタノが続く。

 俺は伝えられた言葉を心の中で反芻する。


(殴るために同じ場所に立たせる。想像を武器に……だけど、殴れば管理者を超えたことに。つまり、その時、俺は……)



 先に広がる世界が、ぼんやりと形作られていく。

 その未来に、俺の居場所は……。


 アスカを見つめ、先にある世界に対して寂しさを交えた笑みと、彼女への感謝を浮かべる。

(女神のような神もいれば、あんたみたいな神様もいるんだな。ありがとう、覚悟のための準備時間をくれて……)



 そう、俺は殴る覚悟をしなければならない。

 殴らずに終えるという結末もある。それが最も平穏で、人としての生き方として正しいのかもしれない。


 たけど――



「舐められっぱなしってのが性に合わねぇ。たとえ、俺という世界が崩壊しようとも、俺の思いを!」



 握りしめた拳を睨みつける!!


「必ず、管理者の顔面に叩きつけてやる!!」



 俺はそのための一歩を踏み出した。

(まずは看板と話すことだ。あいつと話して、考えよう。考えて考えて考え尽くして、道を作ろう。そして、作った道を……歩もう)

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