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世界が滅びたので看板を片手に旅に出ます  作者: 雪野湯
第十一章 ミュールの世界

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第51話 認識を固定する力

 ミュールはヤンキー御用達の釘バットをくるくると回す。

 相手は、あの勇者と魔王でさえ、かすり傷を負わせるのがやっとだった女神。

 それなのに、あんな釘バット一本で立ち向かおうとしている。


 俺はアスカとヤマタノへミュールを助けるように言った。

「二人とも神なんだろ! ミュールだけじゃとても! しかも釘バットなんかで」

「心配せんでもええぞい。あれは、ドラゴンシリーズの釘バットじゃからの」


「ドラゴンシリーズのバット? 中日?」

「そうではない! 龍殺し・神殺しの力が宿ったバットなんじゃ」


 アスカはバットへ視線を送る。

「あの釘バットには、たっぷりと龍神の血が染み込んでおる……まぁ、ワシの血なんじゃがな」

「アスカの?」


 アスカは自分の腕をさすりながら話を続ける。

「ミュールはのぉ、お家賃回収にワシの血を抜いてくるのじゃ。その血で薬を作ったり、武器を製造したりするんじゃよ」

「え、血が家賃……?」


「びっくりじゃろ! それで作り上げられた武器をドラゴンシリーズと言うんじゃ。あれでどつかれると、ワシでも普通に痛いから難儀しておる」



 ここでヤマタノが会話に加わってくる。

「アスカちゃんが~、お部屋を汚部屋にするからミュールちゃんがキレて、よくぼこぼこにしてるの~」

「それはし~、なのじゃ、ヤマタノ!」


「普段からアスカちゃんはミュールちゃんを怒らせてばっかりなの~。前なんかミュールちゃんのお仕事を邪魔して、巨大ミキサーに放り込まれてミンチにされてたの~」


「ミンチって……」

 

 俺はアスカへ青ざめた表情を向けた。

 だが、ミンチになったことがあるアスカは、さも世間話のように語る。

「さすがのワシも、あれにはまいったぞい。再生するのに三秒もかかったからの」


「三秒で再生って……」

「問題はそのあとなの~。飛び散った肉片から、ちっちゃなアスカちゃんが大量発生したの~。子アスカちゃんが森の一部を占拠して、駆除に半年くらいかかったの~。一匹見たら、三十匹いる状態だったの~」


「ワシをGみたく言うのやめてくれんかの、ヤマタノ」



 俺は完全に言葉を失った。

 さすが神様、人間の常識からめちゃくちゃ外れてる……というか、常識以前の問題だよ、こいつらって!



 でも――

「ミュールも同じく常識外れの力を持っているんだな。だから、二人とも落ち着いているんだ」


 俺はミュールをまっすぐと見た。

 彼女はバットを揺らすと、姿を消し、次の瞬間には女神の腹部を殴りつけていた。

「でぇい!」

「があああ!? バカなぁあ、神の目で追い切れぬなどと……」



「すげぇ、勇者や魔王よりも速いのか!?」

「うんにゃ、そうではないぞい」

「アスカ?」


「ミュールの身体機能は、普通の女の子と変わらん」

「はい? だけど今、あの女神の目にも捉え切れない速度で動いてたじゃん」

「あれは道具の力じゃ」

「道具?」



 アスカはミュールへ手を伸ばす。

「あやつは錬金術師。不可思議な道具を生み出し、操る存在。今のは時空間を操る道具。神の目……神の知覚の隙間を縫う道具を使い、凶神(まがつかみ)の腹部を叩きつけたのじゃ」


 アスカは小さな嘆息を挟む。

「はぁ、ミュールは常識を超えた存在。少しばかり、管理者の力に近い存在なのじゃ」

「管理者の!? それってどういう……」

「管理者の真の力は……認識を固定させること」

「ん?」


「初めから『そうだ』と認識させる力。これが管理者の力じゃ。この力を行使されると、ワシら神ですら、認識を強制的に固定させられかねん。ゆえに、神は管理者を全知に取り込もうと躍起なんじゃよ」



 正直、アスカの説明の半分も理解できなかった。

 認識を固定する力? 『そうだ』とさせる力? 


 これがもし、何もかも絶対に固定できる力なら、何故、管理者は世界を滅ぼしてしまったんだ? 

 滅ぶ原因を探る必要があるんだ?

 そんなことしなくても、素晴らしい世界だと固定してしまえばいいんじゃないか?


 俺が悶々としている間に、アスカの言葉は終わりへと近づく。

「ミュールもまた己が可能だと思えば、それを作れてしまう力を持っておる。管理者のようにその力を宇宙中へ伝播させることはできぬが、個人の範囲では、あの通りよ」



 アスカはミュールへ視線を送った。

 ミュールは姿を消しては現れ、女神をバットで殴るを繰り返している。

 女神はバットから逃れようと光弾を打ち出すが、ミュールは野球選手よろしく、それを特大ホームランで打ち返す。



 光弾は森に落ちて、そこから悲鳴が聞こえた。


「ぎゃああああ!!」


 俺は顔を引きつらせて、声を漏らす。

「だれか、巻き添え食らってない?」

「この森の日常じゃ、気にするでない」

「弱肉強食なの~。弱っちい分際でポワソの森に棲んでる方が悪いの~」


「ええ~」


「それに今の悲鳴は、三バカゴブリン兄弟の声じゃろ。死んでも復活する、超再生を持つゴブリンじゃから問題ない」

「あいつら、吾輩を食べようとしたから肉片に変えてやったの。でもでも、次の日には、湖でのんびり釣りをしてて、さすがの吾輩もびっくりしたの~」


「そうですか……」



 常識が迷子なので、これ以上深追いすることなく、ミュールへ意識を向けた。


 女神は、ミュールの攻撃に後手後手に回り、ただひたすら殴られ続け、痛みに悶え苦しむばかりとなっていた。

「うが、いぎぎ、ぎゃ! 痛みが、痛みが、刻まれていくう!」

「ふ~、思ったより丈夫な方ですね。仕方ありません。とっておきを出しましょう!」


 

 ミュールはバットをポーチへ納める。相変わらず、ポーチの大きさと道具の大きさが釣り合わない。

 

 と思ったのだが、次にはポーチの口があり得ない角度で裂けて、それ以上に釣り合わないものが姿を現す。



 それは、回転するチェーンを刃(やいば)として対象を切り裂く、日曜大工の最高峰!

 ミュールは紐を引き、エンジンを駆動させて、こう唱えた!


「神殺しのチェーンソー!! これで真っ二つにしてあげます!!」

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