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世界が滅びたので、看板を片手に旅に出ます~世界を救う相棒は、口の悪い一枚の看板でした~   作者: 雪野湯
第二章 明かりをつけ忘れた世界

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第5話 ただいま停電中

――ベッドだけがある草原



 ベッドの上でニンジンを生で齧る。

「うむ……甘みがあってうまいが、好んで生で食べたくないな。なぁ、看板。火を出すとかできない?」

「善行ポイント1Pで、カセットコンロを出せます。鍋は別売り」

「あ、あこぎな真似を……」


 仕方なく野菜を生で食べることにする。

「むしゃむしゃ。う~む、食料の確保のほかに生活用具もそろえないと。水すらないしな。看板、水は何ポイント?」

「10リットルで1P」


「10リットル……入れ物は別とか言わないよな?」

「言わない言わない」

「じゃ、購入する。水がないとさすがに死ぬしな」

「まいどあり~。残りは4Pで~す」


 看板は猫の目を表示して、数度(まばた)きを行う。

 すると、ペットボトルに入った水が十本出てきた。



 早速一本を手に取り、それを飲む。

「んぐんぐ、美味い」


「だろうね。原始星・L1448-MM産の高級天然水だから」

「どこなのそれ?」

「宇宙。時速約20万キロで、水を一杯放出してる場所」

「だからどこなの、それ!?」



 なんにせよ、腹は満たされ、喉も潤った。

 だからと言って、ここで時間を費やすわけにはいかない。

 世界を復元するという目標もあるが、まずは生活の基盤を整える必要があるようだ。



 そのためには……。


 穴ぽこがある方角を見据える。

(異世界から必要品をゲットして持ってこないと。ポイントに頼ってたら、いつまでたっても貯まらないし)


 ベッドから立ち上がり、地面に刺していた看板を引っこ抜く。

「よし、行くぞ。どこの穴に向かおうか? おすすめとかある?」

「てめぇの事はてめえで考えろ」


「だからなんで、時々口が悪くなるの? 情緒不安定過ぎない?」

「それはね、僕に足りない部分を、地球のネット知識で補ってるから。だから、仕方がないよ」



「地球? それって、どっかの星?」



「……………………………へぇ~」

 

 長い沈黙の()。さらに、木目にはちらつきが走る。


「なんだ、そのやたら長い沈黙は? 表示も少しおかしいし」

「何だと思う?」

「わからんから聞いたんだよ!」

「すまんのぅ、最低限のアドバイスや情報を与える権限しかないもんでな」


 看板は3の形をした唇を表示し、鳴らない笛を吹いて誤魔化すような態度を取った。



 俺には、こいつが提供できる情報の質や基準などわからない。

 だが、これ以上、話していても時間の無駄だというのはわかった。


 俺はベッドから離れた穴ぽこ地帯に向かう。

 そして、なすびの世界から少し離れた場所にある穴ぽこの前で、祈るように両手を合わせた。


「どうか、自然豊かで日用雑貨が溢れる世界でありますように。行くぞ!!」


 俺は看板を片手に、新たな世界へ旅立つ。



――――

 黄金と紫が溶け合う渦に触れる。

 世界が歪み、緩やかに整う。

 広がった世界は――真っ暗闇!?


「み、見えない。え、夜?」

「夜じゃないよ。ここは、神が光をつけ忘れた世界」


「神? 光? って、おまえ、文字がうっすら光ってる!?」


 真っ暗で何もない世界で、看板の文字だけが、夜光塗料のような小さな光を(とも)して浮かび上がっていた。


「暗いとさすがに見えないからね。頑張ってみた」

「それはありがたいが……でだ、今回俺は、ここで何をすればいいの?」


「明かりをつけてほしい」


「明かり?」

「そう。神が明かりをつけ忘れたから、それをつけて、この世界に光を届けるのが今回の仕事。そのスイッチがどっかにあるので、探してパチッとONにするだけ」

「いやいや、簡単に探せというけど、こう真っ暗じゃ」


 

 俺は暗闇に向かって手を伸ばす。

 看板の淡い光から少しでも離れると、手は暗闇に包まれて何も見えない。


 俺は手を振りながら、看板へ愚痴をぶつけようとしたのだが……。

「こんなんでどうやってスイッチを探せ……ん?」

「どったの?」

「なにか、ある?」


 指先が何かに触れた。

 手のひらで(さす)ってみる。

「柔らかい。で、あったかい――こ、これは!?」



 暗闇に潜む物体に手のひらを這わせていくと、椀状の形をしていた。

 それを掴むと同時に、驚くほどの柔らかさと弾力が手に伝わってくる。

 

 慌てて手のひらを戻す。


「今のって……胸? 女性の? いやいや、そんなバカな!」

 もう一度、手のひらを伸ばしてみる。しかし、そこには何もない。

「……なんなの?」



 周りを見渡す。もちろん、暗闇で何も見えないが、なんとなく何かがいる気がする。

 背筋に寒気が走り、俺は無意識に自分を抱きしめた。


「いるよね、ナニカが。少し――いや、めっちゃ怖いんですけど……」

「気にしなくていいよ。人畜無害だから」

「それっているってことだよな! やめてくれよ、なんにも見えない場所で何かいるなんて!」

「はぁ~、仕方ないなぁ、君は……」


 猫の目が浮かび、数度の(まばた)き。そして――

「ぱっぱぱ~ん♪ まどうしき、あんしすこーぷ~」


 空中に淡い光を放つ、双眼鏡の形をした眼鏡っぽいものが現れた。 

 俺はそいつを見ながら看板に尋ねる。


「魔導式暗視スコープ?」

「うん、音は今風にしてみた」

「何の話?」


「まぁまぁ、それよりもこれがあれば、この暗闇の世界でもちゃんと見えるようになるよ」

「それは便利だな。では早速」


「2ポイントです」


「ポイント取るのかよ!」

「いらないの?」

「いるよ! ないと何もできないしな!」


「まいどあり~、残りは2Pで~す」


 俺は苛立ちながらも魔導式暗視スコープとやらを装着することにした。

 その途端、真っ黒で何も見えなかった世界が、朧げに形を成して、その姿を両目に宿せるようになった。

 そこにあったのは……。


「木も、草も、建物も何もない、ただの地面? ――え!?」


 ただひたすら大地が広がる場所には……無数の人影が蠢いていた。

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