第4話 これが善行、なのか?
――――玉座の間
何度も何度も何度も――何度も!
悲鳴や恨み言や涙や叫び声を聞いて、心に大きな傷を負った俺は、自分の背丈と同じくらいの籠に詰まったナスを、王様の前にドンと置いた。
「はい……終わったよ」
「うむ、ごくろう。これで、我が世界は救われた」
「救われたねぇ……そういやさ、この病気を放っておいたらどうなるの?」
「病気のまま成長すると知性を失ったなすびとなり、文明は滅びる」
「おお、かなりやばい話だったんだ」
「そのとおりだ! 貴様には感謝するぞ。とてもくっさい哺乳類とは思えん」
「一言多いよね……えっと、これで、終わり?」
俺は大理石の床に、当然のごとく突き刺さっている看板に尋ねてみた。どんだけ固いんだよ、こいつ……。
「うん、これで終わり。世界は救われた」
「そう、なの? 個人的には、すさまじい罪悪感があるんですが?」
耳奥に残る、命乞いの声。縋る声。罵倒の声。断末魔。
だけど、看板は俺のことなんか気にする様子もなく、結果報告を行ってきた。
「今回の善行ポイントは5ポイントです。善行積んだな。やるやんけ」
積んだなと言われても、耳に木霊するのは、ナスたちの叫びに子どもの抗議の声。
「あの……善行だったの、俺がやったことは?」
「病気の蔓延を防いだ。善行だよ」
「端的に言えばそうだけど。いいのかなぁ?」
どうにも腑に落ちないが、これを突き詰めると罪悪感に押し潰されそうなので、目を背けることにした。
今は、自分の世界の復元のことだけに目を向けよう。
「ところでさ、その5ポイントは多いの? そもそも、管理者に会うためには何ポイント必要なの?」
「百万ポイント」
「ひゃくまん!? 今回5ポイントだぞ! あと、200万回も世界を救えってか!?」
「20万回だよ、君は馬鹿だなぁ、うぷぷぷ」
「ちょっと計算間違っただけだろ! ってか、それでも十分に多い!」
「大丈夫、たま~にボーナスもあるから」
「ボーナスねぇ」
「ナスだけに」
「黙れ」
「ひどい……それはそうと、そのままでいいの?」
看板に猫のような両目が現れて、足のつま先から頭のてっぺんまでと、俺を舐めるように見た。
俺は子どもなすびの唾液と、種のシミのついたパジャマに視線を落とす。
「ああ、服を替えたいな。風呂にも入りたいし……あるの?」
「善行ポイント1Pを使用で、いろいろクリーニングが可能です」
「誰が使うか! 貴重な1Pなのに」
「……そう」
「何だよ、その間は?」
「空気を読んでみた」
「だから、その空気は何を読んだの?」
「ひ・み・つ♪」
「――いらっ。もういい! で、これからどうすんの?」
「帰るだけだよ」
またもや猫の目みたいなものが看板に描かれ、その目がある一点を見つめると、そこに金色と紫が溶け合う渦が生まれた。
帰る間際に、王様から別途謝礼を貰う。内容は、別の畑で収穫された普通の野菜たち。
何やら王様だけが食べることのできる、無農薬野菜だそうだ。
生野菜だけど、貴重な食糧……野菜を見るとナスの悲鳴を思い出すが、飢えの方が勝る。なので、ありがたくいただき、草原へと戻ることにした。
心の片隅に、俺が考える善行と、看板の考える善行にズレがあるのではないか?
そんな思いを残しつつ……。
――看板
看板は文字を生まずに、その内部に奇妙な思考を走らせる。
(彼の心で、世界を映す……か)
看板の裏側に、ぼやけた文字が浮かぶ。
汚染度2%と……。




