↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界が滅びたので看板を片手に旅に出ます  作者: 雪野湯
第十一章 ミュールの世界

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/110

第49話 堕ちた神

――ミュールのおうち



 心の整理がついた俺はその夜、暖かな木製の小部屋、その柔らかなベッドの上に全身を預けて、ぐっすりと寝入っていた。



 そこに、突然の叫び声。


「がぁああっぁあぁぁぁぁ!!」

「――っ!? な、なんだ!?」


 飛び起き、丸い窓を開いて外を見る。

 そこには女性?

 

 体が崩れ、肉片をぼとりぼとりと落とす女性と思われるナニカがいた。

 アスカとヤマタノはすでに表へ出ていて、ナニカをじっと睨みつけている。


 俺も急ぎ、螺旋階段を駆け下りて、外へと向かった。



――外



「アスカ、ヤマタノ!」

「来たか、リョウ」

「今宵の主役がご登場なの~」



「主役?」


 ヤマタノが妙なことを口走った。

 それについて深く尋ねようとしたところで、目の前のナニカが俺の名を咆哮した。


「リョウ……リョウ! りょうああああああああああぁあぁぁおおばおあうあうぁ!!」

「――ひっ!! な、なに?」


 震える瞳を、ナニカに向ける。

 

 赤黒い体液に濡れた肉の隙間から、骨のない無数の白い足無き節足どもが、互いを踏みつぶし合いながら湧き出す。

 粘ついて地面へぼとぼとと落ちたそれらは、ナニカの黒ずんだ足によってぷちぷちと容赦なく潰されていく。

 しかし、黄色い内臓をぶちまけながらも、なお本能のままにその足元へと這い寄っていた。



「うぷっ、なんなのこいつ? どうして、俺の名前を?」

「リョウよ、あやつの腹部を見るがよい。覚えがあるじゃろ」

「腹部?」


 腐れたはらわたが零れ落ちる腹部へ、嫌悪感を覚えながらも、そっと目を向けた。

 そこには……包丁? 一本の包丁が深々と穿(うが)っている。



 それは腐れた肉など関係なく、ナニカの存在の芯へ刺さっているかのように、体の深い場所に刃(やいば)を突き立てていた。



「あれは……まさか――っ! 象のおじさんの!!」


 そうだ、あれは紛れもなく、象のおじさんから貰った包丁。

 それが女性っぽいナニカに突き刺さっている。



 つまりは――!!


「お前は、あの女神なのか……」

「り、りょあああ」


 女神の口から漏れ出る凄まじい悪臭。

 しかしその奥底には、あの脳を溶かすようなお菓子の甘ったるい香気が、今なお、執拗に混ざり合っている。


 抜け落ちた歯、腐った皮膚、剥落(はくらく)した頭皮、悪臭を纏うみすぼらしい姿。


 そこには、美しかった創生神の姿は微塵もなかった。



「い、いったい、何が?」

 この問いに、アスカとヤマタノが答えを返してきた。


「おぬしに腹部を貫かれ、神としてあるまじき痛みという感覚に耐えられなかったのじゃ」

「完全無欠であるはずの自分(かみ)に対する、あり得ない感情を前に、自己存在そのものが矛盾して、壊れちゃったの~」


「痛み? 感情?」



 アスカは女神だったモノを見つめ、小さなため息をついた。

 そのため息は小馬鹿にしたわけでもなく、見下したわけでもなく、ましてや同情などではない。

 ただただ、呆れの籠ったため息。


「はぁ、まったく何をやっておるんじゃろうな」

「ほんとうなの~。この程度で凶神(まがつかみ)になるなんて、ダメダメな神なの~」

「ヤマタノも似たようなもんじゃがな。のう、凶蛇神(まがつへびかみ)」

「吾輩は龍なの! それに吾輩は由緒正しき災禍神(さいかしん)なの~。こんなぽっと出と同じにしないでほしいの~」



 二人は身の毛がよだつような存在の前で、のんびりと談笑を行っている。

 一方、俺はというと、女性から湧き出る呪いと腐臭を前に、体を小刻みに震えさせていた。


(なんだ、これ? 恐怖ってやつか? くそっ、やべぇってわかってるのに、足が動かねぇ)



 思考はしっかりしている。アスカやヤマタノの言葉だってしっかり理解できている。

 だけど、立ち上る凄まじい悪臭が、見えない鎖となって俺の喉元を締め上げ、全身の自由を奪い去る。


 女神が、俺の名を呼ぶ。

「リョウ、リョウ、許すまじ。りょおああああああああ!!」

「ひっ!」


 叫び声を前に腰を抜かしそうになった。

 すると背後から、この場の雰囲気からかけ離れた、妙に気の抜けた声が届いてきた。



「もう~、深夜に騒がないでといつも言ってるでしょう、アスカさん、ヤマタノさん」


 これは、ミュールの声!

「ミュール! 来ない方がいい!」


 慌てて振り返る。

 だが、俺の口から出かけた言葉は、その瞬間に悲鳴へと変わる。

「――ひぇっ!?」


 そこには――

 

 べっとりとした血で、真っ白なエプロンを真っ赤に染め上げたミュールが立っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。