第47話 ふざけた真実
――――食後
「し~は~、食ったのう」
「ぽんぽん、ぷっくぷくのパンパンなの~」
アスカはおっさんのようにつまようじを噛み、ヤマタノは風船のように膨らんだおなかを丸出しにして擦っている。
ミュールは二人のだらしない姿に見て、頭を抱えた。
「もう、お客様がいるのに。申し訳ありません、リョウさん」
「あはは、いいさ。おかげさまで少し緊張がほどけた、というか、落ち着いたというか」
神と聞いて緊張して、これからのことについて心の整理ができていなかった。
だけど、三人の残念なやり取りのおかげで、その重苦しい心がわずかだが和らいだ。
アスカはコップに向かってつまようじをプッと飛ばしてから、ミュールに声をかける。
「食後のデザートはまだかの?」
「まだ食べるんですか?」
「あるんじゃろ?」
「ありますけど……もう、食べるばかりじゃなくて、少しは家事を手伝ってくださいよ」
「ワシは家事が苦手での~」
「吾輩もなの~」
「二人とも、私より料理の腕は上じゃないですか! もう!」
ミュールはテーブルの上の鍋と食器類をワゴンへ載せて、部屋から台所へと向かっていった。
アスカは手を振って見送り、次に俺へ顔を向けてくる。
「さて、リョウよ。おぬしの境遇について少々込み入った話をしても良いじゃろうか?」
「え、ああ、構わないけど……って、俺はまだ女神の話しかしてないだろ。二人とも食ってただけだし」
「ほら、ワシら神じゃし。おぬしから聞かずともわかるんもんじゃ」
「なるほど、さすがは神様」
「そうじゃろう、そうじゃろう」
気持ち鼻を高くして、得意気に声を上げるアスカ。しかし、ヤマタノが片手をひらひらと振ってネタ晴らしをしてきた。
「ぶっちゃけ、いまリョウは有名人なの~。だから、ある程度力を持った存在なら、みんな知ってるの~」
「こら、ヤマタノ! 余計なこと!」
「むしろアスカちゃんは最近知った方なの~。ずっとネトゲばっかりやってから~」
「だから、余計なことを言うなと言うちょるんじゃ! そんな奴の頬っぺたはいらん子じゃ、この~」
「いたた、こっちもこの~なの~」
二人してほっぺの引っ張り合いが始まった。
俺はそれを止めに入る。
「ケンカはやめろって。なぁ、ふたりとも、俺が有名ってどういうことなんだ?」
「ふぉれな、ふぉふぉふさふぁああ」
「ふぉそふぁふぁふぁなふぉ~」
「だから、ほっぺの引っ張り合いはやめろって!」
二人を引きはがす。
そこに食後のデザートを運んできたミュールがやってきた。
「タルトと紅茶でいいですよね」
「来たのじゃあ!」
「あ~ま~いお菓子なの~」
お菓子に群がる二つの背中に俺は声をぶつける。
「頼むから、話の腰を途中で折らないでくれ!!」
――その後
お菓子とお茶を味わいつつ、何とか俺ついての話へ戻すことに成功した。
アスカは手についたクリームを舐めとりつつ尋ねてくる。
「管理者をぶん殴る。くくく、くはははは、言いよるなぁ、リョウよ」
「笑うなよ! そりゃ、あんたらから見たら俺なんてちっぽけな存在だろうし、無謀かもしれないけどさ!」
「許せ。じゃがの、これは馬鹿にした笑いではないぞ」
「じゃあ、なんの笑いってんだ?」
「ただ、愉快じゃから笑ったのじゃ」
「同じことじゃねぇか!!」
「え~、全然違うんじゃがの~」
アスカは口を尖らせて不満そうな声を漏らした。
そこに、タルトからフルーツを一つ剥がしては口に放り込んでいたヤマタノが話の道筋を戻す。
「アスカちゃんは、何か話があるんじゃなかったの~?」
「そうじゃった、そうじゃった。おぬし、管理者のことを全く知らんのじゃろ」
「いや、少しは知っている。あいつは、え~っと……」
もう一人の自分を表す言葉に悩む。
その悩みが行き着いた先は……。
(オリジナルのリョウ……オリジナルという言い方には不満があるけど、それが一番わかりやすいからなぁ)
そんなわけで、俺はリョウ。あいつはオリジナルのリョウと分けることにした。
「オリジナルのリョウから、ざっくりとは」
「そうか、では、おさらいのつもりで話すとするかの。管理者というのはな――」
管理者――まったく異なる世界に存在する、純粋な力の塊。とある少年と接触したことをきっかけに、少年の心を元に自我を形成した。それにより、こちらの世界に興味を持ち、独自に似た世界を形成するも失敗。
そこで、俺を生み出して、人間の視点で失敗の原因を探ろうとした。
「管理者の力は強大じゃ。じゃがの、世界の創造というものに関して無知じゃったのじゃ。そのため、おぬしという窓口を使って学ぼうとしたのじゃが……ま、非効率的な方法じゃな」
「非効率だろうが何だろうが勝手にすればいいけど、わざわざ俺を作る必要はないだろう!」
「管理者にとって、ワシらの世界との接点は少年だけ。ゆえに、少年を模倣するという考えにしか至らなかったんじゃろうな」
「勝手な!」
「その通り、勝手じゃ。管理者は興味を抱くも、無知がゆえにその内側まで知ることができぬ。内側……心を知らぬから、おぬしや看板のような存在を考えもなしに生み出す。生み出された存在が、どれほど苦悩するかも理解できずにな」
「ふざけんな! 知らないからって、俺や看板を―――え? 看板?」
俺は爆発しかけた感情を前に、看板の名前が心に引っかかった。
「どうして、そこで看板が出てくるんだ? あいつは管理者の手下みたいな存在だろ? それなのに、苦悩?」
アスカはゆっくりと顔を左右に振った。
そして、心底ふざけた真実を口にした……。
「あの看板もまた、少年を模倣した存在。少年の心に、故郷である地球のネット情報を掛け合わせて作った存在なのじゃよ」




