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世界が滅びたので看板を片手に旅に出ます  作者: 雪野湯
第十章 あなたの世界

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第41話 不思議な兄妹

 長い黒髪と黒い瞳を持つノースリーブの少女は、スマホをロングスカートに収めると、俺を怪訝そうな表情で見つめてきた。


「本当に何してるの? パジャマでウロチョロって、罰ゲーム?」

「そういうわけじゃ……そっちこそ、なんでここに?」

「クロワッサンを買いに来ただけだよ。急に食べ……たく……ん?」



 柚迩(ゆに)は俺をまじまじと見つめ、次には数歩後ろへ下がり、気配を凍りつかせる。

「あんた――お兄ちゃんじゃない! 何者!?」

「うぐっ」


 紫外線が肌を突き刺し、湿気が渦巻いていた場が、一瞬にして熱を失った。

 背中を伝う汗は寒気(さむけ)を呼び起こし、深奥に『死』という永遠の冷気を届けてくる。

 軋む瞳を、少女へ向ける。


(こ、この子、なんだ? 纏う気配は……勇者や魔王――いや、あの女神よりも遥かに強い!!)



 神を軽く超える静寂の闘気を前に、呼吸すらまともにできない。


 少女の指先がわずかに動く。

 次の瞬間には、俺は塵よりも小さく消失するだろう……そう感じていたのだが……。

 彼女は動かした指先を、ほっぺたに当てた。


「う~ん、大した力は持ってないんだ。何度も殺したのに、反応しないし」

「……殺した?」

「うん、闘気の幻体(げんたい)ってやつで、あんたをぼっこぼこにしたんだけど、それすら感じてないみたいだから、普通の人っぽいなって」

「ああ、そう、なんだ……」


 何なんだこの子は!?

 闘気の幻体って?

 力のヤバさといい、こんな子、地球に居ていい存在じゃないぞ!!


 柚迩(ゆに)は軽く息を挟み、俺に尋ねてくる。

「なんで、お兄ちゃんの姿をしてるの? 私を騙すため?」

「そういうわけじゃないよ。事情があって」

「事情?」

「実は……」


 俺はオリジナルの少年から言われた通り、少年が異世界で冒険したことも、不可思議な力を使えることもうまく誤魔化して、管理者という存在に弄(もてあそ)ばれていることと、自分が自分じゃなかったことを伝えた。




 彼女はそれらを、自分の都合に当てはめて、状況を納得した。

「その管理者って人に覚えはないけど、もしかしたら、直接私に手出しできないから家族を狙ったのかも。お兄ちゃんの複製を作って情報を分析……? にしては、回りくどいけど……う~ん」


 頭をブルンブルンと振り、さらにはぼりぼり掻いて、両手を軽く上げた。

「やめ~た、考えても仕方ないし」

「え? そんな適当でいいのかよ。自分で言うのもなんだが、君から見ると俺は相当怪しいし、本当のことを話してるとも限らないんだぞ」


「うわっ、お兄ちゃんの姿で『君』とか言われるの気持ち悪い……」


「そこはほっといてくれ!」

「まぁ、あんたがお兄ちゃんじゃないってのは、今の言動ではっきりしたし。それで十分」

「十分かなぁ?」


「だって~、心当たりがありすぎて、誰が何を企んでるのかさっぱりだし」

「……どゆこと」

「私って、宇宙中に敵がいるのよね?」

「はい?」



 柚迩(ゆに)は空を見上げて、こう言葉を続ける。

「私、宇宙人に誘拐されてさ、その後なんやかんやで、宇宙中を冒険した経験があるんだよね」

「……は?」

「その時に巻き込まれた騒動で、色んな宇宙人たちに逆恨みされちゃってさ。ま、突っかかってくるたびに、返り討ちにしてやったんだけど……今回も、そんな連中が、なんかちょっかいかけてきたのかなって」



 話を聞いた俺は口を半開きにして、心ここにあらずといった状態で呆けていた。

(どこまでが本当なんだ? いや、でも、この子の只者ではない気配……マジだとしたら、あの少年と言い……何なんだ、この兄弟は?)



 かたや死んで異世界へ渡り、神も認知できない存在の力を得る。

 かたや宇宙人に誘拐され、宇宙中を冒険している。


「はぁ、なんだろう。この二人から比べると、俺の事情が大したことないように感じてきた……」



「どったの? 急に頭なんて抱えて?」

「いや、なんでもない」


「そう? あのさ……」

「なに?」


「もし、私のせいで作り出されてしまったのなら、ごめんなさい」

「いや……いやいや、君が――」

「ごめん、柚迩(ゆに)って呼んでくれる。君って呼ばれるたびに鳥肌が……」

「ああ、わかった。えっと、ともかく柚迩(ゆに)が悪いわけじゃない。この――」



『この件には無関係』と言いそうになって、言葉を飲み込む。

 言えば、なぜそう言い切れるのかという、詰問攻めにあう。

 俺の知る妹なら、疑問が生まれたら容赦なく追及してくるからな。


 俺はもう一度、彼女へ言葉を渡す。

「柚迩(ゆに)は悪くない。これは……そうだな。俺自身の問題なんだと思う」

「あんた自身の?」

「……うん」


 俺は今、どうしたらいいかわからない。


 記憶は借り物。


 存在すら誰かの都合で作られたもの。


 そんな俺が、この先どんな道を歩けばいい?



 その道が……見えない……。

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