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世界が滅びたので看板を片手に旅に出ます  作者: 雪野湯
第九章 お菓子の世界

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第37話 模倣体

――――草原


 戦いを終えた俺たちはいつもの草原へ戻ってきた。

 俺は看板を適当な場所に刺して、全身に圧し掛かる疲労感のなすがまま、地面へへたり込んだ。


「はぁ~」


 ため息を一つ落とす。

 そして、女神の苦しむ姿を思い起こして、力なく声を漏らした。

「後味悪」


 女神は俺を殺そうとしたとはいえ、苦しんでいる者を放置してきたという罪悪感が心を満たす。



 その心に気づいた勇者と魔王が声をかけてくるが……。

「気にする必要はないよ、リョウ。あれは当然の報いだったんだ」

「己の安全のためには必要な行為だ。気に病むことはない」


 慰めているつもりなんだろうけど、戦いに身を投じ続けていた人たちのアドバイスは、俺には響かない。

 覚悟が……違いすぎるから。


「はぁ」

 再び、短くため息を漏らす。



 そのため息は、俺の意識を女神の末路から切り離し、彼女が発した一言へ誘(いざな)う。

 彼女は俺の首を握りしめて、こう言っていた。



『まずは貴様からだ。模倣体め』



「もほうたい……模倣……複製、コピー、真似っこ……」


 奥歯に力が籠る。歯の軋む音が苛立ちを奏でる。

 俺は勢いよく立ち上がり、一度、感情を鎮めるために深呼吸を行った。

 そこから、語気に力を込めて、看板へ尋ねた。


「す~、は~……看板、模倣体って、どういう意味だ?」

「…………」


 看板は答えない。俺はまだ、落ち着いて尋ねる。

「女神は俺のことを模倣体と言っていた。これは、どういう意味なんだ?」

「…………」


 看板は答えない。

 俺は下唇をキュッと噛み、爪が白く染まるほど強く、拳を握りしめる。

 


 もう、言葉に冷静さを纏う余裕はない。

「模倣体ってどういう意味だって尋ねてるだろうが! 答えろ、看板!!」

「…………僕は……」


 看板は沈黙と一人称を挟み、それ以上文字を刻まない。

 俺はもう……自分を抑えられそうにない――


 苛立ちが、暴風となって心をかき乱し、激情が理性を食い潰していく。

 次の瞬間には獰猛な獣と化し、感情のままに暴れ出すだろう。



 だが、その時、看板が言葉を刻んだ。


「――僕の役目を話そう!」


 刻まれた文字は、今の俺には不要なもの! そんな誤魔化しに付き合う気はない!!

「ふざけるな! 何がお前の役目だ!? お前のことなんてどうでもいいんだよ!! 俺はな! 自分のことが――」


「落ち着いてください、リョウさん! きっと、看板さんには話せない事情があるんです」

「黙っててくれ、メル! こいつはいつもいつも、話をはぐらかして――」

「ですが今は、話せる範囲で話そうとしているのではないでしょうか?」

「なに!?」



 メルは真っ白な尻尾を揺らし、看板と向き合う。

「あなたにとって、役目を話すという行為自体が、良しとされない行動なのでは?」

「……うん」

「それでも話すということは……制約の枠内で、リョウさんへ情報を渡そうとしてる。そう受け取っても良いでしょうか?」


「……僕は……そうだね……僕はおかしいのかも」


「いえ、おかしいとは思いません。あなたに宿る不可思議な感情は、あなたとリョウさんとの間に、絆というものが生まれた証ではないでしょうか」

「絆……あり得ない……僕の役目は……彼を監視して誘導すること。そうさ、絆なんてない。必要なことを、必要な情報を提供するだけだ。彼に対して、ね。今もそうだ……」



 看板は改めて、文字を刻む。

「僕の役目を話そう。そこに含まれる情報が、君の役に立つかもしれない。聞いてくれる?」

「……………………わかった。話せよ。だけど、納得できなかったら……」


 納得できなかったら……できなくても、俺は看板相手に手も足も出せない。こいつを傷つける力も、問いただす力もない。

 

――無力だ。



 だから――ただ、ちっぽけな恨み言をぶつけるだけしかできない。

「その時は……俺はお前を、許さない」

「……わかった。では、話すよ。僕の役目を」



 看板は文字を刻み始める。

「僕の役目は君の監視と誘導。理由は、僕の主(あるじ)である管理者が、世界を滅亡させてしまったから」

「それだと、俺とどう繋がっているのかわからないな」



「うん、そうだね。順を追って話していくよ。ある時、とある少年が管理者と接触した。それにより、純粋な力の塊であった管理者に、好奇心というものが生まれた。管理者はその好奇心をもとに、一度は世界を創造した」


「で、滅亡した?」

「ううん、少し違う」


「少し?」

「管理者自らが滅ぼしたんだ……理由は予定された世界からズレが生じ始めたから。そして、そのズレの原因が管理者にはわからなかった。そこで……君を生み出した。接触者である少年をもとにして」



 俺は反射的に語気を荒げ、看板へ詰めよろうとした。

「その少年ってのがオリジナルで、俺はその模倣体ってわけだ! だとしたら――」


「落ち着くんだ、リョウ!」

「貴様の怒りは理解できる。しかし、いま発露を行えば、貴様の望む情報は得られん」


「~~~~くそっ!」


 勇者と魔王に諭されて、どうにか激情を抑え込んだ。腹立たしいが、俺はまだ冷静なようだ。

 続きを看板に催促する。


「さぁ、続けろよ、看板!」

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