第34話 ただそれだけの関係……のはず
――空
「はぁはぁ、死ぬかと思った」
「うん、あの攻撃はちょっとやばかった」
「攻撃のことじゃない、お前の速度のこと!」
「うるさいなぁ、シールドを張っているから内部は問題ないのに」
俺は看板に尻を置き、柄を握りしめて空を飛んでいる。なので、看板の文字は今、柄の部分に浮かぶ方式で意思の疎通を図っていた。
「これからどうする、看板?」
「何とかこの世界から脱出する方法を見つけないと」
「その何とかの内容は?」
「考え中」
「そっかぁ。ああ、もう。なんでこんなことに? あの女神様は何がしたいの? 難しい話抜きで噛み砕いて」
「人間を見下していて、神に比類する成長を嫌っている。ぷらす、僕と君のことが嫌い」
「俺とお前のことが? なんで?」
「……僕と君が……神にとってイレギュラーな存在だから」
「うん?」
「神にとって理解不能な存在なんだよ、僕たちは。全知全能の神からすると、不都合な存在。だから、気に食わないって神もいるってことさ」
「俺たちが神にとって理解不能? それは?」
「……答えは自分で見つけて、これが僕ができる最大限のアドバイス。これでも役割から外れたあり得ないアドバイスなんだから!」
「看板、いまのは?」
問いかけると、看板の柄から熱が消えた気がした。
(どうして僕はいま、余計なことを? 彼は見る者。僕は見張る者。ただそれだけの関係のはずなのに……何かがおかしい?)
看板の様子が変だ。もしかして、女神にビビってたり?
俺は看板に声をかけようとした。
だけど、看板の短い声にかき消される。
「看――」
「くるよ!」
「――へ?」
突如、無数の光の球弾が空を覆うように炸裂した。
シールド越しでも、耳の奥を叩くような破裂音が連続して、体に痺れを与える。
「ひいぃいぃぃ!」
「逃れられると思うな!」
後方から女神が追いかけて、ひたすら光の弾を放ち続ける。
それでも看板は、炸裂する衝撃と熱の合間を縫いながら高速で空を飛び続ける。
「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!」
「僕が君を死なせない!!」
先ほどまで冷たく感じてた柄が、一気に熱を帯びたように感じた。
(何故、僕はこうも熱く? もしや、これは僕の感情? ――違う、僕に与えられた役目は彼を守ること!? その思いが、そう錯覚させているだけだ!!)
「リョウ、しっかり捕まっててよ!」
「おう!!」
俺はいつもと違う感情むき出しの看板の声に戸惑いを覚えつつも、奇妙な感情が心に灯ってた。
それは……嬉しいという感情。
でも、それ以上に、恐ろしい危機が訪れつつあった。
「看板!」
「どうしたの?」
「漏れそうなんだけど、だめ?」
「殺す!」
さっきまで死なせないと言ってくれた騎士様から、容赦のない一言を頂きました。
「だけど、こう激しく動かれたら内臓が重力でふわっとなって、油断したら」
「我慢して!」
「我慢も限界がある。起死回生の一手はないの?」
「考え中」
「穴ぽこへの道をこじ開けられない?」
「こっち側からは完全に封鎖された!」
「じゃあ、その逆は問題ないんだな?」
「え?」
ここで俺は、おもらしと戦いながら微笑んだ。
「もしそうなら、戦いようがある――看板、少しの間だけでいい! 神の目から逃れてくれ!!」
「それ、けっこう厳しめの要求! でも、やるよ!!」
看板は後方に、キラキラとした紙片を生んだ。
次の瞬間には最大速度で、一時、戦線を離脱した。
背後に置き去りにした女神の視線が、俺の背中を焼き焦がさんばかりに突き刺さる。
それは心そのものを握り潰しにかかるような、凶悪な重圧――。
「またもや、連邦の欺瞞道具……神の目を奪う魔導科学。忌々しい連中めが!!」




