第32話 甘いものが足りない
メルから大まかに彼女の仕事について聞くことができた
「へ~、それじゃ、メルは二人にずっとつく感じなんだ?」
「はい、他世界だと言語や風習の違いがありますから、その補助を行うのが案内人である私の役目となります」
「言語かぁ。そういや気にしてなかったけど、俺は他の世界でも普通にしゃべってるな」
「それは看板さんの翻訳機能のおかげですよ」
「え、こいつにそんな機能があったんだ?」
振り返る。
「どやぁ~」
無視する。
俺は『案内人』というワードに小首をかしげる。
「他の世界を案内する案内人という仕事があったりするの? 君や看板みたいに?」
「そうですねぇ。あなた方はかなりのレアケースですのね、通常はありませんね」
「そうなんだ。メルはどういう流れで二人のサポートに?」
「私たち猫の一族は、この宇宙に張り巡らされた『空間』を管理する一族です。そのため、空間を行き来する存在に大きく関わることがあります。今回はその延長上でのお仕事、ということになりますね」
「猫って、そんな存在だったんだ……」
宇宙の謎の一つに触れつつ、食事が進み、それが終わる。
勇者と魔王はしばしメルと今後の方針を話し合うため草原に残り、俺はポイント稼ぎのために穴ぽこへ向かうことにした。
その際、勇者から甘いものが食べたいから砂糖を見つけて来いと言われた……食ってばっかりのくせに!!
とはいえ、俺もチョコレートやケーキが食べたい。
看板を片手に、小さく肩を落とす。
「だけど、カカオは難しいだろうな。手に入れても、どう扱っていいかもわからないし。ポイント使う? でも、魔王が嫌な顔するだろうしなぁ」
「何の話?」
「甘いお菓子が食べたいけど、ポイントは消費したくないって話」
「ふ~ん」
看板に猫の目が浮かぶ。そして、なんでか俺の腹の部分を見つめる。
(お菓子にポイントを使うことを悩む前に、装備を整えるという発想はないのかなぁ? 包丁をお腹において、さらしに巻いてるだけだし)
こいつがいま何を思っているか知らないが……俺は俺でこいつに対する小さな疑問が今ここで沸いた。
メルを見て、すぐに看板へ戻す。
「前から思ってたんだけどさ、なんでお前、猫の目なの? 猫の一族に関係してるとか?」
「ううん、無関係。僕が猫っぽい表示をするのはたぶん……猫を飼っているから……いや、飼うことになるから? そのイメージが反映してるのかもね」
「飼ってるから? 飼うことになるから? それはお前が飼ってるの? これから飼う予定があるの?」
「うんうん、謎だよね。でもね、その謎こそが謎なんだよ」
「わけわからん……」
なぞなぞか? それとも、隠したい何かがあるのか? こいつが猫を表すことに?
「……駄目だ、マジでわからん」
「あんまり気にしちゃ駄目だよ」
「謎の張本人が言うな! ま、お前が秘密主義なのは今に始まったことじゃないしな。気にしても仕方がない。では、テキトーな穴ぽこに入りますか」
草原のそこかしこに存在する、ぽっかり空いた穴ぽこへ飛び込む。
相変わらず、移動中に体が伸びたり歪んだりするが、痛みも何もない。意識が途切れることもない。
やがて、激しい光が近づいてきて、俺と看板を包み込む。そうして異世界へ――――これがいつもの穴ぽこ。
だけど、今回は違った!!
突然、ものすごい力に肉体全体を無理やり引っ張られた。
「な、なんだ!?」
「こ、これは――――介入!?」
「介入? なんだそりゃ」
「何者かが空間の通り道へ介入してきた! 僕たちの転移先を書き換えようとしている!!」
「どこかへって、どこに? ってか、何者って何者だよ!」
「わからない! でも、これが行えるとしたら――――」
看板の言葉が終わりへ届く前に、俺たちは意図しない世界へと放り出された。
「あだっ……いや、痛くない」
地面に叩きつけられるように飛び出したのに、痛みが全くない。
俺は地面に触れる。
地面は俺の手を柔らかく押し返す。
さらに押し込む、すると、ずぶりと手首まで埋まった。
「なにこれ? それに、この甘ったるい匂い……」
鼻孔を包む、甘い匂い。
俺は地面から手を抜いて、纏わりついた物体を凝視した。
「これは……ケーキ生地?」
瞳を動かして、ゆっくりと周囲を観察する。
そこにあったのは、お菓子でできた家。地面に咲く花は飴細工。シュークリームの岩。空には綿菓子が浮かぶ。
子供心をくすぐる世界……だけどなぜか、ねばりつくような生理的な不快感が、甘ったるい空気に染みついている。
「ここは一体……?」
「神が生命体を排除した世界――逃げるよ、リョウ!」
「はい?」
「ここは偏狭なる神が治める世界! 低次元存在にとって極めて危険な世界なんだよ、リョウ!!」




