第31話 にゃんこの案内人
――――草原(リョウがいる世界)
「魔王、そこの塩取ってくれるか?」
「ああ、これか?」
俺と魔王は、勇者の『強い要望』を受けて、ポイントを消費し、生み出した調理台の前で料理をしていた。
焼き魚に塩をパラリとかけながら、調味料の乏しさを嘆く。
「塩には余裕があるけど、砂糖が足らないなぁ」
「まったくだ。甘味料が貴重という世界が多いようで、なかなか手に入らぬ」
「この前、プリンを作るのに使ったのはまずかったかなぁ?」
「いや、耐えるだけというのでは、心が参ってしまう。あれはあれでよかったであろう」
「そう? じゃあ、どうする? 足りない分はポイントを消費して、購入しよっか?」
「使用ポイントはさほどではないだろうが、その意識の低さが積み重なると大きなものを失うことになるぞ」
「うへ~、優しいようで厳しいねぇ、魔王様は。それに引き換え……」
「食事はまだできないのかな?」
フォークとナイフを手にして、ご丁寧に真っ白なナプキンまでかけた勇者が「メシメシ」とうるさい。
俺はそんな勇者をじとりと見た。
「なんであんたは料理できないの? 魔王は王族なのにできるんだぞ」
この問いに、包丁でキャベツを千切りにしていた魔王が答えてきた。
「勇者は超が付く上級貴族であるから、料理の経験がないのだろう」
「え、そうなの!? 俺のイメージだと、冒険者からやがて勇者へ……みたいなイメージだったけど」
「開祖はそうだったやもしれぬが、この者の場合、代々勇者であり、その家督を継いでいるだけだからな。よし、皿の準備をするか」
「へ~、勇者ってお坊ちゃんなんだ」
「……うるさいな」
勇者は不機嫌そうにそっぽを向いた。お坊ちゃん扱いが気に食わなかったようだ。
俺は揚げ物を皿に盛りつけている魔王へ視線を移す。
「魔王はなんで料理できるの? それこそ縁遠そうだけど」
「もともと我は、貧しい下級貴族の出だからな。だが、様々なことが重なり、王となった」
「苦労を知ってるわけか……どっかのお坊ちゃんと違って」
「うるさいよ……」
と、文句をぶーたれても、決してナイフとフォークを手放さない勇者のために料理を並べてあげるとするか。
勇者がポイントを使用して、草原にウッドデッキとテーブルとチェアを生み出したので、そこで食事を行う。
魔王はそのポイント使用に厳しい態度で「必要ないのではないか」と言っていたが、勇者が憩いの場は必要と頑として譲らなかった。
近くに看板を刺して、俺、魔王、勇者……そして、真っ白な人型の猫がそれぞれ椅子に座――――!?
「待った! 誰、この子!?」
俺の正面に直毛種の白猫がいる。しかも、小学高学年くらいのサイズで二本足で立って!?
その白猫は、体毛とは真逆の真っ黒な三角帽子に、ゆったりとした黒の導師服を纏っていた。
猫はテーブルに紫色の宝玉が付いた魔導杖を立てかけて、俺に蒼と紫が溶け合う瞳を向けつつ、鈴を転がすような美しい声を発した。
「初めまして、勇者さんと魔王さんの案内人を担当しています、メルと申します」
「え? ああ、そういや看板が二人に案内人をつけると言ってたな……その、こちらこそ初めまして、リョウと言います」
「はい、よろしくお願いします。基本的な事情はお二人から伝えられております。今日はご挨拶に伺いましたが、料理に集中しているようでしたので」
一拍をはさみ、深々と頭を下げる。
「ご挨拶が遅れてしまい、申し訳ございません」
「いえいえ、こちらこそ来客に気づかず、すんません――あだっ!」
急いで席から立ち上がろうとして、テーブルに膝を打ってしまった。
メルが心配そうに声をかけてきたので、痛みをぐっとこらえて虚勢を張るとコロコロと笑った。
その所作や声の柔らかさから、おそらく女性だと思う。
美しい毛並みとキラキラな瞳。そして猫特有の愛らしさに、思わず見とれてしまう。
そこから俺は視線を滑らせ、地面に刺さった看板を見た。
「なんで、俺の案内人は、味もそっけもない看板なんだろう……」
「え、ひどくない?」
「なんかもっと、親しみやすい姿とかになれないの?」
「看板は世界中にある、とても身近で親しみやすいものだと思うけど?」
「ある意味、その通りだけど……人型になる予定とかは?」
「ない」
「実は中の人が、美少女だった的な展開は?」
「そのような大衆迎合主義に走ることはない。あしからず」
「は~、しかたない。では、チェンジで」
「お客様、当店はそのようなサービスを行っておりません」
看板は絶対に看板で揺るがないようだ。
このやり取りを見ていた勇者・魔王・メルはこう話してる。
「ふふ、良いコンビに見えるけどね」
「やり取りの内容は、女性を前にして品に欠けるものだがな」
「いえいえ、このくらい可愛いものですよ、くすっ」
う~ん、完全に子ども扱い。
これ以上、話のおつまみにされてもなんだから、看板を無視して食事を取りつつ、会話を始めた。




