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世界が滅びたので看板を片手に旅に出ます  作者: 雪野湯
第九章 お菓子の世界

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第31話 にゃんこの案内人

――――草原(リョウがいる世界)



「魔王、そこの塩取ってくれるか?」

「ああ、これか?」


 俺と魔王は、勇者の『強い要望』を受けて、ポイントを消費し、生み出した調理台の前で料理をしていた。

 焼き魚に塩をパラリとかけながら、調味料の乏しさを嘆く。 


「塩には余裕があるけど、砂糖が足らないなぁ」

「まったくだ。甘味料が貴重という世界が多いようで、なかなか手に入らぬ」


「この前、プリンを作るのに使ったのはまずかったかなぁ?」

「いや、耐えるだけというのでは、心が参ってしまう。あれはあれでよかったであろう」


「そう? じゃあ、どうする? 足りない分はポイントを消費して、購入しよっか?」

「使用ポイントはさほどではないだろうが、その意識の低さが積み重なると大きなものを失うことになるぞ」

「うへ~、優しいようで厳しいねぇ、魔王様は。それに引き換え……」



「食事はまだできないのかな?」

 フォークとナイフを手にして、ご丁寧に真っ白なナプキンまでかけた勇者が「メシメシ」とうるさい。



 俺はそんな勇者をじとりと見た。

「なんであんたは料理できないの? 魔王は王族なのにできるんだぞ」



 この問いに、包丁でキャベツを千切りにしていた魔王が答えてきた。


「勇者は超が付く上級貴族であるから、料理の経験がないのだろう」

「え、そうなの!? 俺のイメージだと、冒険者からやがて勇者へ……みたいなイメージだったけど」


「開祖はそうだったやもしれぬが、この者の場合、代々勇者であり、その家督を継いでいるだけだからな。よし、皿の準備をするか」

「へ~、勇者ってお坊ちゃんなんだ」


「……うるさいな」


 勇者は不機嫌そうにそっぽを向いた。お坊ちゃん扱いが気に食わなかったようだ。

 俺は揚げ物を皿に盛りつけている魔王へ視線を移す。

「魔王はなんで料理できるの? それこそ縁遠そうだけど」


「もともと我は、貧しい下級貴族の出だからな。だが、様々なことが重なり、王となった」

「苦労を知ってるわけか……どっかのお坊ちゃんと違って」


「うるさいよ……」


 と、文句をぶーたれても、決してナイフとフォークを手放さない勇者のために料理を並べてあげるとするか。


 勇者がポイントを使用して、草原にウッドデッキとテーブルとチェアを生み出したので、そこで食事を行う。

 魔王はそのポイント使用に厳しい態度で「必要ないのではないか」と言っていたが、勇者が憩いの場は必要と頑として譲らなかった。



 近くに看板を刺して、俺、魔王、勇者……そして、真っ白な人型の猫がそれぞれ椅子に座――――!?


「待った! 誰、この子!?」



 俺の正面に直毛種の白猫がいる。しかも、小学高学年くらいのサイズで二本足で立って!?


 その白猫は、体毛とは真逆の真っ黒な三角帽子に、ゆったりとした黒の導師服を纏っていた。

 猫はテーブルに紫色の宝玉が付いた魔導杖(まどうじょう)を立てかけて、俺に蒼と紫が溶け合う瞳を向けつつ、鈴を転がすような美しい声を発した。


「初めまして、勇者さんと魔王さんの案内人を担当しています、メルと申します」

「え? ああ、そういや看板が二人に案内人をつけると言ってたな……その、こちらこそ初めまして、リョウと言います」


「はい、よろしくお願いします。基本的な事情はお二人から伝えられております。今日はご挨拶に伺いましたが、料理に集中しているようでしたので」


 一拍をはさみ、深々と頭を下げる。

「ご挨拶が遅れてしまい、申し訳ございません」

「いえいえ、こちらこそ来客に気づかず、すんません――あだっ!」


 急いで席から立ち上がろうとして、テーブルに膝を打ってしまった。

 メルが心配そうに声をかけてきたので、痛みをぐっとこらえて虚勢を張るとコロコロと笑った。


 その所作や声の柔らかさから、おそらく女性だと思う。

 美しい毛並みとキラキラな瞳。そして猫特有の愛らしさに、思わず見とれてしまう。



 そこから俺は視線を滑らせ、地面に刺さった看板を見た。

「なんで、俺の案内人は、味もそっけもない看板なんだろう……」

「え、ひどくない?」

「なんかもっと、親しみやすい姿とかになれないの?」

「看板は世界中にある、とても身近で親しみやすいものだと思うけど?」


「ある意味、その通りだけど……人型になる予定とかは?」

「ない」

「実は中の人が、美少女だった的な展開は?」

「そのような大衆迎合主義に走ることはない。あしからず」


「は~、しかたない。では、チェンジで」

「お客様、当店はそのようなサービスを行っておりません」



 看板は絶対に看板で揺るがないようだ。

 このやり取りを見ていた勇者・魔王・メルはこう話してる。


「ふふ、良いコンビに見えるけどね」

「やり取りの内容は、女性を前にして品に欠けるものだがな」

「いえいえ、このくらい可愛いものですよ、くすっ」



 う~ん、完全に子ども扱い。

 これ以上、話のおつまみにされてもなんだから、看板を無視して食事を取りつつ、会話を始めた。

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