↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界が滅びたので看板を片手に旅に出ます  作者: 雪野湯
第八章 絵本のようなせか……い?

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/110

第30話 少女と神様

――豚小屋……ならぬ、店子(たなこ)の部屋。



 ミュールは木製の扉を開けるなり、怒鳴り声を上げます。

「アスカさん! ご近所迷惑だから静かにしてって言っているでしょう!」


 真っ暗な部屋。その一角に、モニターの光と七色に光る箱。 

 その前に座る……十一歳固定の姿をした少女。

 

 絹糸のように艶やかで美しい桃色の髪に、太陽の光を纏う金色の瞳。

 髪の隙間からは、くるんと巻いたヤギのような角。

 真っ白なワンピースに、腰の部分から飛び出している七色の翼。お尻からは巨大なトカゲの尾っぽがポテンとぶら下がる。



 『見目だけ』は大変愛らしい少女が、ミュールに泣きついてきました。

「ミュール、こいつらチーターなのじゃ!! なんでダムダム弾が遠距離で壁を貫通してくるんじゃよ!!」

「また、ネットゲームですか……もう、神様なのに何をやっているんですか……」



 そう、このアスカと呼ばれる少女は、なんと――神様なのです!!


 その神である少女アスカはミュールに抱き着こうとしたところで、彼女が手にしている釘バットの存在に気がつきました。


「みゅ~るぅぅっと、なんじゃ、その不穏なモノは?」

「アスカさんがうるさいから、神殺しを宿したこのバットでボコろうかと……」

「神をボコろうとするな! なんちゅーやつじゃ」


「静かにしてと言っているのに、全然言うことを聞かないからじゃないですか。もういい加減にしないと、追い出しますよ」


「くっ、それはちと困るのじゃ。ここは神気に満ちて過ごしやすい世界じゃからの。メタ目線でワシらを語るのは玉に瑕じゃが……」

「なんでもいいですけど、この世界に居たいなら大家の私に従ってください。いいですね!」



 ミュールはバットをポーチへ納め、話を本題へ移します。

「アスカさん、この世にあってはならぬ非(あら)ざる存在と……『かさ』っと、アスカさんのような力ある存在の前で、彼のフルネームは厳禁でしたね。えっと……リョウさんらしき人を見かけました。一体、何事が起きているのですか?」


「ほ~、どういうことじゃ?」


「私が尋ねてるんです! 全知全能の神の分際でなんで知らないんですか!?」

「神を分際扱いするな! 以前から言っておろう、ワシは神生(じんせい)縛りプレイで楽しんでおると。先を知るとは、つまらんからの。ゆえに、全知は休業中なのじゃ!」


「無知を娯楽にしないでくださいよ……」



 呆れて肩を落とすミュールを前に、アスカは両腕を組んで、いかにもあざとく小首を愛らしく捻りました。

「ま、知らぬ事象とはいえ、理由はなんとなくわかるがな」

「なんです、その理由って?」


「先ほど出た、全知のためじゃな」

「全知の?」


 アスカは大きく両手を広げます。

「よいか、ミュール。神の全知とは全てを知っていることを意味するのではない。全てを知ることができるという意味なのじゃ」


 この言葉を、ミュールは瞬時に理解して噛み砕く。

「……つまり、パンを見ただけで、原材料から作り方まで。果ては、アレンジ方法まで知ることができる、ということですか」

「その通りじゃ」



「なるほど、見えてきました。要するに、認知外のものに関しては、知りようがないというわけですね。しかし、一度知れば、全てを看破できる」


「さすがミュールじゃな、余計な説明せずともあっさり理解してきおる。その非(あら)ざる存在は、神にとって認知外の存在。じゃが今回、あちらから接触をしてきた。ゆえに、様々な神がこれを機会と捉え、その存在を全知の枠に入れようとしているわけじゃな」


「理解しました。私たちの世界で彼らが自由に活動することを許されているのは、神が知る機会を多く得るためというわけなんですね」

「ピンポンじゃ」



「ですが、一つ腑に落ちません。何故、リョウさんなんですか?」

「接触者、だからじゃろうな」

「それは看板さんも言ってました……つまり、彼という存在が窓口になっている?」

「そんなところじゃろう」



 ミュールは眉をひそめつつ、両腕を組みます。

「彼に触れることは、禁忌なのでは?」

「大丈夫じゃろ。その非(あら)ざる者は拒絶されておる形じゃからな。ゆえに、事が起きにくい。じゃが、他の者が触れようものなら、どうなるか……」


「アスカさんのような強力な存在が名前を口にしただけでも、彼が反応を示すかもしれませんからね」

「まぁ、ワシ的には特に問題ないと思うのじゃがの。じゃが、他の神々は僅かでも刺激したくない、というのが本音じゃろうな。神ですら見通せぬ存在じゃし」



 ミュールはしばし考え込むように視線を落とすが、ふと思い出したように顔を上げる。

「このことを、妹の柚迩(ゆに)さんには?」


「当然、秘密しておくべきじゃ。互いに力を操れることを知らぬが不文律じゃからな。そういえば、我が愛弟子柚迩(ゆに)は、今頃何をしておるじゃろうなぁ?」

「え、すぐに会えるでしょう。アスカさんの力なら?」


「それがの、毎日にように遊びに行っておったら、あやつ、高校受験に失敗しおってな。それがめっちゃウケたのじゃ、あははは!」

「ひどい……」


「それで、出禁を食らったのじゃよ……」


 アスカは寂しそうに両方の人差し指を合わせて、くるくると回す。

 ですがミュールは、そんなアスカの姿を憐れむことなく、突き放した言葉を返しました。


「当然でしょうね」


「いやいや、志望していた私立は落ちたが、公立には受かっておるからよいだろうに。そもそも、あやつは『連邦』のアカデミーの修士課程を終えておるんじゃぞ。いまさら、学歴なんぞ必要あるまい」


「自分の住んでる場所だと意味のない学歴じゃないですか。それ、どこで使うんですか?」

「堂々と履歴書に大学名を書いて、資格欄には『星間工学マスター・ライセンス』って書けばよいじゃろ」


「聞いたことのない大学名に、謎資格。面接官から一発お祈り査定ですよ!」



 そんなミュールの言葉は馬耳東風。


 アスカは不満をぐちぐち唱え続けています。

 ミュールはそれらにツッコミを入れていたら話が進まないと思い、話を〆(しめ)ることにしました。

「ともかく、状況は理解できました」

「理解して、どう動くつもりじゃ?」

「動きませんよ。観察くらいはしますけど」

「それ、動くフラグじゃぞ」


「余計なお世話です。それよりもモニターに『YOU DIED』とでかでかと表示されてますが、いいんですか?」


「ぷぎゃぁあぁああ! しまった、放置しっぱなしじゃった! おのれチーターめ! ならばこちらは、運営にクレームの嵐スキル発動じゃ!!」


 マウスとキーボードを操る神を横目に、ミュールはリョウと看板のことを考えます。

(アスカさんはどうでもいいという態度を取っていますが、他の神様はどう思っているんでしょうかねぇ……?)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。