第29話 ぷぎゃぁぁぁあああ!!
――いつもの草原
俺はフライパンを振るいつつ、愚痴をこぼす。
「前回の肉体強化浄化代を含めると、合計3616ポイントの赤字だよ。とほほ」
この赤字のせいで、残りポイントは76904ポイント。
よっ、という感じで卵をひっくり返す。
すると後ろから、催促の声が二つ……。
「リョウ、ご飯はまだかい?」
「もっと手早く用意できないのか?」
「うっさいぞ、勇者に魔王! ってか、なんでお前らの分まで俺が作らなきゃならないの!!」
「それは私たちが、別の世界から食材を持ち帰ってきたからだよ」
「我らは労働を行った。ならば、次に働くべきは怠惰な貴様では?」
「か~、ムカつく! ほらっ、なんだかよくわからん玉子のオムライスと、謎肉のステーキ! あとはポテトサラダらしきもの!!」
出来上がった食事を草原に敷いたシートの上に並べて、三人で食事を始める。
二人は各々感想を述べあう。
「もぐ……む、美味しい! やるな、リョウ」
「味付けは濃いめだが悪くない。我が城の料理人してやってもいいぞ」
「遠慮しとくよ。あ、そうだ、食後にプリンがあるからな。砂糖は貴重だけど、ちょっと奮発してみた」
「そんなものまで……」
「貴様はお菓子も作れるのか……」
これに俺は頭を捻る。
「さぁね? プリン作りには妙なこだわりがあるみたいで、細かな作り方を知ってた……なにせ俺は、自分のことがわからないからな!」
言葉を弾いて、看板を睨む。
しかし看板は、閉じた猫の目を描いて「Zzz」と表示。
寝てるのか? そもそも、寝るのか?
まぁ、よくわからんこいつのことはさておき、俺は自分について考える。
俺は自分のことを知らない。滅んでしまった自分の世界の名前も知らない。
わかっているのは自分の名前がリョウで、両親がいたこと。高校生だったこと。
休み時間に賭け事を行ってて、大勢の前で演説ができるくらいタフで、支配の仕方に理解があって、料理ができて、プリンの作り方まで知ってる……俺、何者だよ?
自分でも謎すぎるスキルの持ち主で、妙な笑いが零れる。
その笑いをすぐに収めて、俺は勇者と魔王へ顔を向けた。
すでに二人は、三つの世界を旅してポイントを稼いでいる。
その額、なんと20万!
そのうちの10%が、俺への穴ぽこ使用料の支払いなので、二人は18万。俺には2万。
つまり、俺のポイントは先ほどポイントと合わせて、96904Pというわけだ。
俺は野菜のスープを口にしつつ、さすがは勇者と魔王と納得していた。
(二人からあんまり苦労話を聞かないし、俺なんかよりも効率的かつ楽に20万を稼いだんだろうな。この調子だと、二人がこの世界から去るのは早そうだ)
就寝中の看板をチラ見してから、地平線の彼方まで広がる草原をぼんやり眺めた。
(また、看板と俺だけになるのか……ちょっと、寂しいかな)
――――――
――――
――リョウが食事を取っていたころ・精霊が治める惑星・ミルティア
ここは様々な種族が覇を競い、共存し合う世界。
その片隅に佇むダイヤ島で、最も大きな魔境――植物と動物の楽園・ポワソの森。
空から見下ろせば、緑の海。近くで見上げれば、巨木の壁。
その全容は、人の視界では捉え切れず。
天上の国の如く果実は溢れ、水晶のように透き通る湖が点在するその森は、まさに『生命の揺り籠』。
――ですが、その恩恵を貪るのは、魔物や妖精といった人ならざる者たち……。
ひとたび並の冒険者が迷い込めば、彼らのご飯になっちゃいます。
生い茂る葉や曲がりくねった木の根が行く手を阻み、まともに走ることすら叶いません。
運よく逃れられたとしても、周囲はすべて巨木に覆われた『双子の光景』。
決して、森はあなたを帰さない。
『ここから先は私、このミルティアを預かる精霊がご案内しましょう。
メタい?
ご安心ください。この世界だけ特別なのです。
さぁ、一見、絵本のような雰囲気に包まれた……中身はめちゃくちゃえっぐい世界へようこそ!』
さて、そんな危険と楽園が同居するポワソの森の入り口の傍に、一人の錬金術師の少女が住んでいました。
青い服に白いエプロンとウサギを追いかけていきそうな服装。
腰元には茶色のウエストポーチ。
彼女は十四歳の女の子。名前はミュール。
血の惑星から戻ってきたミュールは我が家を見つめます。
一階建てのこじんまりとした木造住宅。だけど、奥行きはかなりのもの。屋根にはレンガ造りの煙突。
外壁は白色ですが、ところどころ緑の葉に覆われていて、そこには花が咲いています。
それは自然に抱かれる、童話のように優しく暖かなおうち。
ですが……。
「ぷぎゃぁぁぁあああ!!」
おうちの中から、ブタのお尻の穴に電気棒を突っ込んだような悲鳴が響いてきました。
お下品?
いえいえ、この森ではお上品な部類ですよ。
さて、そんなエレガントで耳障りな叫び声に、ミュールは大きなため息をぶつけているようですよ。
「はぁ~、ご近所迷惑になるから、大声を上げないでと言っているのに」
ミュールはポーチに手を突っ込み、そこからズモモモっと、長い棒を取り出します。
それは野球のバットの先端に、無数の釘が打ち込まれた――釘バット。
「はぁ~……では、ボコりに行きますか」
そう、疲れ交じりの言葉を漏らして、おうちの中へと入ってきました。




