第28話 支え合い、歩む選択
「あ……」
王女はがくりとひざを折り、力なく頭を垂れた。
味方だと思っていた王子の母から裏切られた。
いや、それどころか犬扱いされたのだ。ショックを受けて当然だろう。
何か声をかけてやりたいが、今は逆効果の気がする。
それに、敵に囲まれている状況。
優先すべきは、この状況の打破だ!
俺は包丁を構えて、おばはんに問いかける。
「で、あんたはどうするつもりだ?」
「そこの雌犬が、犬らしく振舞うように躾します。その姿を見れば、息子も目が覚めるでしょう」
「そのために、生きてここまで連れてこさせたってわけか」
「ええ、その通り。ただ、死んだでは、息子は目を覚まさないかもしれない。だから、現実をしっかり教えてあげるのです。この者は王女などではない、男に向かって腰を振るだけの雌犬だと……」
「どっちが下卑てんだか……看板、あいつらを圧倒したい。現状の肉体強化で足りるか?」
「厳しいかな」
「そっか、しゃーない。ポイント追加で強化を」
「了解。でも、依頼主に逆らうことになるから、今回は赤字になるよ」
「赤字で結構! こんなの受け入れられるか!!」
「わかったよ、従う。ポイント2320消費。残りは77681ポイントで~す」
ポイントの消費宣言と同時に、新たな力が加算される。
俺は包丁を構えて、こう吐き捨てた。
「すぐに終わらせるか」
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――
おばはん一行を退けて、心を失った王女と共に窪地から離れた草原へ移動した。
彼女は呆けたまま、言葉を一言も漏らさない。
「これからどうしたもんか? 王女さん、このまま王子に会いに行くか?」
「王子……でも、彼も私のことを望んではいないかも……」
先ほどの出来事は王女の心を深く傷つけたのだろう。
彼女はその心を表すように、頭を沈めていく。
だけど、俺はそれをはっきりと否定する!
「違うだろ! おばはんがわざわざ出張ってきたってことは、王子の愛が本物ってことだろうが!! つまり、おばはんの存在自体が、二人の愛が本物だって証明なんだよ!!」
「――――っ!?」
「どうする、行くか?」
「私は……」
王女は答えを出せずにうつむいた。
そこに看板が、余計な文字を浮かべる。
「今なら引き返せると思うよ。君が戻れば、すべて元通り。今までどおり、敵対したままの二か国。でも、君が決断すると、先にあるのは、追手から逃げ惑う過酷な毎日だろうね」
「看板!」
「リョウ、これは事実だ。それを理解させた上で、選択肢を与えるべきだ」
「くっ!」
看板の言葉は正論だ。
感情に任せて動いても、先を見ていなければ不幸になるだけ。
王女は理解を深めた選択肢を前に、ますます答えを見失い、小さくすすり泣く声を響かせる。
看板が、俺に向かって、短く問う。
「どうする?」
王女は迷っている。
愛を貫きたい自分と、愛のために愛する者を不幸にする選択に。
看板の今の問いは、俺の言葉次第で、王女の道が決まると言っている。
俺は……俺は……。
すすり泣く王女を目にして、彼女一人に、この未来を背負わせるのは違うと思った。
「――――行こう!」
「え?」
「そして会おう。あんただけが背負い込む選択肢じゃない。これは、王子と共に考えるべき選択肢だ。二人が選んだ結果なら、どんな結末でも納得できるじゃないか! だから――行こう!!」
俺は手を差し伸ばす。
王女は涙をぬぐい――
「……私は、逃げたくありません。あの方と共に選びたい!」
決意に満ちた瞳が真っ直ぐ俺を捉え、その手が重ねられる。
その後、王子と合流。二人は抱きしめ合い、その暖かな愛を確かめ合い、選択をした。
俺は二人の選んだ選択を祝福して、この世界から去った。
――いつもの草原
「はぁ~、赤字かぁ……」
もはや、我が家と化している草原に戻ってきて気が緩み、思いっきりため息をついた。
傍に立っている看板は、それを黙って見ている。
「…………」
(今回のクエストはポイントのためじゃない。君の思考の分析のためだった。そうか、君はあくまでも当事者が選び、責任を負うことを望むんだね。ほんの少しだけ、背中を押す。それが君の選択……)
看板の裏側にうっすらと汚染率が浮かぶ。その数字は33%。
(リョウが望む世界。求める世界。そこは主様が求めるものに合致するはずだけど、汚染率が高すぎるのでは?)
看板は数字を消して、大の字になりごろごろしているリョウをじっと見る。
(安定したこの宇宙から遠ざかる。そうなると、宇宙の形を保てない……主様はあとで整えるつもり? リョウの意思を削り取って?)




