↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界が滅びたので看板を片手に旅に出ます  作者: 雪野湯
第六章 剣と魔法の世界

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/109

第26話 俺がいた世界……?

 俺を呼んだ勇者と魔王は、こう問いかけてきた。


「あの力は、君本来の力ではないよね?」

「魔力が失われているようだからな」


「――っ!?」

 速攻でバレた! ってかバレてる! ――死!?


 一気に溢れ出した冷や汗に溺れつつも、俺はそろりと足を後ろへ動かす。

 しかし二人は……。


「別に君をどうこうする気はないよ」

「したところで意味はないからな。ただ、疑問があるので尋ねたいだけだ」


「ほんと、斬らない?」

「斬らない。なぁ、リョウ。君は戦いの経験があるのかな?」

「武術に魔法と、超一流の達人並みであったぞ」


「いや、ないよ。魔力を体に宿しただけだし。そもそも、俺の世界は科学という力の世界で、魔力なんてないし」


 二人は顔を見合わせる。

 勇者がひそめた眉を俺にぶつけて、それに魔王も続く。

「魔法を知らないのに、なぜ魔法が使えたんだい?」

「しかも、高度な転移魔法も使用していた。知らぬではできぬだろう?」


「……さぁ?」

 と、言いつつ、戦いのことを思い出す。

(何やら、戦っている最中に思い出したことがあるようなないような?)



 だけど、戦いに意識を取られて、すぐに忘れてしまった

 

「う~ん、よくわからないけど、魔力が宿ったついでに、そこら辺の知識もついてきたんじゃないかな? たぶん」

「いや、少年。仮に知識がついてきたとしても、あの立ち回りは戦いを知らぬ者の振る舞いではないぞ」

「そんなこと言われたって、俺にはわからないよ」


「なぁ、リョウ。本当に君は、魔力のない世界の住人なのかい?」

「ああ、科学の世界。人を月に送り込んだりしてるんだぜ」

「人を月へ!? それはすごい世界だな。君がいた世界の名前は?」


「それはね…………あれ?」

「どうした、リョウ?」

「いや、それが……自分の、世界の名前が……わからない?」



 何故だ……なんで、自分の世界の名前がわからないんだ?

 自分の住む世界だぞ!


「おい、思いだせ……車は知ってる! スマホも知ってる! 近所のお弁当屋さんも知ってるのに! なのに!! なんで、なんで、なんで――なんでだ!?」

 胸が焼けるように痛い。

 その苦しさを紛らわせるように、自分の胸元へ爪を立てた。


 その様子を目にして、勇者と魔王は思わず声を上げた。

「落ち着け、リョウ!」

「少年、気を保て!」


「ああ、わかってる。俺は冷静だ。冷静だ! 冷静なんだ!!」

「リョウ……」

「少年……」



 俺は踵を返し、視界を濁らせる涙を拭わず、ただ看板に向けて怒号をぶちまけた。

 喉が焼けるほどの叫びが、行き場を失って虚空に響き渡る。

「看板!! どういうことだ! 俺は、俺は! 自分の世界の名前がわからない!! 何故だ!!」



 草原の風が舞い、それは渦を巻いて看板へ集約される。

 看板は……こう表面に書き記した。


「世界が滅びた際に、大部分の記憶が失われた。君は断片のみで再構成されたんだ。だから、知らないことがある」

「断片……じゃあ、俺は何を知っていて、何を知らないんだ?」

「さぁ、それは僕にはわからない。何が君に残っているのかなんて、知らない」



――知らない


 これは事実を渡しただけの言葉だろう。

 だけど、冷たく切り離されたような感覚を覚え、俺は感情のままに看板へ声を荒げた。


「知らないだと! ふざけんな! 俺は何のために善行ポイントを集めていると思ってんだよ! 自分の世界を取り戻すためだぞ! なのに、世界の名前すら知らないってなんだよ!! 知らないもののために、俺は頑張っているのかよ!!」



「それは……」


 看板は戸惑いを表すように、わずかの間、文字を止めた。

 だけどすぐに、いつもの突き放したような……当事者であるくせに、第三者が言い放つような文字を並べる。

「……世界の名前を知らなくても、その世界があった記憶が残っているだろ? そのために頑張ればいいじゃないか」

「ふざけたこと抜かすなよ、このくそ看板が!」


 看板に近づき、蹴っ飛ばしてやった。しかし、看板は無傷。

 逆に、こっちの足に痛みが走る。

「いってぇぇ! くそ、無駄にかてぇな!」

「落ち着いてよ、リョウ。その記憶も含めて、すべてを取り戻すために、ポイントを集めていると思えばいいんだよ」


「簡単に言ってくれるなよ!」


 もう一回、蹴り上げてやろうとした。

 そこで、勇者と魔王が止めに入った。


「もうやめるんだ!」

「自分が怪我をするだけだぞ」

「――くそっ!」


 俺はその場で胡坐をかいて座り込む。

 地面を掻きむしりながら、勇者と魔王に向かって声を絞り出す。


「二人とも、行かなくていいのか……」


「君こそ、一人で大丈夫か?」

「落ち着くまで共にいようか?」


「……大丈夫、大丈夫。目的を整理してるだけだから」



 世界を覚えてない。でも、ポイントを集めないと何もできない――――だけど、こんな境遇を甘んじられるほど、俺は人間が出来てない。



 だったら、やることは一つしかない。



 俺は立ち上がり、土が纏わりついた両手を払って、二人へこう答えを返した。

「どうやら、神をぶん殴ってやりたいのは…………あんたたちだけじゃなくなったようだ」


「……ふふ、そうか」

「良い気構えだ。立ち止まっていても、意味がないであろうからな」


 俺は看板へ人差し指を突きつけて、宣言した。

「百万ポイントじゃ足らない!!」

「え?」

「数百万、数千万ポイント貯めてやる。そしてそのポイントで、管理者ってやつをぼこぼこにしてやるぜ!!」



――看板


 リョウが真実の一部を手にした。

 しかし、残酷な現実を前にしても、一瞬たりとも立ち止まることなく、歩む強さを見せた。


 その姿を目の当たりにした看板は、記憶領域に不思議な感覚を覚えていた。

(なんだろう? どうして、僕は戸惑ったの? 戸惑う必要なんてないのに。だって、僕はただの案内役。そのために作られた存在)


 記憶領域の片隅から何かが広がる……それは、看板に奇妙な懐かしさを付与した。

(……僕は、知っている? そう、僕は……友と仲間の大切さを知っている。この想いは、どこから?)


 片隅……そこは無の領域に関する知識が、いつの間にか組み込まれていた箇所。

 一体だれが、何のために……?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。