第24話 依頼完遂
――岩場
蒼い短髪勇者と赤い長髪魔王が互いに魔力を高め、睨み合っている。
その間に、俺は割って入った。
「ちょい待ち!!」
「何者だ!? ん、少年? なんだい君は? その格好は?」
「人間? 随分とふざけた姿をしているようだが?」
「え?」
二人に指摘されて、俺は自分の姿を見る。
パジャマ姿。頭にはなべ。左手には、紐で固定したなべぶた。
腹には、サラシに巻いた包丁。
――場違いこの上ない!!
俺は両手で自分の顔を隠した。
(はっず、せめて装備は置いてくればよかった)
しかし、恥ずかしがっている場合じゃない! 今は勢いで誤魔化そう!!
「二人とも争いはやめるんだ! 見ろ、世界がボロボロじゃねぇか!!」
ここは岩場。周囲には人気はない。
だが、彼らの戦いの余波は衝撃となって遠くまで届いている。
時に、外れた魔法弾などが、遥か離れた地で炸裂していた。
「二人とも一旦、矛を収めて話を聞いてほしい」
「それはできない! 時計の針はもう戻らない! 憎しみの連鎖という歯車が回り続ける限り、針は進むだけなんだ!!」
「どけ、人の子よ! もはやここに至っては、どちらかが絶滅するまで刃を交えなければ、平和は訪れぬのだ!!」
「この、わからず屋どもめ。結局、こうなるんだな!」
俺は内部に宿る魔力を解放する。
黄金の気焔が蒼の空を焦がし、大気が怯えに震える。
「二人とも悪いが、まずは力尽くで場を治めさせてもらうぞ」
「――こ、これは……なんて凄まじい力なんだ!?」
「この力は――この世界のものではない! 勇者、この者は世界の敵だ!!」
魔王は瞬時に俺を異物と悟り、俺を飲み尽くしてもまだ足らない巨大な雷球を放った。
その雷球を目にした途端、奇妙な記憶が瞳に宿る。
それは猫の耳を持った少女が、歪む表情に覚悟を乗せて、俺へ雷球を放った時の光景。
(そうだ、俺はあの時、魔力の流れを見抜き……)
魔王が放った荒ぶる雷球。
掻き乱れる力の奔流の中、俺はその要となる『一点』を一瞬にして見抜いた。
その瞬間、聞き覚えのある大人の女性の声が頭に響いた。
<制御の頂。流れを完全に制御して、魔法を無効化する秘儀。魔導士泣かせの技よ、×××ちゃん>
その声はすぐに俺の中から消えてしまい、俺の意識は戦いだけに向く。
必要最低限の魔力を人差し指に宿し、雷球の点へ触れる。
その瞬間、雷球は風船が破裂するかの如く、パンと音を立てて散り散りとなって消えてしまった。
空間に漂う魔王の魔力の残滓を、俺は自身の内に取り込み、マナへと還元する。
「ごっそさん、魔王さん。おかげで魔力が充填できたよ」
「ば、ばかな。力の流れを読み切り、さらに残留魔力を瞬時にして自分の周波数に合わせるなど!?」
魔王は驚愕に時を止め、地を這う影さえも凍りつかせる。
そんな彼へ不敵な笑みを送る俺の背後に、勇者が現れて斬りかかってきた。
「この、化け物め!」
俺は左手に魔力を宿して、刃の腹へ触れると受け流し、右手で彼の腹部へ掌底を放った。
「破ッ!」
「がはぁ!」
さらに回し蹴りを入れて、後方へと蹴り飛ばしてやる。
「でりゃ!!」
「ぐわぁあああ!!」
だが、さすがは勇者を名乗るだけはある。
飛ばされたが、途中で剣を地面に刺して、勢いを殺し、剣を軸に翻るようにして大地に立った。
俺は彼を睨みつけつつ、両手を軽く握りしめる……。
ポイントのおかげなのか、体が意思よりも先に動く。知らない技が頭に浮かび、理由はわからないが、どこか懐かしさを覚える。
その懐かしさに奇妙な違和感を覚えたが、ここは戦場だ!
この一言に、俺の思考は塗りつぶされた。
俺は勇者と魔王に挟まれている状況で、二人へ語りかける。
「さぁ、どうする? おとなしく、俺の話を聞く気になったか?」
「ふざけるな!」
「この程度では――屈しぬ!」
勇者は剣に闘気を宿して、地面を切り裂く光の刃を生んだ。
魔王は炎の弓と氷の槍を生み出して、俺の肉体を穿たんとする。
だが――
「単調すぎるぜ!」
体が紫色の魔力に包まれる。これは――――空間を操る魔力の力!
その力に触れると、自然と口から呪文のような言葉が零れ落ちる。
「心は水面に。映る永遠の世界。触れるは扉。隔絶しせり境界の結わいと成りて、ここに新たな道を開かん」
俺は姿を大地から消し、粒よりも小さい時間で空へと移動した。
魔王は表情を戦慄に乗っ取られ、唇を怯えに包んだ。
「て、転移魔法!? それも粒子化ではなく、肉体ごとの次元跳躍だと!?」
「二人とも! ケガはするけど勘弁な!」
天を焦がす火球を生み出して、それを二人へ放った。
「くっ! その程度なら、私の剣で斬り裂いてやる!」
「我が魔法にて、相殺してくれるわ!!」
二人は俺の火球を斬り裂き、掻き消してしまった。
「チッ、やるなぁ。二人を殺さないようにしないといけないから、加減が難しいや」
――離れた岩場
看板はリョウの戦いを見守っていた――強烈な違和感と共に。
「誰にも教えられたわけでもないのに、魔法を操っている。リョウは巨大な魔力を有しただけで、魔法なんて知らないのに。呪文まで唱えてるし。それに……」
勇者が剣を振るい、リョウは魔法の剣を生み出し対応。
魔王が魔法を放つとひらりと躱して、蹴りをお見舞いしている姿が、看板の猫の目に映る。
「命のやり取りの場。それなのに恐怖心もなく、まるで大きな戦いを経験したことがあるかのように、冷静に戦えている。これは……普通の高校生の振る舞いじゃない。ということは……」
瞳を動かして、遼遠の彼方へ。
看板は届き得ぬ場所に視線を投げた。
(想定外の出来事。ポイントの影響下とはいえ、真っ新のはずの彼が真っ新じゃなくなっている。カレに浸食されている? でも、動きはない。これでいいの主様? これだと『見る』だけのデータは取れないのでは? 僕にはわからない……)
そう、疑問を抱いた時、彼の中に生まれたばかりの記憶領域……新たなナニカが疼く。
木目にノイズが走り、ざらつきを表す。
(……リョウが僕を疑う。それをきっかけに彼自身が個性を獲得してる、とか。それが狙い? じゃあ、僕の本当の役割は――なんなの?)
看板が自身に疑問を抱き、自分を見つめる中で、リョウは勇者と魔王を叩き伏せていた。
「おらぁぁああ!」
「ぐはっ!」
「がぁ!」
リョウが二人を同時に叩きのめすと、看板の近くまで勇者と魔王が吹き飛んできた。
そこでリョウが声を跳ね上げる。
「帰るぞ、看板!!」
「え?」
「早く草原への渦を出せ! 二人とも連れていく!」
「で、でも、それは――」
「いいから早くやれって言っているだろ!!」
「う、うん」
看板は素直にリョウに従った。
そこには、リョウの勢いに気圧されたというのもあっただろう。
だがそれ以上に、彼に課せられた役目という名の使命に、一瞬の綻びが生じたのは間違いなかった。
気を失っていた勇者と魔王の姿は渦に飲まれ、消える。
リョウは看板のそばに降り立ち、とびっきりの笑顔を見せて喜びを表した。
「この世界からの『排除』! 見事、依頼完了だよな、看板!!」




