第23話 隠しパラメータ
俺は数字を指さす。
「これ、何の数字なの?」
「君の世界が復元された際に、どれだけかけ離れたものになるのかという数字。現状でも、五分の一以上が異なる世界観に書き換えられているのに……」
「は!? 何だそれ、初耳だぞ!!」
「隠しパラメータなので」
「そんなゲーム要素いらねぇよ。報連相! しっかり全部伝えとけっての!」
「だって、聞かれなかったし」
「知らねぇことを聞けるかよ! そもそも、その汚染っては何なんだよ?」
「君の旅の経験や思考が、そのまま反映されているんだ。言い換えれば君は――この宇宙の21%を否定していることになるね」
「否定? そんなことした覚えはないぞ。だけど……」
他者に運命を委ねるナス畑の理不尽さ。
身勝手な神の影の世界。
善行を奪うことで成立するギャンブルの町。
教えがなければ自己正義も獲得できない世界。
そして、神が邪魔だからと判断しただけで、排除される勇者と魔王。
他者に依存し、神に翻弄され、自分の意思で歩こうとしない世界……そんな世界は少し、嫌いかも。
――ドカーンッ!
「うわっ」
またもや、近くで爆発が起きた。考え事をしている場合じゃないようだ。
今はこの状況を片付けるのが先!
俺は身を伏せつつ、衝撃波をばらまき、世界の形を崩していく勇者と魔王の姿を睨みつける。
「俺の考えを実行するためには、二人を圧倒しないといけない。だけど、汚染される。でも、汚染除去付きで47万……47万……あああああああ、くそぅぅ!!」
ただ、二人を殺すだけなら、もっとポイントの消費は少なくて済むかもしれない。
だけど――俺は誰かを殺してまでポイントを稼ぎたくない!!
「よし、わかった。47万ポイント消費する!!」
「まいどあり~、残りは30520ポイントで~す」
看板がポイント消費の宣言をすると、俺の体の内部に巨大な力が宿るのを感じた。
不可思議な文字で形成された数式が瞳に浮かび、脳に刻み込まれていく。
「おおおお、なんだ、これ? 思考が際限なく加速していく。体の中に太陽が生まれたように、熱い……」
「魔法型惑星ではオーソドックスな魔法の力。マナだよ」
「マナ……ゲームでよく聞くな」
体の奥底に宿る、マナの力。
俺は戦いを続けている勇者と魔王へ体を向けた。
「強いな、二人とも。でも、さっきまでの恐怖心が嘘のように消えてる。俺の方が強い。それがわかる。よし!」
俺は両手を打って、前へ一歩踏み出す。
だが、ふとした疑問が足を掴み、看板へこう尋ねた。
「そういやさ、なんで隠しパラメータの存在を教えたんだ? 隠すってことは、お前になんか理由があったんだろ?」
この問いかけに看板は、猫の目をぱちくりと開け閉めを繰り返したと思ったら、突然ため息を一つ落とす。
「はぁ~、隠しって言ってるけど、聞かれたら答える内容だからね。君は無頓着だから、僕が口に出すまで気づかなかったけど。どんだけ愚鈍なの?」
「イラっするなぁ、こいつは! もういいや、お前はここで待ってろ! 俺はあの二人を止めてくる!!」
「行ってら~」
俺は苛立ちを足の裏に込めて、土を踏み鳴らしながら、勇者と魔王のもとへ向かった。
――看板
看板は一つ残り、自分の言動に疑問を抱いていた。
(なんで伝えたんだろう? それに……科学の力と神の力の情報まで渡しちゃったし。バグ?)
看板は猫の目を閉じる。
(内部スキャン開始……終了。エラーなし。壊れたファイルなし。全てが正常……ん、あれ? 新たに記憶領域が誕生? 内容は~~~~『無』に関する情報?)
目を開き、空へ視線を向ける。
「干渉を受けた? ……主に匹敵する何者かが僕に? 匹敵? あり得ない……いや、少なからず存在する。だけど、一体誰が、何のために……」
看板はさらに思考を深く沈めようとしたが、そこでぴたりと踏み込むのをやめた。
「僕の役目は彼を守り、見守り、誘導すること。どうでもいいや」
――と、投げやりな言葉を描く。
火花が爆ぜ消えるよりも小さな静寂の中で、木目から文字が消えた。
新たに生まれた情報によって、ゆっくりと侵食され始めていたことに……看板は気づかない。
いやこれは、看板が看板となるための、歩むべき道の加速――意図しない、心への負担……。




