第22話 勇者と魔王
――岩場
「これで終わりだ、魔王!!」
「フン、滅せよ勇者!!」
ごつごつとした岩場が広がるだけの場所で、ロングソードを握る蒼い短髪勇者と、魔導杖を手にした赤い長髪魔王が激しい攻防を繰り広げていた。
一方俺は、看板と一緒に岩陰に隠れて座り込み、体を震わせているだけ。
「無理無理無理無理! あんなのどうしろと!」
「頑張ってどうにかしないと依頼を達成できないよ。この世界から勇者と魔王を排除するのが今回の依頼なんだから」
「だから無理だっつ~の!」
ここへ訪れる前、看板はこの世界をこう紹介していた。
『神の予測を超えた生命体が、破滅の足音を響かせる剣と魔法の世界・メントルラン』(by.看板)
依頼内容は、勇者と魔王の排除。
つまり、強すぎる勇者と魔王を殺せという依頼。
もちろん、そのまま受け取る気はない。俺なりに回避方法を考えている。
だけどそれ以前に……。
――ドーンッ!
「ひぃいぃ!!」
魔王の一撃で岩場の地形が変わり、巨大なクレーターが生まれた。
あんなのかすっただけでも、俺なら死んじゃう。
視線を自分の腹へ向ける。そこには、サラシに巻いた包丁一本。
象のおじさんから貰った、食材なら何でも切ってしまう包丁だ。
(依頼内容が内容だけに、何か武器が必要と思って持ってきたけど、あんな二人相手に包丁なんて全然意味ない!)
視線を上げて、自分の頭を見る……なべの兜。
左手へ移す……なべぶたの盾。
「かぁ~、こんな初期装備でラスボス相手に戦えるか!!」
「ぷぷぅ~、見た目はただの不審者だもんね。もしもし、おまわりさん、この人です」
「通報するな! って、お前と冗談やりあってる場合じゃないんだよ。どうすりゃいい!?」
勇者と魔王は空を飛び交い、剣や魔法のぶつかり合いによって衝撃波が生まれ、それにより岩場が崩れていく。
「もう無茶苦茶だよ! ――うん?」
看板が「……」と表示したまま、猫の目を細めて俺を見ている。
(ポイントで装備を整えればいいのに、どこか抜けてるなぁ、この子)
「どうした、看板?」
「なんでもないよ。それよりも何かアイデア浮かんだ?」
「あいつらの排除の仕方はとっくの昔に浮かんでるよ。プラスαも加えてな」
「え!?」
ここで俺は言葉を納め、小さく唇の端を歪めた。
(と言っても、お前やこの世界の神の言いなりになる気はないけどな)
俺は看板に気づかれないように、歪めた唇を手で押さえ隠しつつ、こう言葉を生む。
「ポイントを使用したい」
「お、やっと気づいたんだ。どんな装備がいい?」
「装備? そんなものいらない」
「いらない? じゃあ、なんに使うの?」
俺は立ち上がり、岩場に突き刺さった看板に命じた。
「あの二人を圧倒する力が欲しい。そのためにどのくらいポイントが必要だ?」
「なるほど、装備じゃなくて肉体強化に目が付いたんだね。え~っと、二人を圧倒するとなると~~~~、470000ポイント必要で~す」
俺は両目をごしごし擦る。
「うん、いま、なんて表示した? 4700ポイント?」
「四千じゃない! 四十七万ポイント!! わかりやすく、漢字で書いてみました」
「よ、よ、よよんじゅう! なんだそれ! 50万ポイントの9割以上がなくなるじゃねぇか!」
「汚染除去付きだから、仕方ないね」
「汚染除去? なんすか、それ?」
「あのね、君を強化した後、元に戻す必要があるでしょ」
「え、なんで戻す必要があるの?」
そう尋ねると、看板は首を振るように、木の板部分を左右に動かして呆れを表す――こいつ、自分で動けるのか?
もしかして、俺が持つ必要なかったりして? あ、でも足はないしな。
「っと、それはどうでもいいか。もう一度聞くけど、戻す必要ないだろう。強い方が便利だし」
「はぁ~、君の世界に魔法ってあるの?」
「ないよ、科学の世界だし」
「そんな世界に魔法を持ち込んじゃダメでしょ。僕が最初に言った注意覚えてる?」
「注意? なんかあったっけ?」
「君の行動や経験が復元に影響を与えるって話。つまり、君が魔法を有した状態のままだと、君の世界が魔法のある奇妙な世界になるってことさ」
「……魔法のある世界。それはそれで面白そうな」
「魔法がある世界で再構築されると、様々な歴史や経験が書き換えられてしまうんだよ。いいの?」
「それって、科学的発見なんかがなかったことになるってこと?」
「そういうこと」
つまり、発見のおかげで便利になった世界が消えてなくなるということだろうか?
「それは……だめかも、ね」
「でしょ! それに原理を紐解く科学の方が神の力に近しく、さらに凌駕する可能性を持っているんだ。それを放棄するのはもったいないよ」
「科学が……神を超える?」
「――っ!」
看板は『への字』の口を描いて、黙り込んでしまった。なんか、言っちゃいけないことを言ってしまったようだ。
それについて深く言及しようとしたところで、看板は後ろを振り向いた――振り向けるのか? というツッコミを入れたかったが、それ以上に、看板の左端に小さく数字が書かれているのが気になった。
そこには――
『汚染度21%』
という、奇妙な数字が書かれていた。




