第21話 不穏の残響
――リョウパートへ
二人の秘密の会話は終わったらしい。
俺は腑に落ちないまま、二人に近づく。
するとミュールが、俺に話しかけてきた。
「あの、そもそも、この星に何をしに来たんですか?」
「あれ、そういった事情は聞かなかったの? 二人の会話でさ」
「ないですね」
「じゃあ、何の話をしてたの?」
「プライベートな内容になるので、控えさせてもらいます」
ぴしゃりと遮断されてしまった。そこには話す気がないという意思が明確に宿っている。
俺は追及を諦め、こちらの事情を渡す。
「俺の世界が滅びたから、管理者に会う必要があるんだよ。そのために、善行ポイントが必要で集めてる最中。で、この世界の悩み事を解決するために訪れたってわけ」
「あなたの世界が滅びた……」
ミュールは黒の瞳で看板を睨みつけた。
そこにあるのは、非難と怒り。
そして、同情が混ざるという奇妙な瞳を見せている。
彼女は看板が俺の世界を滅ぼしたと思って、怒ってくれているんだろうか?
ミュールは首を軽く左右に振り、話題をこの世界のことに戻す。
「この世界の悩みとは、何でしょうか?」
「悪玉コレステロール値が高いから何とかしてくれって言う話」
「はは~ん、確かに最近は暴飲暴食が過ぎてますからね。私としても健康な血液であってもらわないと困るので、今後は体調管理も私がしっかり見ておきましょう」
「管理って、この星の生命体の?」
「ええ、今後は星を食べさせるのをやめさせて、私が用意した食事だけを摂取させます」
「そ、そんなことできるのかよ!? ってか、星が拒絶したりしない?」
「したら……許さない」
そう、光の宿らぬ瞳を見せて答えた。
短いけど、なんて圧のある言葉だろうか……。
すぐに柔らかな微笑みを見せたが、彼女の底知れぬ不可思議な力を前に恐怖しかない。
「では、私はお暇させていただきます。そうだ、コレステロールの件ですが――」
ミュールはポーチから身の丈を超える巨大な注射器を取り出した……だから、どうやって入ってるんだ!?
その注射器を肉の地面にぐっさりと突き刺し、押し子に体重をかけて押し込んだ。
その瞬間、大地が震え、空に鳴き声が響く。
「グオ~ン!」
その音を聞いたミュールは、涼しげな顔のまま小さな愚痴をこぼす。
「もう、注射が怖いなんて体が大きい癖に情けない。杭で刺されても平気なくせに、どうして注射は苦手なんでしょうね? でも、これでコレステロール値は一時的に下がりましたよ、リョウさん」
「――え!?」
「善行ポイントでしたっけ? これはリョウさんの活躍ということで、受け取っておいてください。では、失礼します」
「ちょっと、待って――」
ミュールはパチリと指を跳ねると、その場から姿を消した。
俺は彼女が消えた場所に、そっと手を伸ばす。
「な、なんなのあの子は?」
「理を司る錬金術師ミュール。宇宙に存在する様々な力ある種族や組織に対し、単独で渡り合える存在だよ」
「それって、神様相手でも?」
「神が彼女に勝てないわけじゃないけど……高位存在も連邦も××も、彼女と敵対するのは避けてる」
「うん? いま一部聞き取れなかったんだけど?」
「え~、ここの血が耳に詰まってるんじゃない」
「怖いこと言うなよ!」
「ともかく、善行ポイントを加算するよ。けっかはっぴょう~、320ポイントで~す」
「……う、うん、多いと思うけど、50万の前だとなんだかなぁ」
「贅沢だなぁ。では、元の場所に戻ろう」
戻ろう……看板のその文字に、なぜか焦りのようなものを感じた。
この焦りは何だろうか?
二人っきりで話した会話の内容は何だったんだろうか?
そして、本当にミュールは……俺のことを知らないんだろうか?
俺の知らない場所で、何かがとんでもないことが起きているんじゃないのか?
そう感じさせる、怪しげな出来事ばかりだった……。




