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世界が滅びたので看板を片手に旅に出ます  作者: 雪野湯
第五章 血液の世界

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第21話 不穏の残響

――リョウパートへ


 二人の秘密の会話は終わったらしい。

 俺は腑に落ちないまま、二人に近づく。

 するとミュールが、俺に話しかけてきた。


「あの、そもそも、この星に何をしに来たんですか?」

「あれ、そういった事情は聞かなかったの? 二人の会話でさ」

「ないですね」

「じゃあ、何の話をしてたの?」

「プライベートな内容になるので、控えさせてもらいます」



 ぴしゃりと遮断されてしまった。そこには話す気がないという意思が明確に宿っている。

 俺は追及を諦め、こちらの事情を渡す。


「俺の世界が滅びたから、管理者に会う必要があるんだよ。そのために、善行ポイントが必要で集めてる最中。で、この世界の悩み事を解決するために訪れたってわけ」

「あなたの世界が滅びた……」


 ミュールは黒の瞳で看板を睨みつけた。

 そこにあるのは、非難と怒り。

 そして、同情が混ざるという奇妙な瞳を見せている。



 彼女は看板が俺の世界を滅ぼしたと思って、怒ってくれているんだろうか?


 ミュールは首を軽く左右に振り、話題をこの世界のことに戻す。

「この世界の悩みとは、何でしょうか?」

「悪玉コレステロール値が高いから何とかしてくれって言う話」


「はは~ん、確かに最近は暴飲暴食が過ぎてますからね。私としても健康な血液であってもらわないと困るので、今後は体調管理も私がしっかり見ておきましょう」


「管理って、この星の生命体の?」

「ええ、今後は星を食べさせるのをやめさせて、私が用意した食事だけを摂取させます」

「そ、そんなことできるのかよ!? ってか、星が拒絶したりしない?」



「したら……許さない」


 そう、光の宿らぬ瞳を見せて答えた。

 短いけど、なんて圧のある言葉だろうか……。


 すぐに柔らかな微笑みを見せたが、彼女の底知れぬ不可思議な力を前に恐怖しかない。


「では、私はお暇(いとま)させていただきます。そうだ、コレステロールの件ですが――」


 ミュールはポーチから身の丈を超える巨大な注射器を取り出した……だから、どうやって入ってるんだ!?


 その注射器を肉の地面にぐっさりと突き刺し、押し子に体重をかけて押し込んだ。

 その瞬間、大地が震え、空に鳴き声が響く。

「グオ~ン!」


 その音を聞いたミュールは、涼しげな顔のまま小さな愚痴をこぼす。

「もう、注射が怖いなんて体が大きい癖に情けない。杭で刺されても平気なくせに、どうして注射は苦手なんでしょうね? でも、これでコレステロール値は一時的に下がりましたよ、リョウさん」

「――え!?」

「善行ポイントでしたっけ? これはリョウさんの活躍ということで、受け取っておいてください。では、失礼します」

「ちょっと、待って――」



 ミュールはパチリと指を跳ねると、その場から姿を消した。


 俺は彼女が消えた場所に、そっと手を伸ばす。

「な、なんなのあの子は?」

「理(ことわり)を司る錬金術師ミュール。宇宙に存在する様々な力ある種族や組織に対し、単独で渡り合える存在だよ」


「それって、神様相手でも?」

「神が彼女に勝てないわけじゃないけど……高位存在も連邦も××も、彼女と敵対するのは避けてる」


「うん? いま一部聞き取れなかったんだけど?」


「え~、ここの血が耳に詰まってるんじゃない」

「怖いこと言うなよ!」

「ともかく、善行ポイントを加算するよ。けっかはっぴょう~、320ポイントで~す」

「……う、うん、多いと思うけど、50万の前だとなんだかなぁ」

「贅沢だなぁ。では、元の場所に戻ろう」


 戻ろう……看板のその文字に、なぜか焦りのようなものを感じた。


 この焦りは何だろうか?

 二人っきりで話した会話の内容は何だったんだろうか?

 

 そして、本当にミュールは……俺のことを知らないんだろうか?


 


 俺の知らない場所で、何かがとんでもないことが起きているんじゃないのか?

 そう感じさせる、怪しげな出来事ばかりだった……。

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