第18話 人の道を歩むは叛逆
住民たちの視線が一斉にこちらへ向いた。
――俺は彼らへ語りかける。
「俺は人だ。だが、お前たちの神に、偽りの神から解放しろという啓示を受けてここへ訪れた」
「ふん、あんたもまた、嘘の神を俺たちに信じ込ませようとしてるんじゃないのか!?」
「嘘ではないことを、いま証明しよう!!」
俺は看板を指で突き刺し、こう皆に伝える。
「この看板は、偽りの神の攻撃にも耐えた。人の力では傷一つつけられぬ。ゆえに、人の力を超えた存在。誰ぞ、破壊できるものなら、破壊してみろ! できぬならば――これこそが、神の使徒である証だ!」
看板は猫の目をぐるぐると回転して、何かを語ろうとするが
「ちょっとリョウ、何を無茶苦茶な――」
「黙れ」
「!?」
「いつまでもこんな結末ごめんなんだよ! 今回ばかりは覆させてもらうぜ!」
俺は呼びかける。
「さぁ、さぁ、どうした? 神の使徒に挑戦する者はいないのか? それとも神はいないと口にしながら、その実は神を恐れているのか。そこの男、どうする!?」
神官を殴っていた大柄な男へ手を伸ばすと、彼は怒気を孕む声を上げた。
「ああん、そんな木の板が神の使徒なわけないだろ。いいぜ、ぶっ壊してやる!!」
男が拳で殴りつけた。しかし、看板は平然としている。
逆に男の拳が砕け、その場で崩れ落ちた。
「がぁぁあ、手が!」
「どうしたどうした!? 他に挑戦者はいないのか? 神を否定できる者はいないのか!?」
「次は僕だ!」
「私も!」
「俺だって!!」
しかし、誰が押しても叩いても、石で殴っても刃を当てても、看板は傷一つつかない。
幾人もの人々が挑戦を続けるが……やがて、誰かが膝をついた。
「不思議な力に守られている……神の力なのか……」
「神の使い?」
「たしかに、彼らは俺たちを守るために現れたよな」
「偽りの神から、解放するために……」
また誰かが膝をついた。それは看板を中心に繋がっていく。
人々が看板を敬い、恐れ、祈る姿を目にして、俺は原始社会で有用であろう、単純な決まり事を渡すことにした。
「みんな、よく聞いてくれ」
一つ、弱き者を守れ
一つ、奪うな、分け合え
一つ、嘘をつくな
一つ、仲間を傷つけるな
一つ、子を守れ
一つ、働き、作り、育てよ
単純明快な六つの戒律を生み出して、怠惰を避け、共同体を維持するための規範を示す。
「神はこう望む。働く者に、看板は力を与える……では、役目を終えた俺たちは去ろう。良き世界を作り上げてくれ」
――草原
戻ってきた。
看板を地面に突き刺して、俺は草原に寝転んだ。
そして、空に拳を突き上げて、ほくそ笑む。
「ククク、ざまぁみろってんだ! いつまでも不幸な結末で終わらせてたまるかよ!!」
「そうはいかないよ、エルフォリアの神から抗議が来てるよ。ポイントは渡せないって」
「内容は?」
――これでは子らは、我を求めぬではないか――
「は、くだらない。俺は依頼をちゃんと果たしたぞ、依頼内容は異星人の排除。ちゃんと依頼を果たしたんだからグダグダ抜かさずポイント寄越せ。じゃないと、契約不履行で訴えてやるぞって、返信しといてくれ」
「わかった……」
「ところでさ、訴えるってできるのかな?」
(審議中……)
看板は答えを返さず、木目に『審議中』という文字と、犬と猫が仲良く散歩している映像を表示している。
数分ほどして、看板の文字が変わった。
「訴訟に発展するのは避けたいという意思が届いた。また、ポイント支払いの拒否に対するペナルティも加算されて、通常よりもポイントが多く支払われた」
「おおおお、マジか! 今回ばかりはマジで、やったぜ! だな!! で、いくら?」
「500000ポイント」
「……え? 見間違いかな? いま何ポイントって書いた?」
「500000ポイント。漢字で書くなら、五十万点獲得です」
「ご、ごじゅうまん?? え、なんで、そんな桁外れなポイントに? ペナルティが凄かったとか?」
「うんにゃ、神を偽るという大罪を退ける善行は、もともと高ポイントだから、これくらいは普通だよ」
「普通……これが……?」
俺はポイントの履歴を振り返る。
なすび=王の依頼=5ポイント
影の世界=神のミス=500ポイント
今回=神の直接の依頼=500000ポイント
(神が関わると高ポイント? いや、今回の件を考えると、神自身が何らかの干渉を受けて、それを排除すると高ポイント? う~ん、まだ判断材料が少なくて、はっきりこうだとは言えないな)
少しだけポイント付与のルールが見えたような気がするが、まだまだ謎のまま。
もし、様々な世界の神の意向を汲むとポイントが高くなるなら、それを利用すれば集めやすくなる。
だけど――
ナスの悲鳴。影の嘆き。住民の暴動。
俺の心に刻まれた深い傷……。
(……俺は、神のために働くんじゃない。誰かを不幸にして得られる善なんていらない。俺は、俺のやり方で世界を救う!!)
俺はそう、心の傷の上に、新たな徴を刻んだ。
決意と覚悟という徴を……。




