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世界が滅びたので看板を片手に旅に出ます  作者: 雪野湯
第四章 似非宗教の世界

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第17話 純白な業

 突然、誰かが笑った――。


「教えなんて意味がなかったんだな。アハハハハハ、神なんていないんだ。何も見てないんだ!!」



――ぎゃぁぁあぁあぁあ!


 

 次には、どこかで悲鳴が上がった。



 そちらへ目を向けると、杖で麻痺させられていたはずの大柄の男が、神官に馬乗りになって、拳を叩きつけていた。

「この嘘つきめが! よくも俺を! 死ね、死ね、死ね!」

「が、ぐは、ごぼ」


 神官の顔を殴る音――それは渇いた打撃音から、湿った肉の音へと変わり、悲鳴すらも叩き潰される。

 それなのに、大柄の男は殴る手を止めない。



――きゃぁぁあぁあ!


 また悲鳴が上がった。

 男が女性に圧し掛かっている。

「ぐへへへへ、俺はお前のことを狙ってたんだよ! 教えのせいで何もできなかったけどな!」

「いやぁぁあ、誰か、誰か助けてえぇえ!!」



――や、やめてくれぇええ!


 大勢が大きな家に入り込み、略奪を行う。

 

 誰かの泣き叫ぶ声が、別の誰かの笑い声にかき消される。

 彼らは口々にこう言う。


「神なんていないんだ! だから何をやっても、地獄なんて行かない! ギャハハハハ!!」



 棒で殴られている老人が俺に助けを乞う。だけど俺は、ただ目を合わせているだけで動けなかった。

「ちょ、なにを……やめろって。そんなことをしたら……どうして? どうして、どうしてこんなことに!?」


「彼らは善悪の基準を失ったからだよ」


 看板の文字がドロリと溶けて、表示を変化させていく。

「彼らはもともと超原始社会。倫理は宗教と儀式に依存している。だからこそ、教えが消えた瞬間にこうなる。つまり……」



――『神が見ていない世界』は、彼らにとって『何をしてもいい世界』――



「そ、そんな馬鹿な! 神がいなくたって人には良心が――」


「その根幹にある、倫理規定の始まりは、宗教にあるんだよ。その後は法に昇華され、やがては法がなくとも、己の抑制のみにと、昇華されていくんだけどね」


「待ってくれ! じゃあ、じゃあ、あのスーツの連中は秩序を保ってたっていうのか!?」

「そゆこと。代金はエルファという名の命だけど」

「くそ、くそ、くそ、ろくでもねぇ! とにかく止めないと」



 経緯はどうあれ、今の混乱を招いたのは俺だ。

 俺が止めないと――。

 そう思ったのだけど、看板はそれをやめろという。


「すた~っぷ、すたっぷや!」

「はぁ!?」

「この世界の神は、この混乱こそが目的なんだから」

「……何を言ってるんだ?」



「いいかい、リョウ。混乱した者ほど、救いを求める。 救いを求める者ほど、教えは深く染み込む。混乱は恐怖を生み、恐怖は信仰を深化させる……とまぁ、そんな流れを、依頼主は求めてるんだよ」



 俺は手を握りしめ、自身の爪を手のひらに食い込ませる!


「ここの人たちがボロボロになるのを見計らって、適当な人間を見繕い、自分を敬う教えを広めようって魂胆かよ!」



 泣き叫ぶ声が届く。家から炎が上がり、逃げ惑う人々が瞳に映る。

(俺は……こんな地獄を作るために、あいつらを追い払ったわけじゃない!)


 片手でガッと、強く頭を握りしめる。

(考えろ、俺! 何か方法があるはずだ。そうだ、俺は……『リョウ』という存在ならば、何か答えを見つけられるはずだ!)

 

 自分でありながら、まるで自分とは違うものと語る俺。

 しかし、そこから起死回生のアイデアが湧き出てくる。



「そうだ……神は下々に干渉できない。だけど、俺は干渉できる! 看板、お前の体を借りるぞ!」

「へ?」


 俺は看板を片手に、大勢が見える場所へ持ち運び、そこでこいつを突き刺した。

 そして――ありったけの大声で叫ぶ


「聞けぇぇぇ! 神の姿は人の目に触れられぬ。だが――神の使いはここにいる!」

 

 そう叫び、俺は指先で看板を力強く示した。 

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