第16話 破邪顕正
俺は天に掲げていた指先を下ろし、スーツの男へビシッと突きつけた。
「神は怒りではなく、愛をもって人を照らす。恐れさせる者は――神ではない!」
スーツの男の後ろにいる仲間たちが一歩、後ろへと引く。
指をさされたスーツの男だけは引かず、額に汗を滲ませ、辛うじて言葉を纏う。
「うぐぅ、我らの技術に介入できるとは……貴様は一体? 我らに成り代わり、神にでもなるつもりか?」
この問いを前に、俺は怒りの宿る鋭い視線で彼らの心を貫く。
でも、声だけは穏やかに響かせた。
「俺は神ではない。人間だ。人は弱い。傷つき、倒れ、迷い、何度も諦めそうになる。だが、それでも歩き続ける。 届かぬと思われた頂に、手を伸ばし続けるために……」
「何を言っている?」
理解できないだろうな。
これはお前たちに向けて言っているんじゃない。
偽りの神を信じた人たちに向けて、語りかけているのだから……。
言葉は自然と紡がれていく。
それは誰かの声が重なるような、自分の声ではないような、とても不思議な感覚だけど……今はみんなを救うことが優先だ!
「奇跡とは、神が与えるものではない。歩みを止めぬ者が、自らの手で掴み取るものだ。だから俺は神を名乗らない。人であっても、光を呼び、闇を裂き、未来を切り開けると――その証を、いま、ここに示しただけだ」
近くの少女が、か細い声を上げる。
「人? あなたは人なの?」
「ああ、そうだ。見てくれはあんたらとちょっと違うが、別世界の人だ。俺やあいつらの世界だと、空を操れる力を手にしているんだよ」
「人が、空を……?」
「いつかあんたたちも、そこへ辿り着けるさ。長い時はかかるだろうけどね」
「私たちも……」
少女の囁きが風に乗り、それは大きな広がりを見せる。
偽りの神に騙されていた心が、真実へと回帰していく。
俺はぴっちりスーツの男へ向き直り、さっと手を振った。
「さぁ、おとなしく帰れ。ここはお前たちの居場所ではない」
「くぅぅぅ、おのれえぇえぇええ! 神を疑う罪人めがぁぁぁ! 吹きとべぇぇえぇ!!」
「――へ?」
追い詰められたスーツの男は、銃らしきものを手に取り、俺へ突きつける。
男が引き金に指をかけると、俺に向かって極厚な光弾が発射された。
「うっそぉぉぉ!? 口喧嘩に負けて殴りかかるって子どもかよ!」
「そんなこと言ってる場合じゃないと思う! 僕の後ろに!!」
「え? は、はい!!」
俺は看板の後ろへ身を隠す。
看板は神のカセットレコーダーを覆った時と同じ、半透明な壁を生み出して俺たちを包んだ。
光弾は壁に当たるとあっさり霧散して、衝撃もなく掻き消えた。
「おおお~、すげぇ。お前ってすごいなぁ」
「防衛力だけはね。攻撃手段は無いに等しいけど」
「となると、一方的にやられっぱなしに?」
「いや、そうでもないみたい」
看板が猫の目を描き、視線をスーツの男へと誘導する。
彼は手にした銃を震わせて、声を上擦らせていた。
「い、今のシールドは……連邦製のシールド……貴様――連邦の者なのか!?」
「レンポウ?」
「くっ! まさか、私たちのような弱小種族に連邦が介入するとは! ここまで育てたというのに!」
男は奥歯を噛み締める。口端からは血が滲む。
「だが、敵に回せば……私たちの存在そのものが否定されてしまう……もはや、これまで、か……」
男は俺を苦々しく睨みつけ、指先をパチンと跳ねた。
その途端、祭壇が消えて、スーツの男たちもまた跡形もなく消えた。
集落の真ん中に空白が生まれ、そこにはだだっ広い地面が広がるだけ……。
突然の出来事に、俺は頬を掻きながら看板に尋ねる。
「えっと……いなくなったの?」
「うん。全ての痕跡を消して、この星から逃げ去ったみたい」
「そ、そう……でも、今のって」
じっと看板を見る。
あいつらが恐れたのは……看板の力なんだろうか?
「あのさ、あいつらが連邦がどうとか言ってたけど、看板はそういう組織に所属してるの?」
「ううん、してないよ。ただ、僕の機構に連邦製の技術が使われているだけ。それなのに、彼らは勝手に勘違いして逃げちゃったみたい」
よくわかんないが、他の惑星で活動できるあいつらが怯えるくらい、すっごい力を持った『連邦』という組織があるみたいだ。
その力を恐れたということは……。
「もしかして、今回の手柄は看板で……俺は無し?」
「そうはならないよ。教義を打ち破ったのは君の言葉。相手は完全論破されて、図星顔真っ赤の逃亡なんだから。ま、先に殴りかかった方の負けってことだね」
「じゃあ、ポイントはもらえる感じか?」
「うん――あ、ほら見て。君がしっかり教義を打ち破った証拠が見れるよ」
「証拠?」
看板に促されて、俺は住民たちを見た。
彼らは空白となった地面を見ていたが、徐々に言葉を纏い始める。
「うそ……だったのか?」
「俺たちは、騙されていた」
「神なんて…………いなかったんだ」
その声たちは、信仰を失った者の虚無から、ゆるりと実のある熱へと変化していく。
そしてその熱は、俺が望まぬ世界を照らし始める……。




