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世界が滅びたので看板を片手に旅に出ます  作者: 雪野湯
第四章 似非宗教の世界

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第15話 偽りの神

――祭壇


 祭壇ではぴっちりスーツの男が自己陶酔の極みと言わんばかりに、大仰な身振り手振りを交え語る。

「神の目は誤魔化せぬ! 信仰に疑義(ぎぎ)を挟む者など見逃さぬ! さぁ、祈れ! 信ずる者は救われる。天の門が開かれる」


 スーツの男の後ろに光の扉が現れる――すると、住民たちは歓喜の声を上げ始めた。

「おおお、天への道」

「身を捧げることで、安寧を得られる場所」



 安寧……じゃない! あるのは、彼らを搾り取る場所。

 そんな場所へ――――行かせてたまるものか!!



「耳を貸すな! 彼らは神を偽る者たちぞ!」



 民衆の最後列(さいこうれつ)。そこから俺は高らかに声を上げた。

 一斉に数千の瞳が俺に寄る。

 視線という圧力――しかし、この感覚を俺はどこかで覚えている。

 もっと大勢の前に立った感覚がある。

 そんな記憶なんて、一欠けらもないのに……心が覚えているような気がする。



 だから、恐れもなく言葉を続けられる。

 俺はそれらしく尊大に顎を上げ、告げる。


「神の名を語る異端者よ! 去るがいい!! ただ、去れば、神の慈悲により罰は与えぬ!!」


 民衆はどよめき、俺と男を交互に見つめて、首を振っている。



 スーツの男に向かって、俺は片手を伸ばしてカッコつける。同時に、パジャマ姿はさすがに威厳はないよなぁ、とちょっぴり後悔していた。


(ポイントを消費して、それっぽい格好してからにすればよかった。でも、この姿もまた、ここの住民から見れば奇妙に見えるだろうから、いっか)



 ぴっちりスーツの男は予期せぬ俺の来訪に驚きを隠せないようで、言葉を取り乱した。

 その狼狽ぶりは、信仰を揺さぶるための格好の材料となる。

「な、何者だ!?」

「はははは、これは驚いた。何者かと問うのか!? 神は全てを見ているのではなかったのか!!」

「――うっ!」



 よし、崩れた。

 しかし、猶予を与えれば反論を生む。だから畳みかける!

「聞け、多くの者たちよ! そこの男はこう言った。神は空にあり、全てを見ている。では! 神は天に座するのに、なぜ、激しい風雨によって我らを苦しめる! 神は全てを見ているのに、なぜ、盗みを止めない!」


 どよめきがざわめきへと変わる。

 スーツの男が慌てて声を生もうとしたが、それを俺は許さない。

「だ、黙れ――」

「罪を語れば清められるというが、語らぬ者と何が違う? 神は全てを見ているのに、なぜ、語らせる必要がある!」


 俺は瞳を神官へ向ける。

「なぜ、神の声は神官だけを選ぶ。なぜ、神の言葉はいつも同じ者にだけ届く。なぜ、神の恵みは、村の者すべてに与えぬ。神は平等ではないのか!?」



 矢継ぎ早に突きつけられる問いに、スーツの男は反論できずにいた。

 代わりに彼は、感情に任せた大声を上げた。


「黙れ! 神を疑う背信者よ! 見よ、神の怒りが空に満ちているぞ!!」



 蒼天だった空が、瞬く間に曇天に包まれていく。

 風が唸り始めて、雨が肌を叩き、雷が地面を焼く。

 住民たちはこれに恐れおののき、ひたすらスーツの男と神官たちに向かい、祈りを捧げ始めた。

 

 スーツの男は高らかに笑い、こう俺に言葉を投げつけた。

「これが神の怒りだ! 疑う者には災いが降(くだ)る!」


 これに対して俺は冷笑を浮かべつつ、こっそり看板に話しかける。

「ねぇ、ずるくない? どうやってるか知らないけど、たぶん科学技術かなんかで天候を操ってる感じ?」

「そだよ」


「困ったなぁ……そうだ、善行ポイント! これで対抗できない? 雲を割いて、太陽の光が届く? みたいな感じのを一つ」

「できるけど、お高いよ」


「どのくらい?」


「相手の装置を無効化して、空を操る。一時的なものとしても、700ポイントくらい使うね」

「たっか! でも、200P残るか。よし、やってくれ!」


「え、本気? 食べ物の購入をケチるくらいなのに、こんなことに大枚をはたくなんて」

「こんなことじゃねぇだろ! 命がかかってんだよ!!」

「君の命でもないのに?」


「いいからやれ!」

「はいはい」


 俺は空へ指先を掲げる。

「神の怒りだと!? 真の神ならば、怒りではなく導きで示すべきであろう。天よ、静まれ!!」

「まいどあり~、善行ポイント700P消費。残り200Pで~す」



 看板は、俺の身を切るような痛みを気にする様子もなく、暢気に数字を更新している。

 ムカつくが、今は無視!


 

 ポイントが消費された途端、雷雨は収まり、曇天から光の筋が降り注ぎ、暖かな太陽が顔を見せる。


 その姿を目にした住民たちは、驚きに息が止まった。

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