第15話 偽りの神
――祭壇
祭壇ではぴっちりスーツの男が自己陶酔の極みと言わんばかりに、大仰な身振り手振りを交え語る。
「神の目は誤魔化せぬ! 信仰に疑義を挟む者など見逃さぬ! さぁ、祈れ! 信ずる者は救われる。天の門が開かれる」
スーツの男の後ろに光の扉が現れる――すると、住民たちは歓喜の声を上げ始めた。
「おおお、天への道」
「身を捧げることで、安寧を得られる場所」
安寧……じゃない! あるのは、彼らを搾り取る場所。
そんな場所へ――――行かせてたまるものか!!
「耳を貸すな! 彼らは神を偽る者たちぞ!」
民衆の最後列。そこから俺は高らかに声を上げた。
一斉に数千の瞳が俺に寄る。
視線という圧力――しかし、この感覚を俺はどこかで覚えている。
もっと大勢の前に立った感覚がある。
そんな記憶なんて、一欠けらもないのに……心が覚えているような気がする。
だから、恐れもなく言葉を続けられる。
俺はそれらしく尊大に顎を上げ、告げる。
「神の名を語る異端者よ! 去るがいい!! ただ、去れば、神の慈悲により罰は与えぬ!!」
民衆はどよめき、俺と男を交互に見つめて、首を振っている。
スーツの男に向かって、俺は片手を伸ばしてカッコつける。同時に、パジャマ姿はさすがに威厳はないよなぁ、とちょっぴり後悔していた。
(ポイントを消費して、それっぽい格好してからにすればよかった。でも、この姿もまた、ここの住民から見れば奇妙に見えるだろうから、いっか)
ぴっちりスーツの男は予期せぬ俺の来訪に驚きを隠せないようで、言葉を取り乱した。
その狼狽ぶりは、信仰を揺さぶるための格好の材料となる。
「な、何者だ!?」
「はははは、これは驚いた。何者かと問うのか!? 神は全てを見ているのではなかったのか!!」
「――うっ!」
よし、崩れた。
しかし、猶予を与えれば反論を生む。だから畳みかける!
「聞け、多くの者たちよ! そこの男はこう言った。神は空にあり、全てを見ている。では! 神は天に座するのに、なぜ、激しい風雨によって我らを苦しめる! 神は全てを見ているのに、なぜ、盗みを止めない!」
どよめきがざわめきへと変わる。
スーツの男が慌てて声を生もうとしたが、それを俺は許さない。
「だ、黙れ――」
「罪を語れば清められるというが、語らぬ者と何が違う? 神は全てを見ているのに、なぜ、語らせる必要がある!」
俺は瞳を神官へ向ける。
「なぜ、神の声は神官だけを選ぶ。なぜ、神の言葉はいつも同じ者にだけ届く。なぜ、神の恵みは、村の者すべてに与えぬ。神は平等ではないのか!?」
矢継ぎ早に突きつけられる問いに、スーツの男は反論できずにいた。
代わりに彼は、感情に任せた大声を上げた。
「黙れ! 神を疑う背信者よ! 見よ、神の怒りが空に満ちているぞ!!」
蒼天だった空が、瞬く間に曇天に包まれていく。
風が唸り始めて、雨が肌を叩き、雷が地面を焼く。
住民たちはこれに恐れおののき、ひたすらスーツの男と神官たちに向かい、祈りを捧げ始めた。
スーツの男は高らかに笑い、こう俺に言葉を投げつけた。
「これが神の怒りだ! 疑う者には災いが降る!」
これに対して俺は冷笑を浮かべつつ、こっそり看板に話しかける。
「ねぇ、ずるくない? どうやってるか知らないけど、たぶん科学技術かなんかで天候を操ってる感じ?」
「そだよ」
「困ったなぁ……そうだ、善行ポイント! これで対抗できない? 雲を割いて、太陽の光が届く? みたいな感じのを一つ」
「できるけど、お高いよ」
「どのくらい?」
「相手の装置を無効化して、空を操る。一時的なものとしても、700ポイントくらい使うね」
「たっか! でも、200P残るか。よし、やってくれ!」
「え、本気? 食べ物の購入をケチるくらいなのに、こんなことに大枚をはたくなんて」
「こんなことじゃねぇだろ! 命がかかってんだよ!!」
「君の命でもないのに?」
「いいからやれ!」
「はいはい」
俺は空へ指先を掲げる。
「神の怒りだと!? 真の神ならば、怒りではなく導きで示すべきであろう。天よ、静まれ!!」
「まいどあり~、善行ポイント700P消費。残り200Pで~す」
看板は、俺の身を切るような痛みを気にする様子もなく、暢気に数字を更新している。
ムカつくが、今は無視!
ポイントが消費された途端、雷雨は収まり、曇天から光の筋が降り注ぎ、暖かな太陽が顔を見せる。
その姿を目にした住民たちは、驚きに息が止まった。




