第119話 太陽神会議の顛末
――会議(語り部アスカ)
太陽神会議でワシは、おぬしら兄弟喧嘩にムキになった神々を吊るし上げる予定じゃったのじゃ。
神にとって『あるまじき行為じゃ!』とな。
そして、それを実際に行って、もう周りの太陽神は何も言い返せずにしょんぼりで傑作だったぞい!
あの生真面目で口うるさいラーも、今回ばかりは、ワシに何も言い返せなくての!
じゃが、突然ゼウスの奴がこう言い放ったのじゃ。
「あの騒動にはアスカの弟子が参加していたそうじゃないか。つまりは貴様の眷属。間接的に介入したではないか?」
という、とんでも屁理屈を投げつけてきおった!
そこでワシはこう言い返す。
「弟子ではあるが眷属ではない。ワシは人間の自由を求める。ユニは自由意志の下で、自分で判断して参加したのじゃ」
「しかしだ、彼女はクローンであっても人だ。それも、勢力に属さぬ個人。そんな人の子を、あのような危険な場に参加させて良いのか?」
「ぬ、ぐぐ……」
「どうやら貴様は、自由と無法を履き違えているようだな」
「なんじゃと!? おぬしこそ、安全という枷で人から自由を奪っているのではないか!」
と、ゼウスとワシがバチバチにやりあっておったのじゃが……周りの太陽神は、ゼウスの意見に一気に傾いてしまったのじゃ。
――宇宙
俺と看板はその理由を尋ねた。
「なんで? 双方ともに一理ある状態で、拮抗していると思うけど?」
「うん、まだ趨勢が決する場面じゃないね」
アスカは人差し指同士をくるくる回しながら、消え入りそうな声を漏らす。
「それがの……調子こいて他の太陽神を吊るし上げておったから、あっさり味方不在になってしもうたのじゃ……」
「あ~……」
「これは半分以上、自業自得だね」
「自業自得と言うではない! もともとはゼウスの屁理屈が――」
「そうですか、なかなかの切り込みだと思いますけど。やりますね、ゼウス様」
「「「――っ!?」」」
突然の少女の声。
俺たち三人は驚きと共に、一斉に振り返った。
――そこには、理を司る錬金術師ミュールの姿が!?
彼女は物理法則が全く違う宇宙で、さも当たり前のように存在していた。
何事もないように人差し指を顎に当てて、ゼウスを評価している。
「アスカさんの言い分を直接受けては分が悪い。だから、弟子であるユニさんの振る舞いから、話の扉を開けた」
彼女はさらに深く神々の心に触れる。
「ヘーリオス様やアポロン様が出席しなかったところを見ると、アスカさんの吊るし上げを先読みして、ゼウス様に頼ったというところでしょうかね」
冷静に分析を行う彼女とは裏腹に、俺たちは震える言葉を漏らす。
「な、なんで存在できるの?」
「こ、ここは君がいられる場所じゃないのに?」
「い、いや、その前にミュール。どうやってここへ来たのじゃ!?」
「あ、それなら、あっち」
二本の人差し指をピッと向けた。
そこにはアスカが通ってきた次元の通路があった。
その通路を指さしながら、ミュールは言葉を続けた。
「もうすぐお夕飯なので、アスカさんを呼びに行ったら、お部屋に空間を開けた形跡があったので、どこに遊びに行ったのかなと思って、追いかけてきました」
「いや、何度も言うとるが、それは神専用で……しかも、今回は通常空間とは全く異なる通路で――」
「私、めちゃくちゃ頑張りましたから」
ミュールは脇を締めて、ぐっと拳を握る。
その姿を目にして、アスカは言葉を紡ぐのをやめた。というか、諦めた。
代わりに、俺と看板が言葉をつなげる。
「いや、通れたとしても、この宇宙で、君は存在不可能なんだぞ」
「構成する分子そのものが全く異質で、訪れた瞬間、消失するはずなのに……?」
「それはすっごく大変でしたので、すっごく頑張りました!」
そう言って、再びぐっと拳を握る。
俺と看板とアスカは、同じ言葉をぽつりと落とす。
「「「そっか、頑張ったなら、仕方がないね……」」」と
――――――――
ミュールという存在を常識の枠に嵌めようとすると、俺たちの方が狂ってしまう。
彼女のことは例外として処理しようと、俺たちの気持ちは一致した。
その例外な存在ミュールは、アスカに続きを促している。
「では、結局、ゼウス様にやり込められたんですか?」
「残念ながら流れはもう変えられぬ。なので、搦め手を使うことにしたじゃ」
「なんです、それは?」
「ゼウスの最新浮気情報を、ヘラに流したのじゃ」
俺はヘラについて、確認のような問いを投げかけた。
「ヘラってたしか、ゼウスの妻で、めちゃくちゃ嫉妬深いって聞いたけど?」
「その通りじゃ! ワシはスマホでこっそりヘラと連絡したのじゃ。ゼウスの奴めが流暢な日本語で、なんぞ戯言を語っておったが、ワシがカップ麺を用意して、お湯を入れて出来上がったころに、ヘラが扉を破壊する勢いで現れたのじゃ」
アスカは自身の口を押えて、含み笑いを見せる。
「ぷふふふ、あの時のゼウスの姿は見ものじゃったぞ。真っ青での。ぷふふふふふ」
「ひでぇな」
「ひどい」
「ずるいですね」
「やっかましい! 向こうが屁理屈で来るなら、こっちは勝てる場で戦うだけよ。ともかく、ヘラの激高は凄まじいものでの、神々が集まる場所でありながら、地獄の様相を呈したのじゃ」
「具体的に、ヘラはゼウスをどうしたんだ?」
「ぼっこぼこじゃ! ワシがカップ麺を食べ終わる頃にはゼウスは、ゼウス? になっておったぞ。ワシの勝ちじゃ、くははははは!」
腹を抱えて笑うアスカ。俺たちは目を糸のようにしつつ、角を突き合わせる。
「勝ったって言えるのか?」
「テーブルを投げ飛ばしただけだよね?」
「まぁ、アスカさんらしいと言えばらしいですけど……」
「うるさいぞ! ともかく、ざまぁはできてよかったんじゃが、肝心の吊るし上げは行えずに消化不良での。せっかく、吊るし上げられる者の気持ちを、味わわせてやろうと思うておったのに――ギリギリギリギリ」
アスカは再び歯軋りを始めた。
とりあえず、話は一段落ついたので、改めてアスカに用向きを尋ねてみるとしよう。




