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世界が滅びたので看板を片手に旅に出ます  作者: 雪野湯
第二十一章 リョウのいない世界

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第117話 短き会合

 恋に悩む乙女を置いて、アスカは一歩前に出た。

 草原は消え去り、闇が周囲を包む。


 アスカは何もない場所に向かって、言葉を走らせる。


「無の神じゃな?」

「ピンポ~ン、大当たり~」


 軽薄で、アスカよりも幼い少女の声が響く。

 だが、言葉の端々に底なしの冷たさが滲む。



 アスカは闇へ、小さなため息をぶつけた。


「はぁ、時々名が挙がっておったが、今になって登場とは何用じゃ? ワシの方は、おぬしなんぞ興味ないぞい」

「もう、つれないなぁ~。ちょっとした宣戦布告をしにね」


「ふん、勝ち確(かく)の戦(いくさ)を、混迷にして楽しむつもりのようじゃが……ワシは参戦する気はないので、布告など知らんわ」

「じゃ、伝言を頼むね」

「ワシはパシリか! じゃが……」


 アスカは辺りを見回す。

(ワシにすら姿を認識させぬとは……さすがは無の神。無の扱いについてはワシを超えるか)



「あれ、どうしたの? 考え事?」

「そうじゃの~、おぬしをどうやって消そうか考えとるところじゃよ」

「ええ~ひっど~い。アスカちゃんは他の神と違って、私好きなのにぃ」

「何故じゃ?」


 この問いを発した途端、何もない無の空間に、物質的な痛みを覚える鋭利な冷たさをアスカの肌は感じ取った。



 口調は軽薄なまま、なんら変わらないのに、無の神の言葉の一つ一つにささくれだった棘がつく。


「他の神は、私のことを馬鹿にしてたからね。神のくせに何も生み出せない、何も壊せない。何もない無の神だって。アスカちゃんはそんな風に馬鹿にしなかったから、好き」



「……ふむ、おぬしは嫌いな神に復讐をするつもりか?」


「そうだねぇ~、あの少年が管理者の力……『運命の力』に触れた時、それを観察してた私は多くの情報を手にした。その情報をもとに、私は創造と破壊の力を手に入れた……その力は無と交わり、今では、神々(あなたたち)を遥かに超える!!」


「ゆえに、復讐か」

「ぶっぶ~大外れ~。私がやりたいことは、全てを一にすること……」

「零領域にワシらを押し込めて、一にするのか?」

「それも大外れ~」

「では、答えはなんじゃ?」



「それはね……私という一つの意思だけが残る世界! それ以外は全部、私の中に溶けるの。神も世界も――すべてが、ね……」



 多種多様な思いが交じり合うことで、世界を形作る宇宙を真っ向から否定する思想。

 しかし、アスカは興味なさげに答えを返す。

「ふむ、そうか」

「あれ、反応が薄い?」


「好きにすればよい。じゃが、ワシの生活の邪魔をするつもりであれば、容赦はせんぞ」

「邪魔って?」


「戦いのせいで停電を起こして――ネット回線切断とかなったら激おこじゃ!」

「あははは、やっぱりアスカちゃんっておもしろ~い! だからこそ一緒に遊びたいのに」


「この阿呆(あほう)めが……」

「へ?」



 アスカの気配に冷たさが混じる。それは殺気でも怒りでもない。

 下らぬ行いを前に、心から急激に熱が失われているだけ……。


「おぬしは、ワシを舐めておるじゃろ」

「舐めてないよ。今のアスカちゃんは枷付きのよわよわだけど、本気を出せば、今の私でも、結構、てこずるし」

「どうやら、おぬしはワシが関わる真の恐ろしさを理解しておらぬようじゃな。ワシは、無法じゃぞ」

「わかってるよ、だからこそ一緒に――」



「【笠鷺燎(かささぎ りょう)】――オリジナルの少年の名前じゃ!」



 それはただの名前。

 だが、空間がひび割れたような錯覚が走り、無の神の言葉に恐怖が宿る。 


「ちょっと、それは!!」

「ああ、誰も彼の名を口にせぬ。それはできぬからじゃ。【笠鷺燎(かささぎ りょう)】を恐れてな!」



「二回も! やめてよ、何が起こるかわからないじゃない!!」


「そうじゃな、燎(りょう)は力を放棄した。しかし、奴の力は魂に根付いておる。力あるモノが燎(りょう)の名を呼べば、その力に感応し、再び力を宿すやもしれん。そうなれば、誰も止められん。全てを超えし存在として、【笠鷺燎(かささぎ りょう)】は再び現れる!」


「だから、名前を呼ぶのは――」

「ワシが関わるということは、この程度の禁忌など躊躇なく踏み越えるということじゃ!!」

「ひぅ!?」



 無に揺らぎが宿る。それは無の神の感情……つまり、恐怖。


「去(い)ね。ワシとて、燎(りょう)を再び戦場に立たせたいと思うてはおらぬ。愛弟子の柚迩(ゆに)とユニが、悲しむことになるじゃろうしな……」

「……わかった。こっちで勝手にやる。私、あなたのこと嫌いになったかも。冷たいし。仲良くなれると思ったのに」


「こういった出会いでなければ、冷たくはせぬよ。普通に遊びに来る分は歓迎じゃ。ミュールがお茶と菓子を振舞ってくれるじゃろうて」

「ミュールちゃんをこき使ってる。かわいそう~」


「いいから、はよ去(い)ね」


「はいはい、じゃあ、伝言の方は頼んだね~。バイバ~イ」

「ま、まて、パシリには使う気なのか――」


 闇は消えて、暖かな木の家を抱く巨木が現れる……アスカはミュールの家を見つめ、小さな安堵の吐息を漏らす。

 次に、自身の手のひらを見つめた。

 

 それは、水に濡らしたかのようにぐっしょりとしていた。



「このワシに冷や汗をかかせるとは……あやつらの戦いに巻き込まれれば、ミュールとて無事ではすまぬじゃろう。ワシが守ってやらねばな……」


 アスカは手にふっと息を吹きかける。すると、手は小さく愛らしい白い手に戻った。

 パンパンっと両手をはたき、いつもの調子を取り戻すようににんまり笑顔を生む。


「ふっふっふ、そんなことよりも太陽神会議じゃな! 兄弟喧嘩に、神とあろうものが躍起になってからに。クククク、楽しみじゃあの~。吊し上げてやるぞい。いっつもはワシがひどい目に遭っておるから――仕返しじゃ、仕返し! くくく、はははは、あ~ははははははは!!」


 家の窓が開く。

「アスカさん、うるさいですよ! ご近所迷惑! 謝罪行脚に行きますか!?」

「――ひっ! す、すまんのじゃミュール。なので、謝罪行脚だけは勘弁なのじゃよ……」


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