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世界が滅びたので看板を片手に旅に出ます  作者: 雪野湯
第二十一章 リョウのいない世界

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第116話 理解を超えた瞬間

 リョウと共に新たな世界を育む選択肢――


 だが彼女は、その選択肢を前に、戸惑いを嫌悪へと変えた。



「あんな世界――俺が望んだ世界じゃない!!」

「ほう、怒るか。ならば、おぬしが望む世界とはなんじゃ!?」


「俺が望んだ世界……それは、お前たちが生み出した宇宙に――あの人の想いを乗せた世界だ!」

「あの人?」


「――リョウだ! あいつはすごかった。ちっぽけな存在のくせに、俺の力に触れて、とても短い時間だったが、見事に操った。どうすればそんなことができる? あいつはすごい。あいつの想いの力はすごい。とても矮小な存在とは思えない!」



 突(とつ)として、感情を爆発させた管理者に、今度はアスカが戸惑いを見せる。

「管理者よ、どうしたのじゃ?」


 しかし、アスカの声は管理者に届かず、彼女は……彼女が理想としていた世界を語る。

「この宇宙には、リョウのような素晴らしい存在がたくさんいると思っていた。だから興味を抱いた。興味は純粋な力だった俺に、意識をもたらした! そして、この宇宙を基礎として、リョウの強き魂が反映した宇宙に、身を浸すつもりだった。だけどな――!!」



 彼女は大地を蹴り上げる。

「俺が生み出した宇宙に生まれたのは、リョウとは全くかけ離れた下らぬ存在! 弱く、愚かで、それでいて傲慢。それらはお前たちの宇宙となんら変わらなかった!! だから消した! 俺の求める世界じゃなかったから!!」


「……それで、次に求めたのは、何だというのじゃ?」


「俺はリョウだけが特別だと知った。だから、リョウの模倣体を生み出して、この宇宙を観測させることにした。あの人の目から見て、この宇宙をどう変えるべきかを考えるつもりだった。それだってのに! 俺はあんな偽物に負けたんだぞ!! くそ、くそ、くそ!!」



 管理者は苛立ちを隠そうともせずに、ひたすら大地を踏みつけ続ける。

 その足もやがては静まり、彼女は瞳から輝きを消して、こう言い放つ。


「もう、どうでもいい。俺は再び、純粋な力へ戻る。意思もなく、ただの力に……」



 この言葉――そして、彼女の態度……これにアスカは眉をひそめたかと思うと、次には眉根(まゆね)を下げる――と思いきや、今度は眉を大きく跳ねた。


「もしや……のう、管理者よ。おぬしが求める世界は、オリジナルのリョウの想いが反映した世界だったのじゃな」


「……そうだ。そうだ。俺はあんな凄いやつを知らない。でも、俺は拒絶された。だから、あの人の想いを受けた世界が欲しかった。そうすれば、ずっとあの人といられる……」



 そう言って、管理者は愛おしそうに両手を胸において、ぐっと握りしめた。


 その仕草に、アスカは大笑いする。

「かかかかかか! そうか、そういうことじゃったのか!! これは盲点じゃったの!」

「な、なんだよ、急に?」

「いやいやいや、やはり神生(じんせい)縛りプレイはよいの~。全知であれば、この驚きを得られんかったわい!」

「だから、何の話をしてるんだ?」


「クククク、たしかにおぬしはリョウに興味を抱いた。しかしの、それは観測対象としてではない」



 アスカは管理者を見つめ、ふっと息を吸い込んだ。

 その瞳に、確信の色が宿る。

 そして、愛おしむような慈愛をその表情(かお)に湛(たた)え、一編の詩を謳う。



「触れらぬ小さなきらめきが、瞬(またた)きより速い衝動となって駆け抜け、乾いた器を荒れ狂う熱で満たしていく」



「突然……何を言っている?」


「この詩にはの、自己認識・創造。そして、一つの純白な想いが込められておる。そして、その想いこそが、おぬしがおぬしであると足らしめたもの」



 アスカはゆらりと手を動かして、人差し指をビシッと元管理者に突きつけた!

「おぬしはな、リョウに――――恋をしたのじゃ!!」


『恋』と告げられた瞬間――草原の風が止まり、世界が息を潜めた。


「こ…………い…………?」


「そうじゃ、恋じゃ! 看板がかつて言っておったの、神とは恋だと。おぬしはリョウとの出会いに胸がキュンっとしたのじゃ! その揺らぎが意思を生み、おぬしをおぬしたらしめた。リョウはまさに、恋を創生した、おぬしの神じゃったわけじゃな。くはははははは!!」


 アスカの笑い声が草原に広がる。



 その声を受け取ることもなく、管理者は自分の想いに向かい、頬を淡く紅潮させて、そっと震える指先を胸に置いた。

「恋? 俺が……リョウに? バカな、恋なわけが……でも……しかし……だけど……っ」


 管理者は立ち尽くし、形まとわぬ感情に手を伸ばしては、空虚に手を空(す)かすを繰り返す。



――理解から想いに、心が揺れ動いた瞬間。



 彼女の姿をにんまり笑顔で見つめ、アスカはこう言葉を置く。


「ふふ、どうやら意思を消すのはまだまだ先になりそうじゃな。おぬしには無限の時間がある。ゆっくりと自分の気持ちに……恋について悩むがよい」


 柔和であり、だけど少しだけ羨ましげな微笑みを見せる。

「恋の悩みは苦しかろう。じゃがな、心が何色にでも染まれる、幸せな時間でもあるのじゃぞ」

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