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世界が滅びたので看板を片手に旅に出ます  作者: 雪野湯
第二十章 管理者の世界

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第109話 静寂の別れ

――――会談の場・草原


 勝鬨(かちどき)の声を収めると、枯れた喉に異物感を覚えて、軽く咳き込む。

「ごほっ」

「大丈夫、リョウ」

「ああ、看板。大丈夫さ」


 俺は看板へ一度顔を合わせてから、草原の上で気を失っている管理者を見下ろす。

 彼女の体からは小さな粒子が舞い上がり、ゆっくりと姿を虚ろなものとしていく。


 無数の粒子が揺らぎ、絡み合い、消えていく。

 最後の一粒が消滅すると、管理者の痕跡は何もなく、ただ、草たちが風にたなびいていた。


 俺は自身の両手を見つめる。

 血染めだった拳は真っ新となり、血を零し続けていた鼻も、衣服に染み込んだ血も消えてなくなる。


 いつものパジャマ姿の俺。


 初めて俺が俺として、認識した時の姿。

 だけど――決定的に違うものがある。


「体中に力が満たされている。これが、管理者の力か」

「おかしなところとかないの?」

「ないな。派手に力が溢れ出すってのもないし、ごく当たり前って感じだ。そうか、人にとってみれば巨大な力でも、管理者……今の俺からすれば、息をして吐く程度の力なんだ」


 

 低次元の存在が管理者を殴り勝利した。あってはならない事態。

 その齟齬を修正するために、俺が管理者の力を上回った存在となる。

 だけど、そこに派手な演出なんて全くない。


 姿形は変わりないけど、力を持った俺がいるだけ……。


 俺は妹たちがいる宇宙を見つめる。

「もう、あの場所にはいられない。俺は……立ち去らないと」


 管理者=またの名を『運命』と呼ぶ力。

 純粋な力の塊だった存在はオリジナルの俺を知り、興味を抱くことで自我を得た。


 世界を知り、生み出したいと感じた。



 だけどうまくいかず、オリジナルの模倣体である俺を生み出して、監視役に、やはりオリジナルの心を宿した看板をつけた。


 オリジナルのリョウの思考を持った俺たちの目を通して、己が望む世界を知ろうとした。

 だが、その先にあったのは……。


「看板」

「うん」


 看板が数字を刻む。


――汚染率570%――


 この宇宙を0%とすれば、俺が管理する世界はあまりにもかけ離れた世界。物理法則そのものが全く違う、この宇宙とは隣り合うことすら許されない危険な世界。


 決して、相容れぬ世界同士……。


 交わり合えば、異なる力同士がぶつかり合い、どうなるか誰にもわからない。

 だから、行かないと……。


 この宇宙から視線をスッと切った。名残惜しめば、涙が溢れる。

 そうなる前に、俺は――。


「行こう、看板」

「ねぇ、リョウ」

「なんだ?」


「君は一人じゃない。僕がいる。ずっと僕がいる。だから……涙を流してもいいよ」

「……そうか、そう……ありがとう、看板」


 瞳は滲み、すぐに涙が落ち始める。

「あああ、はぁ、くそ、離れたくない。みんなともう会えないなんて、いやだ……くそ、くそ……」


 涙を流せば、俺は耐えられない。そう思っての強がりだった。

 でも、俺には涙を受け止めてくれる友がいる。

 その友のために、俺は涙を拭い、無理やり笑顔をつくる。

「行こうぜ、相棒」

「うん、どこまでもついていくよ!」

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