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世界が滅びたので看板を片手に旅に出ます  作者: 雪野湯
第二十章 管理者の世界

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第107話 決着――兄弟、会する

――――光の階段広場



 ミュールとメルはモニターに齧りつくようにへばりつき、荒れ狂う感情を隠そうともしない。

「なんですか、これ!! こんなの完全にルール違反でしょう!!」

「ええ、リョウさんは勝利していた! それなのに!!」


「兄弟喧嘩はこれがあるからの」


 高ぶる感情の尾根に、アスカはさも当然といった風(ふう)に言葉を吹き下ろす。

 ミュールとメルはその言葉を睨みつけた。

 だが、アスカのそばにいたヤマタノもミシャも、アスカと同じように無色の装いを見せる。


「理不尽なのは当然の仕様なの~。もともと、管理者は『付き合ってあげていた』だけだからなの~」

「……絶対強制の力。初めから『そうだ』とさせる力。管理者はこの力を行使して、リョウさんを……」



「納得できません!!」

「私もです!!」


 ミュールとメルはそれぞれポーチと魔導杖(まどうじょう)を構える。

 二人はこの理不尽な結末に介入するつもりだ。

 

 その姿を、アスカは笑う。

「くはははは、威勢が良い二人じゃのう」

「笑い事じゃありませんよ! たとえ、アスカさんが止めても私は止まりませんからね!!」

「力及ばずとも、私も同じです! 高位存在の方々には理解できないでしょうが、積み上げたものを蹴り崩す行為を、私は黙って見ていられません!」



「うむ、まったくもってその通りじゃ!」

 アスカはパンッ!っと手を打って、二人に同意した。


 予想だにしなかった答えに驚く二人へ、アスカは苦笑のような微笑みのような、なんとも形容しがたい笑みを浮かべた。


「兄弟喧嘩は理不尽じゃなぁ~。じゃがの、その理不尽さは、管理者にも圧し掛かるものじゃぞ」

「アスカさん?」

「一体、何を?」


「フフ、この兄弟喧嘩にはまだ……足らぬものがある」


 言葉という無風流な音を止めたアスカは、リョウたちの物語の結末を黄金の瞳で優しく見守る。



――――会談の場・草原


「あ、あ、あ、あああ」

 管理者から溢れ出す、無色の波動が俺という存在をあやふやにしていく。

「名前が……思い出せない。俺は……誰だ?」

「君はリョウだ! リョウなんだ!」


 看板が文字を書き綴る。

 俺の名前と思(おぼ)しき名を刻み続ける。

「君はお調子者だけど、責任感があって、とても優しい! 答えのない問題を前に逃げ出さず、自分だけの答えを見つけ出すことのできる、勇気ある男なんだ、リョウ!!」



――黙れ――



「︿/\︿╱\︿︹︿╱﹀╲/╲︿_/︺╲」


 管理者の一言で、看板から文字が奪われる。

 

 看板を中心に、鮮烈だった草原の色はセピア色に染まり、それは俺の足元まで広がり、呑み込んでいく。

「そ、そんな……看板……看板……おねがいだから、お願いだから……俺の名前を呼んでくれよぉぉぉ……」


 看板は必死に抗(あらが)い、何かの文字を刻もうとする。

「∽~∽~∽~∽~∽~∽~∽~」


 だけど、刻めない!!


「ああ、そんな、そんな……」

「フフ、いい様だ。では、この茶番劇の幕を下ろすとしようかね。お前は……」

「や、やめろ。やめてくれ!」


 視界が歪み、景色が溶けていく。色が失われ、暗闇がジワリと迫ってくる。

「嫌だ、嫌だ、嫌だ! 俺は消えたくない!!」


 俺は昏く染まる闇に、手を伸ばす。

 その闇の向こうに、白い影が見える


 それは管理者の背後にあるもの。

 管理者はそれに気づかずに、俺を消し去ろうとした。


「お前は、初めから、この世界に、存在しな――」



――おいおい、そいつはずるいだろ――



 がしりと、背後にいた白い影が管理者の肩を掴んだ。

 それは管理者が模倣し、興味を持ち、焦がれた存在――。


 管理者は悲鳴交じりに、影の名を呼ぼうとした!


「――なっ!? お、お前は――『笠』――リョ――」


 しかし、言葉は最後までつながらず、彼女が放っていた禍々しい無音の衝動だけが世界から消え去った。

 

 その瞬間、俺の拳に想いが戻った!!

 拳には太陽よりも熱く眩い黄金の輝きが宿る!!

 光は波動となって爆発的に広がり、草原の緑、拳に纏わりついた血の赤、俺と看板の姿と、色を失った世界を歓喜の色彩(しきさい)に染め上げていく。


「拳に……今なら!!」


 俺は一気に駆け出した。

「サンキュー、もう一人の俺!!」

「くそがぁあぁあ! だがな――」


 管理者の右手が動く。

「右手の痺れはもう消えている! お前の拳が届く前に俺の拳が――」



「させない!!」


 

 風切り音とともに、平たい何かが飛んできた。

 そいつが管理者の右手にぶち当たる。


「看板!」

「ほら、防御も大事だろ!!」

「だな! こいつで終わりだぁ!!」

「終わらせるものか! 僅かだ、力は戻っている!」


――その拳は絶対にあたら

 

『心は水面(みなも)に。映る永遠(とわ)の世界。触れるは扉』


 俺は――管理者の言葉を上書きしてやった!


 彼女は驚愕に瞳を開き、なぜか涙を滲ませた。


「な、その詠唱は――あのリョウが得意としていた、空間の魔法!!」

「先にルールを破ったのはお前だ、こっちも破らせてもらうぜ!! ――隔絶(かくぜつ)しせり境界の結(ゆ)わいと成りて、ここに新たな道を開かん!」



 拳の前に、紫色の空間の裂け目が生み出される。

 その裂け目を前にして、管理者は悲鳴を上げた。


「無の世界へのアクセス! そこは、そこは――」

「ああ、想いを具現する世界だ! この会場以上にな!!」

「や、やめろぉぉおぉ!!」


「くらぇえええ、管理者!!」

 

 裂け目を破る拳に、想いを創造へと変える危険な力――『無』が宿る。

 だがそれは、俺の最高最強の武器だ!!



「俺たち(・・・)の、勝ちだあああああああ!!」



 ありったけの想いを乗せ、黄金と紫の魔力が溶け合う拳を振り下ろした。

 その拳は管理者の頬を深くえぐり込む。

「がああ!」

「吹きとべぇえええ!!」


 自分の拳がミシミシと音を立てて、骨に痛みが走る。

 管理者の頬が砕け、奥歯が抜け落ちる感触が伝わる。


「おらああああああ!!」

 拳を叩きつけるように、思いっきり振り抜いた。

 

 管理者は顔面から草原にぶつかり、一度激しくバウンドしてから、緩やかに落ち、四肢全体を地面へ預けた。

 ピクリともしない管理者を見下ろし、暴力という官能的かつ原始的な欲求が雄叫びとなって溢れ出す。



「うおおおおおおおおおおおおっぉぉぉぉぉぉ!!」


 血に染まる拳を掲げて、俺は喉奥枯れるまで叫び続けた。

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