第102話 言葉
――――会談の外側・光の階段前
リョウと管理者のやり取りをモニター越しで見ていたミュールが、ポップコーンを片手に憤慨していた。
「あいつ、嫌な奴ですねぇ~」
「それ、ポップコーンをぱくつきながら出す言葉じゃありませんよ」
そう窘めてきたのは、連邦のミシャ。
ミシャは新緑の虹彩に封じられた黒の瞳を動かし、ミュールから視線を外す。
外した先にはメルたちがいた。
不安そうにリョウを見守るメルのそばで、ヤマタノはタイ焼きを片手に日本酒をあおっている。
ヤマタノとミュールの様子に、ミシャは小さなため息を漏らす。
「相も変わらず、自由な方々と言いますか……ですが」
さらに瞳を動かす。
そこには腕組みをして、物静かにリョウと管理者を睨み続けているアスカの姿があった。
いつになく静かなアスカに気づいたミュールが彼女へ話しかける。
「どうしたんですか、アスカさん? 妙に静かですけど? レトロゲーに投じたクレカの支払いに後悔でも?」
「それは後悔しとらん。メガド〇イブのコッ〇ン湯呑付きのおかげで今月の予算をオーバーしたが……それはさておき、ワシは管理者のやり口を見て、いろいろ考えておっただけじゃよ」
「あの振る舞い、ムカつきません? ネチネチと追い詰める感じで」
「…………」
「ん、いつものアスカさんなら同意してくるはずですけど? まさか、海賊版を掴まされました? メガド〇イブは多いと聞きますし」
「掴まされるか! 神の目を舐めるでない!」
「でしたら、なぜ?」
「まぁ、たしかにねちっこいが、管理者はリョウが用意した人間という土俵で勝負しておるだけじゃからな。今のところ、対等の勝負じゃし、文句は言えんじゃろ」
「対等、ですか?」
「うむ、対等じゃよ。管理者がいま武器としてつこうておるのは、人類が手に入れた最も強力な武器じゃからな」
「それはなんですか?」
アスカは二本の指を左右に広げ、小さな口元を伸ばすように押さえた。
「言葉じゃ」
「言葉?」
「そうじゃ、言葉じゃ。言葉は人間が手にした強力な力じゃ。言葉は相手に意思を伝えることができる。その思いを伝えることで、相手の心を癒すこともできる。じゃが、逆に……」
ミュールはモニターへ視線を動かし、顔を垂れ下げて地面を凝視しているリョウの姿を見つめる。
「傷つけることも可能、ですか……管理者が行っているのは、言葉を武器として、リョウさんの心を傷つける行為、と?」
「そういうことじゃ。あの世界は想いが支配する世界。リョウの心が折れれば、それはつまり敗北じゃからな」
ミュールはアスカから再びモニターへ視線を移す。
そこにあるのは、痛みに顔を歪め、流れ落ちていく血から熱を失う恐怖に震えるリョウの姿。
「だから、わざと言葉で、丁寧に丁寧に痛みを認識させているというわけですか。そうして、恐怖を肥大化させて、立ち上がれないようにするために……」
「その通りなんじゃが、フフ」
アスカはリョウを見下ろす管理者の姿を見て、小馬鹿にした笑みを見せた。
「管理者はリョウと違い、オリジナルの記憶と経験まで所持しておる。ゆえに強い。あやつの格闘技術の前では、リョウの拳など児戯に等しい。じゃが、管理者は人間の心をよく知らぬ愚か者」
アスカは勝利を確信した管理者の姿を黄金の瞳に映し、くすりと笑った。
「ふふ、言葉は恐ろしい刃じゃな。どんな名刀よりも切れ味が鋭い。じゃが、それは――諸刃の剣よ」




