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冬弥と別れた春陽は、悶々としながら来た道を一人戻った。
(まさか、だったな。私にはまだまだ知らないことが多すぎる)
衝撃的な言葉の数々がまだ消化不良で、春陽のお腹の底に溜まる。これを消化していくのは時間がかかりそうだ。
思わずため息が漏れる。
(だが、これで雪花殿を救えるかもしれない)
手がかりを得たのも事実だ。確実ではないが、何もしないより試してみることに価値はある。
(そうとなれば、早く戻ろう)
雪道に春陽の足跡がついていく。むぎゅ、と足を進めるたびに重い音が鳴った。一歩一歩、前へ。足を掬われないように確実に。一歩進むたび、雪花への想いと覚悟が肩に乗っかっているような気がした。
開けてきた場所まで辿り着くと、和正の声が微かに聞こえた。突然消えた春陽を血相を変えて探しているに違いない。
まぁ、突然消えたのは和正たちの方だが。
「そんな必死にならなくても、私はここにいる」
茂みを掻き分け顔を覗かせれば、青白い顔の和正と目が合った。普段落ち着いている和正の焦りように、春陽は苦笑いを浮かべた。
「どこに行っていたんですか……生きた心地が……」
大袈裟なくらい大きなため息を吐く和正を横目に、春陽は馬にまたがり、早速帰る旨を指示した。突然の指示に、和正はぶつくさ文句を言いつつも、即座に対応する。
「もう良いのですか? 全く急に出向くと言ってみたり、帰るといってみたり…… 今回の目的がさっぱり分からないのですが」
「早急に戻ろう」
「はぁ、承知しました」
馬を進めようとした時だった。遠くから蹄の音と春陽を呼ぶ声が雪の中に響く。雪に覆われた静かなここらに大きく聞こえるその声に、春陽たちは動きを止めた。
「……春陽さま……!」
こちらに向かってくるのは、一人の側仕えだった。しかし、彼は天華宮で留守を頼んだ一人だ。なぜここに、しかも一人で出向いたというのか?
猛烈な速さで駆けつけた側仕えは、馬を降りると、息も絶え絶えに春陽の前に跪いた。
「……っ留守を、お預かりしましたのにっ、申し訳ございません」
「なにがあった」
「っはい、あの、取り急ぎお伝えしなければならないことが」
「なんだ?」
「……天華宮にて、雪花さまが拘束されました」
「……は?」
開いた口が塞がらなかった。だんだんと眉間に皺が寄る。
「誰の指示でそうなった」
自分でも驚くほど冷たい声だった。伝えにきた側仕えは何も悪くない。むしろ、伝えにこんな北まで来てくれたのだからありがたいはずなのに、つい、冷たく言い放ってしまう。
「しゅ、主上の命にございます」
気圧された側近が、身を引きながら答える。その返答に春陽は腑が煮える思いだった。
「くっ……!」
思い切り歯噛みする。もし、自分が天華宮から離れていなければ、こんなことにならなかっただろうかとよぎるが、後の祭りだ。
闇妖兵、兄の話を聞いたばかりだからか、嫌な予感が頭を駆け巡る。
(雪花……どうか無事で……!)
春陽は手綱を握りしめた。出血してしまうのではないかと錯覚するほどに。強くきつく。
「速攻、天華宮に戻る」
「承知しました」
溢れ出る怒りをなんとか鎮めながら、春陽一行は、帰路を急ぐのだった。




