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 大きな音に驚いた帝と側近の視線が突き刺さる。帝は雪花を見た瞬間、思い切り顔を歪めた。


「は、なぜここに」


 その問いに答えず、雪花は前に進んだ。無礼だとは承知だが、縁側から庭に立つ帝を見下ろす。


「……今のお話は本当でしょうか?」


 物を凍らせてしまいそうな冷たい目が帝を捉える。

 雪花は怒っていた。

 自分の感情を抑えることを忘れるほどに。


「お前には関係ない事だろう。なぜそんなに腹を立てている」


 確かにそうだ。雪花はこの件に関して関係ない。いや、雪花の呪いのせいで赤子が死んだと夕凪に訴えられたが、今はそんな事どうでも良かった。


「確かに関係はありません…… しかし、命を、そんな簡単に……」


 命を軽んじている帝に無性に腹が立った。大切な人を理由も分からずなくす辛さを雪花は知っている。

 だからこそ、自分勝手な理由で子どもを流したと聞き、冷静ではいられなかった。

 鼻息が荒くなり、身体中が熱くなる。雪花は必死に歯を食いしばって怒りに耐えた。


「ふん、ほっとけ。ここは私の天華宮ぞ。誰がどうなろうと私の勝手だ」


 そっぽを向き、帝が言い放った途端,どこからか不気味な音が響いた。

 地の底から何かが湧き上がるような轟音。それに伴って、地面が揺れた。


「うおっ!」


 小さかった揺れはどんどん大きくなり、同時に晴れ間が差し込んでいた空も、黒く厚い雲で覆われ始めた。

 そして、じわじわと地面に、木々に、建物に細やかな雪が吹き付け、氷づけにしていく。


「主上! 大丈夫でございますか?!」


 側仕えは帝の前に立ちはだかり、国で最も偉い人を守ろうとするが、手も足も出ないようだった。

 庭が波打つ中、雪花だけは縁側の上でしっかりと立つ。怒りで眉を吊り上げる彼女は堪えていた物を吐き出すように、帝に向かって言い放った。


「……人の命を、なんだと思っていらっしゃるのですか!!」


 まるで雪花の声に反応したように、轟音を伴いながら、地面の中から太い氷の刃がいくつも顔を出した。

 先が鋭く尖り、空にも届きそうな勢いで出てきたそれは、雪花と帝の間に氷の壁を作った。刃の先は帝を向いている。 


「……は」


 帝は間抜けな声を上げ佇んだ。雪花の力を見て、理解が追いつかないようで間抜けな顔をしている。


「っはぁ、はぁ……」


 怒りを抑えきれず、思い切りぶちまけてしまった雪花は、ぺたりとその場に崩れ落ちた。凄まじい力を使ったからか、なかなか息が整わない。胸に手を当てて呼吸することだけに集中した。


「……これは、なんだ……?」


 帝の震える声が耳に入った。とうとうやってしまった。公の場で力を発動させてしまった。

 だが、もう後に戻ることもできないし、呼吸が整わない今、説明することもできない。


「あれはなに?」


「ど、どいうこと……?」


 いつの間にか庭には、轟音や揺れに驚いた人々が集まり、氷の刃を見て顔色を悪くしていた。

 何があったのかとざわつき、事が大きくなっていく。


「ば、化け物!!!」


 顔を青くした帝は、雪花を指差しそう叫んだ。その声につられて、人々の視線は雪花に集まる。


「あ、あいつがこの氷を出したんだ! 私はこの目でしっかりと見たぞ。あいつは氷を操る、呪われている化け物だ!」


 帝の大声に、誰もが息を呑んだ気配がした。そして恐ろしいような物を見る目つきで、雪花を見る。


「こ、こんな近くに化け物がいたとは……! ここに置いておけん! 牢にでも閉じ込めておけ!」


「はっ!」


 帝の命で、数人の側仕えが雪花を取り囲んだ。そして強引に腕を掴み、立ち上がらせる。

 ほぼ力を使ってしまった今の雪花には抵抗することはできなかった。ぐったりした表情でされるがままに立ち上がる。


「ゆ、雪花さまっ!」


 人を掻き分け、琴乃が駆け寄ってきたのが分かる。目に涙をためて、こちらに手を伸ばすも、別の側仕えに止められていた。


「申し訳ございませんっ、私が離れてしまったばかりに……」


 琴乃の悲痛の叫びが雪花の背中に届いた。


(ごめん、なさい……)


 連れて行かれる雪花の視界に映ったのは、涙を流す琴乃と、氷の刃、氷で閉ざされた天華宮内、それから目を見開き固まる日乃子だった。

 

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