第十八話・松山駐屯地
自衛隊の表現で間違いがある箇所があるかもしれません。
もし、見つけられた方がいましたらメッセージでも書き込みでもよいので連絡していただけると嬉しいです。
「大変です! やられました!」
ノックもせずに飛び込んできたのは、中居松山市長の秘書、小林である。
「小林君、一体どうしたんですか」
「大阪に続いて、京都が」
「京都が?」
「そうです、政府がまたやったんです」
小林の言葉に、頭を抱える中居。
「一体、この国はどうなっているんだ」
中居は苦悩した。だが、彼には悩む時間さえ無かった。
「感染者は、京都方面と岡山方面に向かっているとの情報が……」
ため息をつく中居。
小林は、恐る恐る中居の顔を伺う。
すると、先ほどとは違い、悟りでも開いたように穏やかな表情を向ける中居。
「ど、どうされました?」
小林に向き直り、ゆっくりと頷く中居。
「小林君、車を用意してください」
「くるま……ですか?」
小林には中居市長の考えがまるで解らなかった。連日の職務で、頭がどうにかなってしまったのだろうか。それとも、既に諦めていて、何処かへ逃げようと言うのだろうか。
しかし、中居の答えは肯定的な内容だった。
「松山駐屯地に行って、私から直接頼んでみるよ」
「駐屯地ですか?」
「そうだ、感染者から松山市民を守れるのは自衛隊しかないからね」
「しかし、協力してくれるでしょうか?」
「それしか、我々が生き残る道は無い」
松山駐屯地は、市街地から離れた所にあった。 田畑に囲まれ、周囲には民家が数軒しか無い場所は、駐屯地を構えるのには絶好の環境だ。
県道334号線から、松山駐屯地とかかれた看板を右折する黒塗りのセダンがあった。
そのセダンは、小道を進み、駐屯地入口でゆっくり停車した。
「どの様な、ご用件でしょうか」
入り口を警備する若い自衛隊員が、ピシッとした物言いで質問した。
「松山市長の中居です。黒木一等陸佐にお話がありまして」
「少々お待ちください」
無線機で確認をとる隊員。
その様子を後部座席から見つめる中居市長。
直ぐに結果は出た。門が開いたのだ。
「黒木駐屯地司令がお待ちです」と若い隊員。
ほっと胸を撫で下ろす中居市長。
運転する小林秘書が、後部座席を見て「良かったですね、市長」と緊張感を保ちつつ笑みを浮かべた。
しかし、これからが正念場だ。中居は松山市民51万人、いや、四国に住む400万人の命を背負っているのだ。
中居市長らを乗せた車は先導車に導かれ、駐屯地の内部へと進入した。
内部には沢山のトラックや戦車がならんでいる。
車列は、広いグラウンドを横切り本部隊舎の前で停車した。
市長達が車を降りると、直ぐに自衛隊員が迎えにきた。
「中居市長、ようこそいらっしゃいました。黒木駐屯指令がお待ちです」
中居市長はスーツの襟をピシッと締め、案内されるままに隊舎へと入っていった。
駐屯地の本部隊舎は簡素なものだった。そこが、自衛隊の施設だと知らされなければ、古い学校と勘違いしてしまう程である。
市長に同行している市役所の職員達は、初めて目にする駐屯地に目をキョロキョロさせどうも落ち着かない様子である。
「こちらで、お待ちください」
一行は、小綺麗な応接室に案内された。
物珍しそうに部屋を見回す職員達。
壁には、歴代の駐屯指令の写真やトロフィー、賞状が飾られていた。
「お待たせいたしました」
部屋に入ってきたのは、制服姿のいかにも自衛官といった出で立ちの男であった。
「早速ですが、黒木一等陸佐、実は急を要する事がありまして」
「急、ですか」
「そうです」
「中居市長、一体どういう事でしょうか」ソファに腰かける黒木。
「今や、大阪に続いて、京都も感染者によって支配されています」
「その事は、私たちも把握しています」
「次は四国です」
「ご安心ください。自衛隊は日々、この様な事態に対応すべく訓練に励んでおります」腰かけたまま、身を乗り出す黒木。ソファがミシミシと唸る。
「では、何故に京都を見捨てたんですか?」中居は、危機感の無い黒木に少し怒りを感じた。
「我々は見捨ててはいません」
中居が合図をすると、小林秘書が、スーツケースから一枚の紙を取り出す。
その紙をゆっくりと黒木の前に差し出す小林。
「これをご覧ください」
「どれどれ」と受けとる黒木。
一通り目を通す為、文字を順におっていく。
「こんな事が……」
読み進めるうちに先ほどとは顔色が悪くなる黒木。
「この資料はどこから?」
「秘書の小林君に政府のデータベースを調べてもらったんです」
何度も紙を見返す黒木。
「我々は、こんな報告受けておりません」
「てっきり、知っているものかと思っていました」
「いや、これが本当だとすると四国はもうじき感染者で溢れ変えるでしょう」
「黒木一佐、助けてください」
中居市長は、立ち上がると深々とお辞儀をした。
「中居市長、どうか顔をあげてください」
中居市長はゆっくりと顔をあげる。
「いいですか? 我々が動くと言う事はクーデターと同じ事なのです。したがって勝手な行動は許されない」
「そこを何とか」
中居市長は急に正座になり、深々と土下座をした。
「中居市長、やめてください」困り果てる黒木。
しばらく沈黙が続いた。黒木は黙って顎に手をあてている。
「わかりました。善通寺とも協議してみます」
中居は、手をついたまま『ありがとうございます』と言い、もう一度深く土下座をした。
黒木の言った善通寺とは愛媛の隣、香川県にある善通寺駐屯地の事である。
松山駐屯地が主に愛媛県を防衛警備するのに対して、善通寺は香川県、及び四国四県を担当している。
愛媛はもとより四国を守る為にはどうしても善通寺駐屯地との協力が必要なのだ。
善通寺が協力する、それは即ち四国の陸上自衛隊が協力すると言う事を意味するのだ。
「それでは、善は急げです。早速善通寺へ向かいましょう」
黒木一等陸佐と中居達は陸自の用意したマイクロバスに乗り込み、一路、善通寺を目指した。




