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第十五話・京都医学大学

話タイトルを変え二部構成にする事にしました。

今回は、自分の大好きな某スペクタクルミュージカルをリスペクトして書いています。もし、判った人は教えてね。

 洋介達が道後温泉で疲れを癒しているまさに同じ時、大阪から押し寄せた感染者により古都京都は大パニック状態になっていた。


「早く、荷物をまとめろ!」


 混乱のさなか、政府のウイルス対策室が設置されていた京都医学大学では、烏丸教授率いる研究チームが脱出の為、研究資料をかき集めていた。


「くそっ……あと少し時間があれば」烏丸は実験途中の資料を段ボールに摘めながら呟いた。


 かけ足音と共に、緑の迷彩服に身を包んだ大男が研究室に駆け込んできた。


「脱出まで三時間だ!」


阿武隈三佐(あぶくまさんさ)! もう少し時間を!」駆け寄る烏丸。


「烏丸教授、京都はもうじき落ちる。脱出のチャンスは今しかない!」


 青ざめる烏丸。


「落ちる? 落ちるってどういう事ですか!」烏丸は大男の胸ぐらを掴むが、びくともしない。


「政府が研究室の放棄を決定したんだ! 京都はまもなくアンデッド達に占領される」


「市民の避難は?」


 阿武隈は一瞬イヤな顔をした。


「俺は、お前達を守るのが任務だ。他に構ってはいられない。さあ、早く荷物をまとめろ!」


「じゃあ、僕らだけコソコソ逃げるって事ですか?」


「もう京都は駄目なんだ! 俺だって国を守る自衛隊員だ。国民はもちろん大事だ。しかし、今は俺一人の力じゃどうにもならんのだ」


「僕は行かない……」阿武隈に拒否反応を見せる烏丸。


「教授、いいですか? あなたの研究無くして日本は救えない。救えなかった人達の為にも、今は生き残ってください!」


「人ひとり救えなくて、何が自衛隊だ……」目を赤くする烏丸。


 絶望感に襲われ、烏丸はその場に座り込んでしまう。

 その時、烏丸の携帯が震えた。


「出ないのか?」と阿武隈。


「どうせろくな電話じゃないですよ」


 しゃがみこんだまま、烏丸はポケットから携帯を取り出した。

 美香……

 着信名を見て、烏丸は呟いた。


「美香?」首を傾ける阿武隈。


 ハッとする烏丸。


 「美香、美香なのか?」


 急いで通話ボタンを押す烏丸。


「もしもし、美香。会いたかったよ」


 電話口から、聞こえてきたのは拍子抜けした声だった。


「どうしたの後城ごじょうくん? そんな声して」


「明日……逢いにいくから」


「えっ、明日?」と、また拍子抜けした声。


「ああ、仕事でね……東京に行く事になったんだ。だから、明日逢えるよ」


「明日? 私、もう京都に着いちゃったよ」


 烏丸の脳にガツンと衝撃が走った。


 「ちょっと待ってくれ。今、何て言った?」


 烏丸は別の解答を期待した。今のは自分の聞き間違えだ。そうに決まっていると心の中で叫んだ。

 だが、返ってきた解答は、同じものだった。


「だからね、新幹線で京都に着いたとこなの」


 青ざめる烏丸。


「きょ、京都だって?」


「だって、大阪は閉鎖されてるから京都どまりなのよ」


 半分泣きながら、立ち上がり阿武隈に倒れ掛かる烏丸。

 涙で、阿武隈の迷彩服が染みのように濃くなる。

 阿武隈の迷彩服を掴み、体重を支える烏丸。


「お願いです! 美香を、美香を助けてください」


「そんな時間は無い」と払いのける阿武隈。


「美香を助ける。それが僕が行く条件です」


 一体どうなっているのか。緑の大男には何が起きているのさっぱり解らなかった。


 「美香は、僕の大切な人なんです! 彼女は東京にいる筈だった。だけど、仕事で中々逢えない。だから彼女からこっちに……」


 阿武隈は、その泣きじゃくる青年の姿を見た。

 何時も研究室で見せていたあの凛々しい姿は何処にも無く、まるでびしょ濡れの子犬でも見ているようだ。

 彼の目に力は無く、魂が抜け出たようだ。


「京都御所に文化財を運ぶ為の仮設基地が有る。京都駅から一番近いのはそこしか無い」


「あ、ありがとうございます!」


 烏丸は携帯を耳にあてた。


「美香、聴いてるか?」


「もー、何時まで待たせるのよ」


「ゴメン! 今から言う事を良く聞くんだ」と、話を切り出す烏丸。


「なに?」


「今すぐ京都御所に向かうんだ。そこなら安全だ」


「ねえ、わかんないよ。何なの一体?」


 またやってしまったのだ。

 首相官邸の時も、結論を急ぎすぎた為に反感を買ってしまった。その事をふと思い出す烏丸。

 順序よく説明する為に頭を整理しながら深呼吸をする。

 心臓の鼓動で体が勝手に動きそうな程であったが、深呼吸をすると、すーっと音が遠のいていくのが解った。


「僕は今、政府の仕事をしているんだ。大阪からどんどん感染者が向かってきてるんだ。だから、政府は大阪に続いて京都の放棄を決めた」


「そんな、嘘でしょ?」電話の向こうから、かすかに声が聴こえた。


「僕はウイルス研究のリーダーだ。隊員に君を助けてもらう。良いかい? 京都御所に向かうんだ。そこに自衛隊の基地がある。駅からだと地下鉄ですぐだ」


 阿武隈が「地下鉄はよせ!」と烏丸から電話を取り上げる。


「陸自の阿武隈三佐です。烏丸教授の護衛をしています。美香さん、良く聞いてください。地下鉄は使わないでください。感染者と接触する可能性が有ります。京都駅からだと、烏丸からすま通りを烏丸御池からすまおいけの方に向かってください。京都御所が見えたらまた連絡を」


 携帯を烏丸に渡す。

 それに飛びつく烏丸。


「僕もそっちに行くからね」


「解ったわ、まっ……る」


「どうした?」


「きょ……ごしょ……い…………ね……」


 プチっと音が鳴り、受話器からはツーツー音が響く。

 烏丸は再び電話をかけ直すが、繋がらない。

 何度も同じことをするのを見かねた阿武隈が、携帯を持った腕をそっと掴む。


「大丈夫、彼女ならきっと」


 そこに、研究室のメンバーが集まってくる。


「いってください!」


「ここは、俺らがやりますから」


 研究員の一人が訴えた。


「阿武隈さん、烏丸室長は頑張りました。少しくらい我がままを聞いてやってください」


 それでも、怪訝な顔をする阿武隈。


「はやく、美香さんの所に!室長なしでも俺ら準備くらいはできますから」


 しばらくの沈黙の後、シワを作りながら微笑む阿武隈。


「君だけじゃ心配だ、俺もついていくよ」


「ありがとう、みんな、ありがとう」


 烏丸は、阿武隈と共に研究室を飛び出していった。



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