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第十一話・広がる脅威

「ここが、松山か。なんか、想像以上にのどかだな」

と、金子が三津浜の町並みを見ながら答えた。


「ここは街の外れだからね。真ん中の方は栄えてるよ」


 金子が下した松山の評価に修正を加える洋介。


「ホンとかねぇ」


「本当だよ。街はもっと内陸にあるんだってば」


 松山市民は自分達の街に誇りを持っている者が少なくない。洋介にとっても同じで、特に田舎と言われるのが我慢ならないのだ。

 市の人口は50万人を越えているにも関わらず、中心市街には高層ビルが存在しない。

 これは市内中心部の山頂にそびえる松山城の景観に関する条例の為だ。 その事もあり、松山は規模に関わらず小ぶりな町並みなのだ。



「とにかく、松山は良い所なんだよ!」


 そこへ、ボートの荷物を運び終えた清二達がやって来た。


「洋介、久しぶりの松山はどうか?」


「変わり無い様子だね」


「洋介君は何年ぶりに帰ってきたんだい?」


「一年以上は帰ってなかったですからね」


「あのー。愛媛って温泉あるんすよね?」


浮かれなが金子。


「あら、その傷どうしたの?」


 金子の手首を見て驚く堀部。


「ああ、これですか。噛まれたんですよ」


 傷口をさする金子。


「犬にでも噛まれたのか?」と、笑い飛ばす清二。


「実は、これ、友達に噛まれたんですよ」


「友達?」


「はい、ウイルスに感染したんですよ、そいつ」


 その言葉を聞いた瞬間、場の空気が一気に凍りついた。金子は清二達の表情が変わるのを感じだ。


「あ、でも、そいつは死にましたから。ハハハハッ!」


 場の空気を和ませようとする金子だったが、それは逆効果であった。


「洋介、離れろ」と、清二。



「お前、まさか…」と、後ずさりする高志。


 金子を中心に円状に後ずさりする清二達。



「ちょっと……皆…どうしちゃったんですか。俺……俺が何かしたって言うんですか」


 ウイルスに感染すると死に至る。洋介も当然その事実を知っていた。テレビで何度も放送していたからだ。

 しかし、合点のいかない所がある。もし、ウイルスに感染しているのであれば洋介達を襲っている筈だ。ウイルスの潜伏期間は数分と言う事もテレビで放送していた。


「だけど、父さん。もし金子が感染してるんだったら僕らを襲っている筈だよ!」


「洋介君の言う通りだわ。潜伏期間はとっくに過ぎている筈よ」


 しかし、矢島の考えは違っていた。


「あのウイルスがどんなに危険か判っているのか!俺の御袋はウイルスに感染して死んだんだ。こいつは連れていけない」


「ちょっと待ってくれよ!俺が何したってんだよ!」


「何もしてないさ」と清二。


 清二は心の中で葛藤していた。もし、自分のせいでウイルスによる感染が増えてしまったら。しかし、洋介の言った事も一利ある。金子は感染者に噛まれたがウイルスに感染していなかったとしたら?


「清二さん、貴方が決めてください。貴方がリーダーだ」


「よし、分かった」と、静かにうなずく清二。


 運命の決断である。金子の命は裁判官でもなければ警察官でも無い。ただの隠居に託されたのだ。



「駄目だ。オイラには彼を裁くことは出来ない。感染してから発症までは数分なんだよな?」


「ええ、そう聞いてるわ」


「それなら彼は大丈夫と言えるな」


「ええ…多分」


「君を連れていくよ。だけど、もし体に異常が出た時は直ぐに言うんだぞ」


「あ、ありがとうございます!」と、涙目になる金子。


 矢島は少し不満そうな顔をしているが、清二の意見に従う事にした。

 清二、洋介、金子、高志、矢島、堀部はこうして無事に松山市まで帰還する事に成功した。

 六人が帰還した丁度同じ頃、四国では新たな動きが起こっていた。

 この動きにより、清二達の運命は翻弄(ほんろう)される事になる。

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