第十話・追撃
かもめ埠頭を出発してから約12時間が経過した。
フェリーは愛媛県、今治市に差し掛かった所である。
今治市はタオルと造船産業が有名な町である。
造船産業は日本屈指の規模を誇る。タオルに至っては国内生産量の殆どを占めている。
操舵室では清二が缶コーヒーを飲みながら、矢島と矢島と雑談していた。
「確か、今治って黄色のキャクター居たよな」
「良く知ってますね。確か、でっかいヒヨコのやつですよね」
「名前なんだっけなぁ。思い出せないや」
「えっと…確か」
考えながら、後方の窓から景色を眺める矢島。
「えっと……」
その時であった。
矢島は視界に光る物体を捉えたのだ。
「清二さん、あれ、何でしょうか?」
コーヒーを片手に、矢島の見つめる方角に目をやる清二。
「ん?」
確かに遠くではあるが、キラキラと輝く二つの物体が見えている。
「まさか!」
急いで首からさげていた双眼鏡を覗く清二。
「どうしたんですか?清二さん」
大声で「逃げるぞ!」と叫びながら清二は矢島の腕を掴み、無理矢理に操舵室から引っ張り出した。
「どうしたって言うんですか!」
「説明は後だ!直ぐに荷物を水上バイクに繋げろ!」
「わ、わかりました!」
矢島は階段を降り、休んでいた堀部の元へ駆け寄った。
「逃げるぞ!」
「に、逃げるって?どういう事よ」
「良くわからんけど、清二さんが水上バイクに荷物を繋げろって」
「解ったわ。脱出ね」
そう言うと堀部はデッキにあったカバー付きの荷物の所へ飛んでいった。
「みんな、手伝って!」
「今度は、なんすか」と目を擦りながら高志がアクビをする。
「とにかく、そこのカバーをはずして!」
何が起きているかは分からないが、堀部さんの顔つきからするにトンでもない事態だと洋介には感じた。
そこへ、清二と矢島が駆け付ける。
「時間が無い!」
「準備は出来たか?」
「大体は出来たわよ」
清二が最後のカバーを勢い良くめくると、二台の水上バイクが姿を現した。
「かっけー」と、高志。
清二は堀部に水上バイクキーを投げた。
「オイラと洋介はこっちにのる。残りの四人はそっちに任せるぞ」
堀部の水上バイクには荷物用のボートが繋いであった。
「高志君と金子君はボートに乗って」
ボートに飛び乗る二人。
清二は壁に駆け寄り、フェリーの跳ね上げ式の乗降口のスイッチを押した。
「先に行け!」と海を指差す清二。
勢い良く飛び出していく水上バイク。それにつられて強制的にボートが連れていかれた。
「次はオイラ達だ!」
清二は海を見た。
先ほど見た光る物体はどこに行った? と、辺りを見回すが太陽が眩しく確認が出来ない。
しかし、それは向こうから現れた。
ロケットのような音が聞こえたかと思うと、清二の目の前に光る物体が急接近した。
"もうだめだ!"
次の瞬間、物体は煙と轟音を撒き散らし、急上昇した。
清二と洋介は、水上バイクに飛び乗った。
清二はエンジンを噴かした。
「掴まってろ!」
「えっ?」
清二は、イジェクトと書かれたレバーを蹴った。
勢い良くレールの上を滑る水上バイク。
清二がレバーを蹴ったのと同時に真上から、物体は降ってきた。そして大爆発を起こした。
レールを滑走する水上バイクに炎が迫る。
積んでいたトラックが爆発しタイヤが清二達よりも早く海の方へ飛んでいった。
間一髪、炎より水上バイクの方が僅かに早かった。
海へ侵入すると清二は、アクセルを全開に噴かした。
二人を逃がさまいと、腕を伸ばすかのように伸びる炎。
しかし、炎が清二達を飲み込む事は無かった。
洋介が後ろを振り替えると、今まで運んでくれた"ふぇりー瀬戸"が、爆発とともに斜めに傾いていく様子が見えた。
普段は見せる事の無い船底を見せながら、浸水していく"ふぇりー瀬戸"
堀部が、ゆっくりと接近してきた。
「自衛隊の奴、諦めてなかったのね」
後ろのボートでは高志と金子が荷物と一緒にひっくり返っていた。
「だから、俺を殺す気かって!」
「ゴホッ…ゴホッ。愛媛まだぁ~?温泉は~?ミカンは~?」
鼻笑いをする堀部。
矢島は堀部にしっかりとしがみついて目もつむっている。
「矢島さん。もう終わったんですよ」
「ん、え?」
「もう安心よ」
ゆっくりと目をあける矢島。
「また、助けてもらったね。ありがとう」
「あの、それより。そろそろ手、離してもらえませんか?」
「あっ、ごめんごめん」と、焦る矢島。
矢島はしっかりと堀部の胸を握っていた。
「さっきから、掴みっぱなしなんですケド」
慌てて手を離す矢島。
「よーし、陸を目指すぞ!オイラについてこい!」と、水上バイクを噴かす清二。
堀部も「捕まってて」と、後ろの3人に合図をした。
「矢島さんも、掴まってて」
「え?」
「腰に廻したらいいでしょ」
「あっ、そうだな」と腰に手を廻す矢島。
堀部は、3人の準備が整ったのを確認した。
そして高志達に聞こえないように「柔らかかった?」と、矢島の耳元で囁いた。
「え?」
矢島が焦るのを背中で感じながら、堀部良子はスロットルを捻った。
今治市から松山市までは数十キロとさほど遠くは無い。
フェリーと車を失ったが、大事な荷物だけは何とか運び出す事が出来た。
三津浜港に入港したのは18時過ぎであった。
清二達は、瀬戸内汽船のドックに水上バイクを係留した。
今回はハリウッド映画によくある脱出シーンに仕上げてみました。
後、清二のキャラクター補正をしたので、徐々に他の話数も体裁も含めて直していきたいと思います。




