『座標』
特定の座標を入力した際に場所が特定できない現象が確認されている。
座標そのものにおかしな点はなく、場所自体も実在している。その地点周辺には普通の繁華街が広がっており、地点そのものは大手飲食チェーンの店舗を指している。
この現象は約4年前から確認されており、これまでにも、運営にはかなりの頻度で不具合の報告が寄せられていた。
しかし、この不具合の詳細については報告者ごとに異なることが多く、そのことが現状把握を少なからず妨げている。
以下にその報告の例を挙げる。
・通常の方法で店舗名を入力。検索ボタンを押したところ、一瞬画面が硬直した。すぐに回復したが、目的地は表示されておらず、検索ボックスも空欄のままになっていた。
・現在地周辺の飲食店検索により、店舗を確認。詳細を確認しようと拡大したところ、地図が消え、読み込みを始めた。数秒で読み込みは終わったが、勝手にズームアウトされ、日本列島が全て見えるほど引いてしまった。同様の操作をもう一度行ったが、検索にその店舗は二度と表示されなかった。
・ユーザーが実際に目視で、その建物を認識できる位置で地図を確認したところ、店舗の存在を確認できなかった。ただし、施設があることを示すマークは確認できた。その詳細はすべて空欄になっており、建物名は"空白"と記載されていた。
これらの報告はとある地図アプリのユーザーによって報告されたものであるが、他の地図アプリでも同様の現象が確認されており、その原因については調査中である。
また、該当地点に位置する店舗を運営する企業より苦情を受けており、早急な対策が求められる。
◆ ◆ ◆
「はあ。先輩、また苦情が来てます。今度は見知らぬ山奥に誘導されるそうです」
『またか。いったい何が悪いんだろうな。バグも見つからなかったし、強行策で上から手入力したものを被せてるのに』
「試してみましたけど、被せた部分が真っ白になってます。テスト環境では上手くいったのにな。なんででしょう」
『なあ。……冗談として聞いてほしいんだが』
「なんですか?」
『あの辺りさ、再開発されたんだよ。元は空き家が並んでて』
「はあ。そうなんですか」
『そうそう。でさ、その場所にめっちゃ荒れ果てた神社?があったんだよ。手入れとかも全然されてなくて』
「……あー、神様が怒ってるんですかね」
『いや、違うな。教えてくれた人が言ってたんだが、そこに神様はいないそうだ。空っぽだったんだよ』
「……じゃあ祟りでもないじゃないですか」
『山に誘導されるって言ったな。あれは元々そういう仕掛けらしい』
「え?」
『あの地域はなんか祟られてたんだろうな。だからそれを止めるために偽の座標に誘導するようにした』
「あの地域自体を呪いから隠すために?」
『ああ。元々あった神社と同じものを山の中に作り、御神体を移動させた。空っぽの神社によってあの地域は外部から隠蔽される』
「空っぽなのに? 流石に作り話ですって」
『だから言っただろ。冗談として聞けって』
「……あ。でもあの辺って飲食店が潰れやすいですよね。立地がいいから、すぐに新しいのが建ちますけど」
『……確かに』
「ですね」
『……仕事に戻るか。どう対応する?』
「もう、仮想的に場所を作りません? 別の座標にその地区を再現して、その地区を表示させるときにはそっちに移動させれば。海の上とかなら大丈夫ですよね」
『……次のエラーは太平洋上に謎の町が表示されるってことになりそうだな』




