『断片』
(注1)これは音声記録を文字起こししたものである。友人グループ内で共有されていた過去問データなどに紛れ、この音声ファイルが保存されていた。声の主やその記録者は不明である。
(注2)なお、文字起こしにあたり、一部内容が欠損している可能性が否定できない。音声データの一部に強いノイズが存在しており、その部分は記録者が推測で内容を補完している。
以下がその記録である。
……ですから、断片というのは危険なわけです。情報を聞く上で肝心な情報を入手できなくなるという当たり前の話です。
例えば私の講義を聞いていないでゲームをし、その後で、友人にどんな授業だったと聞いたとします。彼、彼女はこう答えました。
『あー、つまらんかったよ。ただひたすら、情報とかネットとかの話をしてただけ』
あなたはそれで満足してしまいます。
でも実際はネットスラングについて熱く語ってたかもしれません。いや、物の例えですよ。やりませんよ、私は。
このように断片には聞き手の意図しない、不自然なカットが挟まれてしまうのです。今回の例では話し手の感情も含まれていましたね。
このような場合によく例に上がるのが、メディアの切り抜きの話ですね。ほら、政治家が話した内容が都合よく切り取られて、悪者扱いされているシーン、見たことありません? 他には悪意がないカットもありますよね。例えば映画を撮る時に長めに撮り、後でカットを入れて、テンポを調整したりします。
みなさん、今、首を傾げましたね。そう、映画のカットは悪意のある物ではないですよね。危ないとは意味合いが違うかもしれません。
私がお話ししている断片とは、もっと狭義での情報の断片のことです。難しいことを言いますが、"情報として連続しているものを不自然に切ったもの"と私は定義します。
この連続とは何でしょうか。私は内容の繋がりだと思います。簡単な例を出しましょう。
"りんご"という単語があります。ええ、みなさんのよく知る林檎です。
では"りんご"の"り"だけを切り離してください。はい。その"り"だけを見て、あなたは元の林檎を認識できますか?
もっと言えば、"り"という言葉に林檎の要素が含まれているのでしょうか?
違う。そうですね?
ではやっと最初の話に戻ります。
危険とは何なのかです。
みなさんは怖い体験をしたことがあるでしょうか? もちろん、身に危険を感じるようなものもあるでしょう。私が聞きたいのは、ホラーと定義される話についてです。
夏になると、テレビでもネットでもホラー作品が盛り上がりますね。背筋が凍る話で、実際に暑さが和らぐかは置いておきますよ。
怖い録画データがあったとします。こんな怖いビデオが見つかった、とそれを流します。それを再生していくと、化け物が現れて、あなたを見つめている。尤も、映像データですから、あなた自身を認識していないはずです。
映像はドアップの化け物の顔で終わります。不自然なノイズが走り、暗転するわけです。
で。それは全てのデータなんでしょうか?
ただ編集されたわけでなくて?
もしかすると、その続きを意図的にカットしたのかもしれない。
あなたはその薄気味悪い画像だけを見せられて、これで終わりだと突き飛ばされるのです。
呪いというのには手順があります。
適切な場所、準備物、時間などを整えた上で、正しく実行しなくてはなりません。
儀式の大半において、途中抜けは許されません。それは儀式の不完全な成立を意味します。
ごく稀に呪いの性質を反転させるものがあります。途中まで呪いを発動させ、それに呪われる前に性質を反転させるのです。
あなたが得た断片が良いものならそれで構いません。あなたは無事です。
では、あなたの受け取った断片が呪いの本体だったとしたらどうでしょう?
おめでとうございます。
あなたは無事に呪われました。
そうそう。一番良くないのが、音声の断片ですよね。祝詞みたいなのとか、お経とか。普通のやつならいいんですよ。
まあ、無いと思いますけど。
出所の分からない音声データを聞く、とか?
不自然にぶった斬られてたら、最悪ですよ。




